8,人手が足りない
「どうにかしてください」
ライラが言った。
笑顔のままだった。
それがかえって怖かった。
セバチャが静かに顔を上げた。
「どうにか、とは」
「最近、ご主人様のお顔を拝見できるのは食事の時だけです」
「はい」
「三分で終わります」
セバチャが少し間を置いた。
「……さすがに三分はないでしょう」
「三分です」
ライラの笑顔が、少しだけ固くなった。
「三分、ですか」
「三分です」
沈黙があった。
「本当に三分ですか」
「計りました」
セバチャは返す言葉がなかった。
「朝は買い出しの準備です。昼は魔物を狩っています。夕方は来訪者の受付をしています。夜は食事を作って掃除をしています」
「はい」
「全部私です」
「はい」
「一人です」
「……はい」
「ご主人様のお傍にいるために存在しているのに、お傍にいられません」
ライラが静かに続けた。
「どうにかしてください」
セバチャは逃げ場がないことを悟った。
「……承知しました」
───
セバチャはその日の午後、地下の扉をノックした。
返事がないまま扉が開く。
「カキンオー様、少々よろしいでしょうか」
俺は本から目を離してセバチャを見た。
「城の業務が増えてまいりました。ライラ一人では手が回らない状況です。つきましては、人を雇うことをご検討いただけないでしょうか」
人を、雇う。
俺は少し考えた。
人が増える。
知らない人間が城の中にいる。
廊下ですれ違う。
目が合う。
挨拶しなければならない気がする。
気を遣う。
疲れる。
嫌だな。
セバチャが続けた。
「面接はこちらで行います。雑用を担当させますので、カキンオー様とお会いすることはほとんどありません」
ほとんどない、か。
でも、ゼロではない。
「廊下などですれ違うこともあるかもしれませんが、気になさらなくて構いません」
気にしないのも、なんか感じ悪い気がする。
無視するのも、感じ悪い。
かといって話しかけるのは無理だ。
やっぱり嫌だな。
でも、口に出すことはない。
セバチャが必要と判断したなら、必要なんだろう。
本当に嫌になったら、また考えよう。
俺は本を置いて、小さく頷いた。
セバチャが深く頭を下げた。
「ありがとうございます。早速、人選を始めます」
───
セバチャが部屋を出た後、俺は天井を見上げた。
人が増える。
まあ、仕方ない。
でも嫌だな。
ライラとセバチャに慣れるまでも、結構かかった気がする。
また一から気を遣うのか。
俺はため息をつきたかったが、それもなんか負けた気がするのでやめた。
本を開いた。
静かだった。
今のうちだけかもしれないけど。
───
城の二階では。
セバチャが羽根ペンを走らせていた。
求める人材の条件を書き出していく。
口が堅いこと。
体力があること。
命令に従えること。
そしてセバチャは少し考えてから、一つ付け加えた。
カキンオー様の沈黙に動じないこと。
これが、一番難しい条件かもしれなかった。
───
同じ頃、ライラが地下の扉をノックした。
返事がないまま扉が開く。
ライラが夕食のトレイを持って入ってきた。
今日は厚めに切った肉と、根菜の煮込みだ。
「お夕食をお持ちしました」
俺はトレイを受け取った。
ライラがいつもより少しだけ表情を緩めた。
「人を雇っていただけるとのこと、ありがとうございます」
俺は黙って肉を一口食べた。
ライラが微笑んだ。
「もう少し、ご一緒できる時間が増えますね」
俺は何も言わなかった。
でも、肉はいつもより美味しかった気がした。
気のせいかもしれないけど。




