78,決着
デブイはやる気がなかった。
なんとなくついてきた男だった。
しかし二人の女を見た時、口元が緩んだ。
いじめたくなった。
それだけで十分だった。
───
デブイが立っていた。
動かなかった。
来いということだった。
ライラがウォーハンマーを振った。
デブイの右手から魔法が走った。
弾かれた。
ウォーハンマーが弾き返された。
ライラがよろけた。
ユキナが魔法を放った。
盾が展開された。
消えた。
その間に左手の魔法がライラの肩を打った。
続けてユキナの腕を打った。
ニヤニヤしていた。
「弱いな」
楽しそうだった。
───
ライラがウォーハンマーを振った。
右手の魔法が弾いた。
ユキナが魔法を重ねた。
盾に消えた。
同時に左手が動いていた。
ユキナの足を打った。
ライラの膝を打った。
腕を打った。
肩を打った。
なぶるように。
丁寧に。
楽しそうに。
攻めているのに、なぶられていた。
二人がかりで、追いつかなかった。
ユキナが歯を食いしばった。
極大魔法を使えば。
でも分かっていた。
前回、ドラゴンに通じた。
でもこの相手には通じない。
あの時より、強い。
ユキナが壁に叩きつけられた。
ライラが弾き飛ばされた。
二人が並んで壁を背にした。
デブイがゆっくりと歩いてきた。
急ぐ必要がなかった。
───
ライラが息を整えた。
ユキナを見た。
静かな目だった。
「これからすることを」
「え」
「誰にも言わないで」
ユキナが少し止まった。
「記憶もしないで」
「ライラ、何をするつもり」
ライラが前を向いた。
「隙ができたら全力の魔法を」
「何をするの」
「アルティメットモードに移行します」
ユキナが固まった。
「私は十秒だけですが」
ライラが立ち上がった。
デブイを見た。
覚悟を決めた顔だった。
───
ライラの体が、膨れ上がった。
筋肉が、盛り上がった。
全身が、変わった。
ウォーハンマーを握り直した。
デブイが眉を上げた。
「ほう」
ライラが動いた。
速かった。
凄まじく、速かった。
ウォーハンマーが振るわれた。
デブイが右手の魔法で弾こうとした。
砕けた。
弾けなかった。
デブイが盾を三枚展開した。
一枚目が砕けた。
間髪入れずに二撃目が来た。
二枚目が砕けた。
デブイの顔から笑いが消えた。
「なん」
三撃目が来た。
直撃した。
デブイが地面に叩きつけられた。
地面が、割れた。
ユキナが全てを込めた。
極大魔法が走った。
デブイに直撃した。
ズタズタに引き裂いた。
白い光が広がった。
消えた。
───
十秒が、経っていた。
ライラの体が、戻った。
服が、全て破れていた。
膝をついた。
ユキナが腕輪に触れた。
ストレージからローブを取り出した。
ライラの肩にかけた。
ライラが顔を上げた。
二人の顔が、傷だらけだった。
目が合った。
ニコリとした。
それだけだった。
それで、十分だった。
───
カキンオーの城の前。
ドラゴンから降り立った。
城の門が、開いていた。
静かだった。
異様に静かだった。
人の気配がなかった。
ザインが周囲を見渡した。
「罠か」
リオが首を横に振った。
「分からない」
ヴェンが少し後退した。
「嫌な感じがする」
「黙れ」
全員が城の中に入った。
───
廊下が続いた。
長かった。
静かだった。
足音だけが響いた。
突き当たりに、大きな扉があった。
ザインが扉を押した。
開いた。
───
広かった。
天井が高かった。
柱が並んでいた。
豪華だった。
奥に階段があった。
階段の上に、玉座があった。
光り輝いていた。
そこに。
闇の鎧を纏った何かが、座っていた。
肘掛けに肘を乗せていた。
顎に手を置いていた。
動かなかった。
ただ、座っていた。
それだけで、空気が重かった。
ヴェンが一歩後退した。
リオが前に出た。
「お前が魔王カキンオーか」
静寂があった。
それから。
「そうだ」
低かった。
重かった。
威厳があった。
「よく来たな」
立ち上がった。
ゆっくりと。
片手を前に出した。
ゆっくりと、握った。
「褒美に地獄を見せてやろう」
空気が、変わった。




