75,帝国
テイは深く考えない。
帝国が面白そうだと思って来ただけで、それ以上の理由はなかった。
隣のガッシュは短気だった。
気に入らないことがあれば先走る。プライドだけは高かった。
もう一人のノルは冷静だった。
いつも状況を見ていた。感情を出さなかった。
───
三頭のドラゴンが帝国の上空に差し掛かった。
テイが下を見た。
大きな街だった。
城壁があった。
軍が動いていた。
もう気づかれている。
「とりあえず様子を見よう」
テイが言った。
ガッシュが鼻を鳴らした。
「様子見る必要があるか」
「一応な」
「時間の無駄だ」
ガッシュがドラゴンを急降下させた。
「おい」
テイが声を上げた。
もう遅かった。
ノルがテイを見た。
「行くしかないな」
「宣言守れよ、三日後だろ」
「俺に言うな」
二頭のドラゴンが後を追った。
───
帝国の城壁の上で。
カイトが空を見た。
「来た」
モブテキが隣に立っていた。
「三日後じゃなかったのか」
「関係ないんだろう」
カイトが剣を抜いた。
「陛下は下がってください」
「それは聞けない」
「陛下」
「私の国だ」
カイトが少し間を置いた。
「では後ろにいてください」
モブテキが頷いた。
───
ガッシュのドラゴンが城壁に向かって急降下した。
帝国の魔法使いたちが一斉に魔法を放った。
ドラゴンの鱗に当たった。
効かなかった。
ガッシュが鼻を鳴らした。
「地上の魔法など」
城壁の兵士たちが後退した。
そこに、一人が前に出た。
カイトだった。
全身に流れを広げた。
薄く光った。
ガッシュがドラゴンから飛び降りた。
「お前が相手か」
「そうだ」
ガッシュが魔法を放った。
カイトが横に跳んだ。
速かった。
ガッシュが少し止まった。
「地上の人間にしては速いな」
カイトが踏み込んだ。
剣を振った。
ガッシュが後退した。
一歩、後退した。
「なんだ」
カイトが続けた。
ガッシュが魔法を重ねた。
カイトが捌いた。
踏み込んだ。
また後退させた。
ガッシュの顔が変わった。
怒りだった。
「地上の人間に」
低く、押し殺した声だった。
───
城壁の上では。
帝国の兵士たちがテイとノルのドラゴンを相手にしていた。
魔法は効かなかった。
しかし付与剣を持つ兵士が数人いた。
刃がドラゴンの鱗に食い込んだ。
テイが眉を上げた。
「地上の剣が、ドラゴンに通るのか」
ノルが城壁を見た。
「前回の報告書にはなかった」
「増やしたんだろう」
ノルが静かに状況を見渡した。
ガッシュが押されていた。
ノルがドラゴンから飛び降りた。
「テイ、城壁を頼む」
「お前はどこ行く」
ノルはすでに走っていた。
───
カイトがガッシュを押し込んでいた。
息が上がり始めていた。
身体向上は魔力を消費する。
長くは持たない。
早く終わらせる必要があった。
そこに、足音が来た。
ノルだった。
無言だった。
感情もなかった。
ただ、魔法を構えていた。
前にガッシュ。
横からノル。
挟まれた。
ガッシュが口元を歪めた。
「どうした、地上の人間」
ノルが無言で魔法を放った。
カイトが弾いた。
その瞬間だった。
ガッシュが踏み込んだ。
カイトの腹に直撃した。
吹き飛んだ。
城壁に叩きつけられた。
息が、詰まった。
立ち上がろうとした。
足に力が入らなかった。
ガッシュが歩いてきた。
ゆっくりと、楽しそうに。
「まだやるか」
カイトが歯を食いしばった。
剣を杖にして立ち上がろうとした。
ノルが魔法を構えた。
このままではまずかった。
そこに。
ガッシュの横面に、何かが炸裂した。
杖だった。
セバチャが杖を握って走り込んでいた。
息が乱れていた。
珍しかった。
「遅れました」
カイトが荒い息のまま笑った。
「助かった」
「申し訳ございません」
セバチャがノルを見た。
ノルがセバチャを見た。
静かな目だった。
セバチャも静かに杖を構えた。
ガッシュがゆっくりと立ち上がった。
顔が、怒りで歪んでいた。
「老いぼれが」
「老いぼれで失礼いたしました」
セバチャが静かに言った。
杖を、握り直した。




