73,援軍
空飛ぶ馬車は速かった。
ライラとラスボス代行がファルネイスに着いたのは、フロストスの予告から数時間後だった。
街はまだざわついていた。
ライラがユキナを見つけた。
「ライラさん」
「状況を教えてください」
ユキナが頷いた。
二人で話し始めた。
ラスボス代行は入口に立っていた。
動かなかった。
ただ、立っていた。
街の人間が遠巻きに見ていた。
誰も近づかなかった。
───
レリスがラスボス代行を見上げた。
「おひさしぶり」
ラスボス代行が少し動いた。
頷いた。
「てがなおった」
また頷いた。
「よかった」
ラスボス代行はまた動かなくなった。
レリスはしばらく見上げていた。
それから、隣に座った。
ラスボス代行は何も言わなかった。
ただ、立っていた。
───
城では。
タルドが仁王立ちしていた。
「俺も戦います」
カキンオーが無言でタルドを見た。
「剣も兜もあります。カキンオー様にいただいた剣です。これで戦えます」
カキンオーは少し考えた。
それから、タルドの肩に手を置いた。
地下の方向を指した。
「……地下ですか」
頷いた。
「逃げろということですか」
また頷いた。
「し、しかし」
カキンオーは無言でタルドを見た。
タルドが少しずつ縮んだ。
「……わかりました」
タルドが地下へ向かった。
階段を降りながら振り返った。
「でも、もし万が一の時は」
カキンオーが静かに扉を閉めた。
廊下が静かになった。
───
セバチャは馬車の中にいた。
帝国への道を急いでいた。
手帳に何かを書いていた。
カキンオー様がセバチャを帝国へ向かわせた理由を考えていた。
カイト様が帝国にいる。
モブテキ皇帝がいる。
そこにセバチャを送り込む。
つまり。
セバチャは手帳に書いた。
帝国・カイト・モブテキ・セバチャ。
この四者を結びつけると。
大陸北部の完全掌握。
セバチャは深く頷いた。
やはり、カキンオー様は何手も先を読んでいる。
馬車が揺れた。
セバチャは書き続けた。
───
翌朝。
ドルスは口数が少ない。
穢れの魔女に興味があると手を挙げた時、誰もその理由を聞かなかったし、ドルスも言わなかった。
連れのハルも同じだった。
二人とも黙って歩いた。
森の入口に来た時、ドルスが足を止めた。
深い森だった。
静かだった。
静かすぎた。
魔物の気配がなかった。
ドラゴンから降りた。
「……入るか」
ハルが頷いた。
二人が森に入った。
───
しばらく歩いた。
何もいなかった。
音がなかった。
葉の揺れる音だけがあった。
ドルスが足を止めた。
気配があった。
上だった。
「いらっしゃい」
声が降ってきた。
明るい声だった。
二人が見上げた。
巨大な蜘蛛が、木の上にいた。
八つの目が、楽しそうに細くなっていた。
「天空の人間が森に来るなんて、珍しいこと」
シルネアが枝から降りてきた。
ゆっくりと、二人の前に立った。
大きかった。
ドルスが剣に手をかけた。
「まあまあ」
シルネアが手を振った。
「戦いに来たの? それとも、私に会いに来たの?」
ドルスが少し止まった。
「……会いに来た」
「じゃあ剣はしまって」
ドルスがゆっくりと手を離した。
シルネアの目がさらに細くなった。
「面白い子たちね。お茶でも飲む?」
ドルスとハルが顔を見合わせた。
穢れの魔女が、お茶を出すと言っていた。




