68,強化
朝、謁見の間でカキンオーが立っていた。
ラスボス代行が向かいに立っていた。
腕があった。
両腕が、あった。
完全に回復していた。
カキンオーはしばらく見ていた。
まあ、よかった。
ラスボス代行が剣を構えた。
いつもの構えだった。
カキンオーが頷いた。
ラスボス代行が素振りをした。
両腕での素振りだった。
バランスが戻っていた。
カキンオーはそれを見ていた。
次は強化だ。
───
作業場で、カキンオーはラスボス代行の鎧を広げていた。
重かった。
頑丈だった。
でも、付与がなかった。
ここに付与を施す。
まず自動回復の付与だ。
流れを作った。
回復の属性を込めた。
鎧に流し込んだ。
定着した。
次に防御力上昇の付与。
同じように流した。
定着した。
剣を手に取った。
攻撃力上昇の付与を込めた。
流し込んだ。
定着した。
カキンオーは鎧と剣を眺めた。
かなり良い出来だった。
ゲームの時の感覚に、近づいてきた気がした。
ラスボス代行は城にいれば自動回復がある。
でもそれは城の中だけだ。
この付与があれば、城の外でも回復できる。
攻撃力も防御力も上がった。
かなり強くなったはずだ。
カキンオーは満足した。
そういえば。
ラスボス代行は悪魔系の存在だ。
魔核で強化もできるかもしれない。
指輪の中に、ゲーム時代の強力な魔物の魔核が数種類あった。
でも、それをいきなり使うのはもったいない。
まず練習をしよう。
現地調達でいい。
倉庫に魔核があるはずだ。
ライラが狩りで集めたものや、カイトが食費だと言って入れていったものの中に。
カキンオーは作業台を離れた。
倉庫に向かった。
───
倉庫には、様々なものが積まれていた。
ライラが仕留めた魔物の素材。
カイトが持ち込んだ素材。
カキンオーは一つ一つ確認した。
あった。
小さな黒い核だった。
悪魔タイプの魔物から取れる魔核だった。
いくつかあった。
大きさが違った。
カキンオーは魔核を手に取った。
密度が違う。
普通の素材とは明らかに違う。
まず魔核融合を試してみよう。
強い魔核が作れれば、ラスボス代行やアモンの強化に使える。
カキンオーは魔核を持って作業場に戻った。
───
作業台に魔核を並べた。
大きさが違う三つ。
これを融合させる。
ゲームでは専用のアイテムが必要だったが。
この世界では。
カキンオーは魔核に意識を向けた。
流れを作った。
三つの魔核に同時に流し込んだ。
魔核が光った。
黒い光だった。
三つが引き合った。
くっついた。
一つになった。
光が収まった。
一つの魔核が残った。
さっきより、大きかった。
密度が上がっていた。
カキンオーは魔核を手に取った。
重かった。
質が、明らかに上がっていた。
できた。
この世界でも魔核融合は使えた。
まずは練習用の魔核でラスボス代行に試してみよう。
上手くいけば、指輪の中の強力な魔核も使える。
アモンが戻ってきたら渡してみよう。
どう反応するか分からないが。
使うかどうかはアモンが決めればいい。
カキンオーは魔核を作業台に置いた。
静かだった。
やることがある静けさだった。
───
昼過ぎ、広場でカイトが構えていた。
流れを全身に広げた。
薄く光った。
カキンオーが見ていた。
「全身に広がった」
カキンオーが頷いた。
「これで身体向上魔法が使えるはずだな」
カイトが足を踏み込んだ。
速かった。
いつもより、明らかに速かった。
カイトが止まった。
「速い」
カキンオーが頷いた。
「力も上がってる気がする」
また頷いた。
「他の魔法はまだ全然使えないがな」
カキンオーは答えなかった。
まあ、そういうものだ。
「身体向上だけでも、かなり違う」
カイトが剣を抜いた。
構えた。
踏み込んだ。
斬撃を放った。
空気が鋭く切れた。
カイトが息を整えた。
「これなら、次は少し歯が立つかもしれない」
カキンオーが小さく頷いた。
───
夕方、謁見の間で。
カキンオーがラスボス代行に鎧と剣を渡した。
ラスボス代行が鎧を着込んだ。
剣を手に取った。
構えた。
素振りをした。
カキンオーが見ていた。
ラスボス代行の動きが、少し変わった気がした。
鎧が鈍く光っていた。
付与が定着している証拠だった。
ラスボス代行が頷いた。
カキンオーも頷いた。
無言だった。
でも、それでよかった。
───
同じ頃、天空の大陸の一角で。
ザインが椅子に座っていた。
足を机の上に乗せていた。
隣にリオが立っていた。
「出発はいつだ」
リオが書類を見た。
「一ヶ月後の予定です」
「一ヶ月後か」
ザインが欠伸をした。
「地上か。行きたくないな」
「命令ですから」
「地上に行けば魔力が下がる。汚染された場所だ」
「確認だけですから、すぐ終わりますよ」
「本当にそう思うか」
リオが少し止まった。
「報告書、読みましたか」
「読んでない」
「読んだ方がいいと思いますが」
「どうせ大したことない」
「フロストスが地上の人間に吹き飛ばされたそうです」
ザインが足を机から下ろした。
「人間に?」
「はい。神の光も砕かれたそうです」
ザインがしばらく黙った。
それから、また欠伸をした。
「セレナたちが弱かっただけだろう。俺たちなら問題ない」
「そうですかね」
「問題ない。地上の人間など、所詮地上の人間だ」
リオが黙った。
「一ヶ月後か。それまでのんびりするか」
ザインが立ち上がった。
「急ぐ必要はない。地上ごときに」
リオは報告書を眺めた。
南の魔王、カキンオー。
しばらく見ていた。
それから、閉じた。
まあ、行ってみれば分かる。
そう思うことにした。




