67,ファルネイスの日々
朝、レリスが机に向かっていた。
石板の上に、問題が並んでいた。
数字と文字が混ざっていた。
レリスが眉をひそめた。
「むずかしい」
「うるさいチュ」
アモンが枕の上で丸まっていた。
まだ本調子ではなかった。
でも、口だけは達者だった。
「アモン、これわかる?」
「わかるチュ」
「おしえて」
「やだチュ」
「なんで」
「自分でやれチュ」
レリスが石板を見た。
また眉をひそめた。
「むずかしい」
「うるさいチュ」
ミナが部屋に入ってきた。
「レリス様、朝食の時間です」
「もうすこし」
「食べてからにしましょう」
「でもこれとけない」
ミナが石板を覗いた。
少し考えた。
「これは、ガルド様に聞いてみてはいかがですか」
「ガルドわかるの?」
「軍事クラスですから、計算は得意だと思います」
レリスが頷いた。
「きく!」
「朝食を食べてからですよ」
「たべる!」
───
学院の中庭で。
レリスが石板を持ってガルドに走り寄った。
「ガルド! これおしえて!」
ガルドが石板を見た。
少し考えた。
「これは比の計算だ」
「ひのけいさん?」
「二つの数の関係を表すやつだ」
「わからない」
「だから教えると言っている」
ガルドが地面に座った。
レリスも座った。
アモンがレリスの肩にいた。
「まず、この数字を見ろ。3対6というのは」
「みっつとむっつ?」
「そうだ。この二つの関係はどうなっている」
レリスが考えた。
「むっつはみっつのふたつぶん?」
「そうだ」
「わかった!」
「まだ終わってない」
「え」
「次の問題がある」
レリスがしょんぼりした。
アモンが欠伸をした。
「不器用な教え方チュ」
「うるさい」
「でも分かりやすいチュ」
ガルドが少し止まった。
「褒めたのか」
「事実を言っただけチュ」
レリスが笑った。
「なかよし」
「ちがう」
「うるさいチュ」
二人が同時に言った。
───
昼休み、ミナが中庭でレリスを見ていた。
ガルドが石板に書きながら、レリスに説明していた。
レリスが一生懸命聞いていた。
アモンが時々口を出していた。
ガルドがアモンに反論していた。
レリスが笑っていた。
ミナは少し微笑んだ。
城を思い出した。
カキンオー様がいる城。
ライラさんがいる城。
セバチャさんがいる城。
ここはここで悪くないが、城は城だ。
レリスも、そう思っているだろう。
でも今は、ここで頑張っている。
ミナはそれを見ていた。
───
放課後、ガルドがレリスに言った。
「来週、試験がある」
「しけん?」
「今日教えたところも出る」
「むずかしい?」
「お前のレベルなら難しい」
レリスが少し困った顔をした。
「でも、やれば解ける」
「ほんとに?」
「やればな」
レリスが頷いた。
「やる!」
「毎日練習しろ」
「うん! ガルドまたおしえてくれる?」
ガルドが少し間を置いた。
「暇な時ならな」
「やったー! ともだちだもんね!」
「違う」
「ともだち!」
「違うと言っている」
アモンが欠伸をした。
「また始まったチュ」
───
夕方、ユキナが戻ってきた。
復興の手伝いから帰ってきた。
少し疲れた顔をしていたが、目が明るかった。
レリスが飛びついた。
「ユキナ! ガルドにひのけいさんおしえてもらった!」
「そうなんだ。よかったね」
「らいしゅうしけんがある!」
「頑張らないとね」
「ガルドがおしえてくれる!」
ユキナがレリスを見た。
「ガルドって、最初は友達じゃないって言ってたんじゃなかったっけ」
「ともだちだよ!」
「あの子がそう言ったの?」
「いってないけどともだちだよ!」
ユキナが苦笑いした。
「まあ、いいか」
レリスがユキナを見上げた。
「ユキナ、つよくなってる?」
ユキナが少し止まった。
「少しずつね」
「おじさんにまけないくらいつよくなれる?」
「それは無理かな」
「なんで」
「あの人は、ちょっと別格だから」
レリスが頷いた。
「おじさん、つよいもんね」
「そうだね」
ユキナが窓の外を見た。
南の空だった。
城の方角だった。
「強くなったら、城に行こうと思ってる」
「いつ?」
「もう少ししたら」
レリスが頷いた。
「いっしょにかえろう」
「そうしようか」
二人が南の空を見た。
夕暮れが広がっていた。
───
夜、レリスが手紙を書いた。
おじさんへ。
がっこうでしけんがあります。
ガルドにおしえてもらっています。
ガルドはともだちといいませんが、ともだちです。
アモンはまだつかれてます。
でもうるさいです。
へいきです。
ユキナもいます。
つよくなってます。
へいきです。
はやくかえりたいとはおもっていません。
でもすこしおもっています。
へいきです。
レリスより。
レリスは手紙を折った。
窓の外を見た。
南の空に、星が出ていた。
城の方角だった。
レリスは布団に入った。
目を閉じた。
すこしおもっています、と書いた。
今回は正直に書いた。
たぶん。




