66,天空にて
天空の大陸は、雲の遥か上にあった。
地上からは見えない。
白い石造りの建物が、浮かぶ大地に並んでいた。
空気が澄んでいた。
魔力が濃かった。
地上とは、全てが違った。
───
評議の間には、すでにソランがいた。
部屋の奥に座っていた。
何も言わなかった。
ただ座っていた。
オルデンとドルガが入ってきた。
二人とも、入室した瞬間に少し身を縮めた。
それぞれ席についた。
声が自然と小さくなった。
オルデンが口を開いた。
「地上監視部門から報告が来た」
「そのようだな」
ドルガが答えた。
「ドレイクとセレナが地上で撤退した。ドラゴンを二頭失った」
「撤退は適切な判断だ」
「神の光を砕かれての撤退か」
ドルガが黙った。
「地上の人間に神の光を砕かれた。これは武官派の管理の問題だ」
「何かの不具合だろう、神の光を砕けるわけがない。とはいえ、地上の人間があそこまでやるとは」
「言い訳か」
「事実を言っている」
オルデンが続けた。
「地上監視部門の予算は半減する」
「それは困る。監視は必要だ。厄災の王の封印がある」
「封印は何百年も安定している。地上の人間が何をしようと関係ない」
「しかし今回のような存在が現れた。確認は必要だ」
オルデンが少し間を置いた。
「確認だけなら小規模でいい。大きな予算は出せない」
ドルガが渋々頷いた。
「何人送る」
「二十人程度でいい」
「誰を送る」
武官派の全員が、少し視線を逸らした。
オルデンが鼻を鳴らした。
「誰も行きたくないのか。地上ごときに」
「魔力が下がる。優秀な者を消耗させる必要はない」
「では誰を送る」
ドルガがしばらく考えた。
「ちょうどいい小隊がある」
「どこの」
「第七独立小隊だ。規律違反が多くて処遇に困っていた。戦闘力はある」
「問題児の厄介払いか」
「名誉挽回の機会を与えると言えばいい」
オルデンが少し笑った。
「それでいい。どうせ地上の確認程度なら十分だろう」
「まあ、そうだ。地上の人間など、たとえ想定外の存在が一人いたとしても」
「小隊二十人でどうにでもなるということか」
「全員ランク2の上位だ」
全員が頷いた。
誰も、報告書を真剣に読んでいなかった。
「ドレイクとセレナは謹慎だ」
「ドレイクはともかく、セレナは」
「謹慎だ。地上の人間に神の光を砕かれた。それだけで十分な理由だ」
ドルガが黙って頷いた。
「以上だ」
オルデンが立ち上がった。
退室した。
ドルガも立ち上がった。
退室した。
部屋にソランだけが残った。
ソランは窓の外を見た。
遥か下に、雲が見えた。
その向こうに、地上がある。
しばらく見ていた。
それから、静かに立ち上がった。
部屋を出た。
───
別の場所で。
セレナが一人でいた。
窓の外を見ていた。
謹慎命令が出ていた。
第七独立小隊が送られると聞いた。
セレナは少し目を閉じた。
あの連中では足りない。
戦闘力はある。
でも、規律がない。
舐めてかかる。
地上の人間を、最初から下に見る。
それが問題だった。
自分もそうだった。
セレナは窓の外を見た。
雲の向こうに、地上がある。
あの闇の鎧が、いる。
あれは、確認などで終わる相手ではない。
でも、言っても聞かない連中だ。
セレナは窓から離れた。
───
城の地下では。
カキンオーが金属を叩いていた。
付与の練習をしていた。
少しずつ、精度が上がっていた。
静かだった。
天空で何かが動いていることを、カキンオーはまだ知らなかった。
ただ、金属を叩いた。
静かだった。
悪くなかった。




