64,ジョブ
朝、地下の扉がノックされた。
カキンオーが手を止めた。
「入っていいか」
カイトだった。
返事がないまま扉が開いた。
カイトが入ってきた。
椅子を引いて座った。
しばらく黙っていた。
カキンオーが作業を続けた。
カイトが口を開いた。
「ファルネイスでの戦いを振り返ってたんだが」
カキンオーが手を止めた。
「俺、何もできなかった」
カキンオーは答えなかった。
「男の魔法を一発も止められなかった。セバチャさんの方がよっぽど動いてた」
答えなかった。
「お前が全部解決した」
また答えなかった。
「強くなりたい。天空の奴らに、次は少しくらい歯が立ちたい」
カキンオーはしばらく黙っていた。
カイトを見た。
小さく頷いた。
───
翌朝から、稽古が始まった。
剣士であるカイトは、魔法による身体強化を選んだ。
城の裏手の広場で。
カキンオーとカイトが向かい合っていた。
「やってみる」
カイトが右手を上げた。
目を閉じた。
何かを流そうとした。
何も起きなかった。
もう一度やった。
何も起きなかった。
「おかしいな」
カキンオーが少し考えた。
カイトの右手を見た。
自分の流れを少しだけカイトに流してみた。
カイトが少し固まった。
「なんか温かい。でも自分ではできない」
何度か試してみた。
何度やっても、カイトの流れが起きなかった。
カキンオーはしばらく考えた。
おかしい。
感覚は伝わっているはずだ。
なぜ使えない。
カキンオーはカイトを眺めた。
剣士だ。
純粋な剣士。
そこで、思い出した。
ゲームでは、ジョブによって使えるスキルが決まっていた。
剣士は魔法が使えない。
魔法を使うには、魔法系のジョブが必要だった。
ジョブを追加すると別系統のスキルが解放される。
でも経験値の効率が悪くなる。
だから普通は、メインジョブを育て上げてから追加する。
最終形を見据えて、計画的に。
カキンオーは全ジョブをカンストしていたから、意識したことがなかった。
でも、カイトは違う。
剣士のまま魔法を使おうとしても、使えない。
当たり前だった。
カキンオーは指輪に意識を向けた。
ジョブ追加アイテムのリストを確認した。
パラディンがあった。
魔力が上がる。
回復魔法が使える。
身体向上魔法が使える。
戦闘力も上がる。
剣士との相性が良い。
カキンオーはアイテムを取り出してカイトに差し出した。
───
カイトが受け取った。
「パラディンのジョブ追加アイテムか」
カキンオーが頷いた。
「でも、ジョブを追加すると経験値の効率が下がるんじゃなかったか」
カキンオーが頷いた。
カイトがしばらく考えた。
「天空の奴らがいつ来るか分からない。計画通りにいかないこともある」
カキンオーが頷いた。
「使う」
カイトがアイテムを握った。
光が広がった。
カイトの体に、何かが加わった。
カイトが右手を上げた。
流れを作ろうとした。
今度は、起きた。
薄く、光が宿った。
「使えた」
カキンオーが小さく頷いた。
「最初から教えてくれればよかったのに」
カキンオーは答えなかった。
気づくのが遅かっただけだ。
まあ、いいか。
───
夕方、廊下を通りかかったカキンオーが足を止めた。
謁見の間の扉が少し開いていた。
中を覗いた。
ラスボス代行が立っていた。
玉座に座っていなかった。
片腕がまだなかった。
でも、剣を構えていた。
一本腕で、素振りをしていた。
ゆっくりと、確実に。
バランスが悪かった。
片腕がないから当然だ。
でも、やめなかった。
カキンオーはしばらく見ていた。
ラスボス代行は気づいていなかった。
カキンオーは扉から離れた。
地下への石段を降りた。
作業台に座った。
考えた。
カイトがジョブ追加で強化できた。
ラスボス代行が自分で動き始めた。
みんなを強化するには、何ができるだろうか。
ラスボス代行の装備強化。
片腕が回復したら、鎧に付与を施す。
自動回復の付与。
攻撃力と防御力の付与。
ユキナにはもっと強い剣を作れるかもしれない。
アモンは強化できるのか分からないが、聞いてみてもいいかもしれない。
やることが増えた。
でも、今の付与の精度では足りない。
感電棒は作れた。
属性付与の剣も作れた。
でも、本当ならもっとできるはずだった。
鍛冶スキルがあっても、鍛冶が簡単じゃなかったように。
付与スキルがあっても、付与は簡単じゃない。
ゲームと現実は同じではなかった。
でも、確実に近づいている。
まず付与の精度を上げる。
それが全ての土台だ。
流れの強さを細かく制御する。
属性の密度を上げる。
定着の安定性を高める。
カキンオーは金属を手に取った。
一つ一つ、丁寧に。
静かだった。
やることがある静けさだった。
悪くなかった。
───
夜、カイトが作業場に顔を出した。
「魔法、少し使えるようになってきた。まだ右腕だけだけどな」
カキンオーが頷いた。
「さっき、謁見の間でラスボス代行が素振りしてた。お前も見てたか」
カキンオーが頷いた。
「あいつ、強くなりたいんだな」
カキンオーはまた頷いた。
「城の連中、みんな頑張ってるな」
カキンオーは答えなかった。
金属を叩いた。
まあ、そういうことだ。
そう思った。




