62,帰路
ファルネイスは、静かに動き始めていた。
瓦礫を片付ける音がした。
怪我人を運ぶ声がした。
泣いている子供がいた。
それをあやす大人がいた。
街が、少しずつ息を吹き返していた。
───
広場で、ユキナがセバチャに言った。
「私、しばらくここに残ります」
セバチャが頷いた。
「復興の手伝いをしたいので」
「承知しました」
「それと、レリスが心配なので」
セバチャが少し微笑んだ。
「それが本当の理由ですね」
「両方本当です」
「そうですか」
ユキナがカキンオーを見た。
カキンオーは少し離れたところに立っていた。
「カキンオーさん」
カキンオーが振り返った。
「私、しばらくここにいます」
カキンオーは答えなかった。
少し止まった。
それから、小さく頷いた。
ユキナが続けた。
「レリスのこと」
少し考えた。
「レリスのことは私が見ます。だから安心して帰ってください」
カキンオーは答えなかった。
また小さく頷いた。
ユキナが笑った。
「またね」
カキンオーが視線を外した。
───
レリスがカキンオーの前に来た。
「おじさん、かえるの?」
カキンオーが頷いた。
「レリスはここにいるの?」
カキンオーが頷いた。
「ユキナといっしょに?」
また頷いた。
レリスが少し考えた。
「わかった」
カキンオーの腰に飛びついた。
「またくる?」
カキンオーが頷いた。
「ほんとに?」
また頷いた。
「やくそく?」
カキンオーが少し止まった。
それから、小さく頷いた。
レリスが離れた。
「じゃあ、またね」
カキンオーは答えなかった。
でも、レリスの頭を一度だけ撫でた。
それから歩き出した。
───
カイトがアモンを懐に入れたまま、カキンオーの隣に並んだ。
「行くか」
カキンオーが頷いた。
ライラとセバチャが続いた。
四人が街道を歩き始めた。
ユキナがその背中を見送った。
レリスが手を振った。
「またねー!」
カキンオーが少し振り返った。
小さく手を上げた。
また前を向いた。
四人が街道を南へ歩いていった。
───
城に着いたのは夕方だった。
城門をくぐった。
タルドが出迎えた。
「お帰りなさいです。ご無事で」
カキンオーが頷いた。
カイトが頷いた。
ライラが頷いた。
セバチャが頷いた。
全員が疲れていた。
タルドが全員の顔を見回した。
「お食事の準備をします」
「助かります」
ライラが言った。
───
謁見の間に向かう廊下で。
セバチャが足を止めた。
謁見の間の扉が、少し開いていた。
中を覗いた。
ラスボス代行が玉座に座っていた。
いつも通り座っていた。
ただ、片腕がなかった。
肩から先が、消えていた。
セバチャが静かに中に入った。
ラスボス代行を見た。
しばらく見ていた。
カキンオーが後ろから入ってきた。
ラスボス代行を見た。
少し止まった。
セバチャが静かに言った。
「城にいれば、回復します。時間はかかりますが」
カキンオーはラスボス代行を見たまま、動かなかった。
「見事な働きでした」
カキンオーは答えなかった。
しばらくラスボス代行を見ていた。
それから、小さく頷いた。
謁見の間を出た。
廊下を歩いた。
地下への石段を降りた。
セバチャが廊下に残った。
ラスボス代行を見た。
静かに言った。
「ゆっくり休んでください」
ラスボス代行は答えなかった。
ただ、そこに座っていた。
───
地下の作業場で。
カキンオーは作業台に座った。
何もしなかった。
ただ座っていた。
ラスボス代行が片腕をなくした。
カキンオーはしばらく天井を見た。
まあ、回復するならいい。
でも。
少し、何かが引っかかっていた。
うまく言葉にできなかった。
そのままでいた。
───
夜、ライラが夕食を持ってきた。
「カキンオー様、お食事です」
扉が開いた。
「今日は、皆さんお疲れでしょうから、少し豪華にしました」
トレイを置いた。
カキンオーが頷いた。
「ラスボス代行のことは」
カキンオーが少し動いた。
「セバチャさんから聞きました。城にいれば回復するとのことで」
また頷いた。
「よかったです」
ライラが扉に向かった。
「カイト様も、久しぶりに城に戻られました」
カキンオーが少し止まった。
「今日は皆、ゆっくりお休みになると思います」
ライラが扉を閉めた。
───
夜遅く、地下への石段に足音がした。
扉がノックされた。
「入っていいか」
カイトだった。
返事がないまま扉が開いた。
カイトが入ってきた。
作業台に座っているカキンオーを見た。
椅子を引いて座った。
しばらく二人で黙っていた。
カイトが口を開いた。
「迷惑かけた」
カキンオーは答えなかった。
「色々と」
答えなかった。
「洗脳されたり、逃げたり、遅くなったり」
答えなかった。
カイトが少し笑った。
「返事くらいしろよ」
カキンオーは答えなかった。
でも、少し動いた。
首を横に振った。
カイトがそれを見た。
少し間を置いた。
「そうか」
また黙った。
松明の光が揺れていた。
しばらく二人で黙っていた。
カイトが立ち上がった。
「まあ、戻ってきたから、いいか」
カキンオーが小さく頷いた。
カイトが扉に向かった。
「また明日」
カキンオーは答えなかった。
でも、小さく頷いた。
扉が閉まった。
作業場に静寂が戻った。
カキンオーは作業台に向かった。
金属を手に取った。
静かだった。
いつもの静けさだった。
でも、少し違う静けさだった。
悪くなかった。




