60,圧倒
女が闇の鎧を見ていた。
動かなかった。
初めて、足が止まっていた。
闇の鎧が前に出た。
女が魔力を構えた。
「何者だ」
闇の鎧は答えなかった。
ただ、歩いてきた。
女が魔法を放った。
白い光だった。
強力だった。
闇の鎧が片手で払った。
光が消えた。
女が目を細めた。
「私の魔法を、片手で」
闇の鎧は答えなかった。
女が魔力を集め始めた。
さっきユキナに放ったものより、大きかった。
「いいだろう。相手になってやる」
───
戦いが始まった。
女が魔法を連続で放った。
白い光が連続で飛んだ。
闇の鎧が動いた。
速かった。
全て躱した。
女が眉をひそめた。
「速い」
もう一度放った。
今度は範囲を広げた。
逃げ場をなくした。
闇の鎧が止まった。
光が直撃した。
煙が上がった。
女が口元を緩めた。
「終わりか」
煙が晴れた。
闇の鎧が立っていた。
無傷だった。
女の口元が、固まった。
「あの魔力量で、無傷?」
闇の鎧が踏み込んだ。
一歩だった。
ただの一歩だった。
地面が揺れた。
女が後退した。
思わず後退していた。
気づいて、止まった。
「私が、恐れたというの?」
自分でも信じられないようだった。
闇の鎧が剣を抜いた。
構えた。
女が全力の魔法を展開した。
「まとめて消してやる」
光が爆発した。
街の一角が吹き飛んだ。
砂埃が舞い上がった。
全てが晴れた時。
闇の鎧が女の眼前にいた。
剣を首元に当てていた。
女が動けなかった。
初めて、恐怖が顔に出た。
「いつの間に」
闇の鎧は答えなかった。
ただ、剣を当てていた。
「地上の、魔王ごときが」
闇の鎧は動かなかった。
「私が本気を出せば」
答えなかった。
女の目が揺れた。
本気を出した結果が、これだった。
それでも届かなかった。
女が奥歯を噛んだ。
「覚えていろ」
空から光が振ってくる。
女の体が光に包まれ始めた。
神の光だった。
撤退の光だった。
闇の鎧が剣を引いた。
しかし。
闇の鎧の腕が、光の中に伸びた。
女の腕を掴んだ。
光が激しく揺れた。
弾き出そうとした。
闇の鎧が引っ張った。
光が砕けた。
女が引きずり出された。
地面に叩きつけられた。
咳き込んだ。
顔を上げた。
闇の鎧が見下ろしていた。
女が目を見開いた。
「神の光を、砕いた?」
声が震えていた。
「あり得ない。神の光は転移魔法の最上位だ。地上の魔物が砕けるはずが」
闇の鎧は答えなかった。
「何者だ、お前は」
答えなかった。
ただ、見下ろしていた。
女が後ずさった。
立ち上がった。
体が震えていた。
「お前は、魔王などではない」
女が空を見上げた。
別の光が、上空から降ってきた。
天空からの光だった。
女の体を包んだ。
今度は闇の鎧も止めなかった。
女が消えた。
消える寸前に、言葉が聞こえた。
「報告しなければ」
それだけだった。
静寂が戻った。
───
ユキナがその場に座り込んでいた。
体が動かなかった。
闇の鎧が振り返った。
ユキナを見た。
ユキナが見上げた。
目が合った。
闇の鎧だった。
黒鎧とは違った。
もっと暗かった。
もっと深かった。
でも。
ユキナが少し目を細めた。
なんとなく、分かった。
「ありがとう」
闇の鎧は答えなかった。
でも、視線を外さなかった。
闇の鎧がユキナの前にしゃがんだ。
怪我を確認するように、ユキナを見た。
ユキナが闇の鎧を見た。
「大丈夫」
闇の鎧は答えなかった。
ユキナが少し笑った。
「あなたは? 大丈夫?」
答えなかった。
闇の鎧が立ち上がった。
ユキナから視線を外した。
歩き始めた。
「また、来てくれるの」
闇の鎧が少し止まった。
振り返らなかった。
また歩き始めた。
夜の街に、闇の鎧が消えていった。
ユキナはその背中が見えなくなるまで、見ていた。
言っておけばよかった。
まだ、そう思っていた。
【作者より】
最上位の転移魔法すら物理で引きずり出す、新たな「闇の鎧」の圧倒的パワー!!
カキンオー(なんかピリッときたな)
ついに第60話という大きな節目までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
「天空の連中を圧倒してスカッとした!」「ユキナと田中君の不器用な距離感にグッときた!」と少しでも心が動きましたら、60話到達の記念にページ一番下の【評価ポイント】を押して作者を応援していただけると、めちゃくちゃ嬉しいです!




