57,襲来
城の応接室で、カイトが話していた。
カキンオーが向かいに座っていた。
ライラがお茶を用意して、部屋を出た。
セバチャが端に立っていた。
カイトが話した。
天空から二人が来たこと。
フロストスより大きいドラゴンが二頭いること。
地上を見下していること。
攻撃許可が出ていること。
ファルネイスに向かうと言っていたこと。
カキンオーは黙って聞いていた。
カイトが続けた。
「魔力が桁違いだった。遠目でも分かった。俺では話にならない」
カキンオーが少し動いた。
「ファルネイスには人が多い。街が壊滅するかもしれない」
セバチャが静かに口を開いた。
「ファルネイスには、レリス様もいらっしゃいます」
カキンオーが止まった。
カイトがカキンオーを見た。
「レリスが、ファルネイスに?」
「学校に通っています。春から」
カイトが少し黙った。
「そうか」
応接室に沈黙があった。
カイトがカキンオーを見た。
「どうする」
カキンオーは答えなかった。
窓の外を見た。
北東の空を見た。
まだ何も見えなかった。
でも、時間はない。
セバチャが静かに言った。
「カキンオー様、いかがなさいますか」
カキンオーは窓の外を見た。
───
同じ頃、ファルネイスの街では。
夕方の市場が賑わっていた。
商人が声を上げていた。
子供たちが走り回っていた。
いつもの夕方だった。
その時。
西の空が、変わった。
雲が、急に厚くなった。
影が、二つ現れた。
大きかった。
翼を広げた影が、どんどん大きくなっていた。
市場の人間が気づき始めた。
「何だあれ」
「ドラゴンか」
「二頭もいる」
「でかい」
誰かが叫んだ。
「逃げろ!!」
市場が一瞬で混乱した。
人が走り出した。
商品が倒れた。
子供が泣き出した。
二頭のドラゴンが、街の上空に現れた。
───
アルバ学院の窓から、レリスが空を見ていた。
ガルドが隣に立っていた。
アモンがレリスの肩にいた。
「おおきい」
レリスが小さく言った。
「でかすぎる」
ガルドが低い声で言った。
ドラゴンの一頭が翼を振った。
衝撃波が走った。
街の建物が揺れた。
窓ガラスが割れた。
生徒たちが悲鳴を上げた。
「レリス、伏せろ!」
ガルドがレリスを床に押さえた。
もう一度衝撃波が来た。
天井から砂が落ちた。
───
街の外壁では。
ファルネイスの兵士たちが魔法を放ち始めていた。
魔法使いたちも出てきた。
魔狩人たちも剣を抜いた。
しかし。
魔法がドラゴンに当たった。
鱗に弾かれた。
何事もなかったように、ドラゴンが首を振った。
兵士の一人が叫んだ。
「効かない!」
男が乗ったドラゴンが、口を開けた。
光が集まった。
ブレスだった。
外壁の一角が、吹き飛んだ。
轟音が街に響いた。
───
ユキナが街の中を走っていた。
逃げ惑う人々の逆方向に走っていた。
学院の方向に向かっていた。
建物の陰から陰へ。
衝撃波が来るたびに身を低くした。
学院が見えてきた。
正門から飛び込んだ。
廊下を走った。
教室の扉を開けた。
レリスとガルドとアモンがいた。
「ユキナ!」
レリスが立ち上がった。
「レリス、ここにいたらだめ。逃げて」
「でも」
「聞いて」
ユキナがレリスの前にしゃがんだ。
「ガルド、レリスを連れて東の街道に出て。街から出るんだ」
ガルドが頷いた。
「分かった」
「アモン、二人を頼む」
アモンがユキナを見た。
「お前はチュ?」
「戦う」
アモンが少し間を置いた。
「勝てるチュか」
「分からない。でも、やれるだけやる」
レリスがユキナの袖を掴んだ。
「ゆきな、いっしょにいこう」
「レリス」
「いっしょに」
ユキナがレリスの手を外した。
両手でレリスの手を包んだ。
「私はここにいなきゃいけないから」
「なんで」
「逃げられない人がいるから」
レリスが唇を噛んだ。
「かえってくる?」
ユキナが少し間を置いた。
「帰ってくる」
「ほんとに?」
「本当に」
レリスが頷いた。
目に涙が浮かんでいた。
こぼれなかった。
「わかった」
「強い子だね」
ユキナが立ち上がった。
ガルドを見た。
「頼んだ」
「任せろ」
ガルドがレリスの手を取った。
「行くぞ」
「うん」
レリスが歩き出した。
扉の前で振り返った。
「ユキナ、かならずかえってきてね」
「うん」
レリスが走り出した。
ガルドが一緒に走った。
アモンがガルドの肩に飛び移った。
廊下を走る足音が遠ざかっていった。
───
ユキナは廊下に一人残った。
窓の外を見た。
二頭のドラゴンが街の上空を旋回していた。
男が高笑いをしていた。
女が無表情でブレスを吐かせていた。
ユキナは右手を握った。
カキンオーからもらった剣を抜いた。
刃に、薄く光るものが宿っていた。
ユキナは走り出した。
街の外壁に向かって。




