56,ともだち
アルバ学院の中庭で、レリスは昼食を食べていた。
隣にアモンがいた。
向かいにガルドが座っていた。
ガルドは自分の席で食べていたはずだったが、いつの間にかここにいた。
「ガルド、きた!」
「通りかかっただけだ」
「すわってるじゃん」
「少し休んでるだけだ」
アモンが欠伸をした。
「毎日通りかかるチュ」
「うるさい」
レリスが嬉しそうにした。
「ともだちだもんね」
「違う」
「ともだちだよ」
「違うと言っている」
ガルドが黙って食べた。
レリスも食べた。
アモンが欠伸をした。
三人の間に、静かな時間が流れた。
ガルドが少し間を置いてから言った。
「勉強、ついていけてるか」
「むずかしい」
「どのくらい」
「ぜんぶ」
「全部か」
「でもへいき」
ガルドが少し目を細めた。
「放課後、少し教えてやる」
レリスが目を輝かせた。
「ほんと!?」
「暇だから」
「やった! ともだちだもんね!」
「違う」
「ともだちだよ!」
アモンが欠伸をした。
「不器用チュ」
「うるさい」
───
その日の午後、レリスが教室から出てきたところで、廊下で声をかけられた。
「レリス!」
レリスが振り返った。
ユキナが立っていた。
旅装束だった。
荷物を担いでいた。
「ユキナ!!」
レリスが走り寄った。
ユキナが屈んでレリスを受け止めた。
「なんでここにいるの!」
「旅の途中でね。ファルネイスに寄ったら、なんか学校があって、もしかしてと思って入ったら本当にいた」
「すごい!」
「すごいね」
ユキナがレリスを離した。
レリスをじっと見た。
「元気そうだね」
「うん! へいき!」
「友達できた?」
「できた! ガルドっていう!」
「そうなんだ」
「ユキナのおしえたとおりだった!」
ユキナが少し止まった。
「何が」
「ちがうっていっても、てれてるだけだった!」
ユキナが苦笑いした。
「まあ、うまくいったならよかった」
「ゆきな、カキンオーさんはどうだった?」
ユキナが少し間を置いた。
「剣をくれた」
「えっ!」
「それだけだけどね」
「すごいじゃん! ともだちだよ!」
「そうかな」
「てれてるんだよ!」
ユキナが少し笑った。
「そうだといいね」
アモンがユキナを見た。
「来たチュ」
「久しぶり、アモン」
「うるさいチュ」
「相変わらずだね」
「うるさいチュ」
レリスがユキナの手を引いた。
「ガルドにしょうかいする!」
「いいよ」
二人が廊下を歩いた。
アモンがその後をついていった。
───
中庭で、ガルドがレリスとユキナを見た。
「誰だ」
「ユキナ! おじさんのおしろにいたひと!」
ガルドが少し止まった。
「魔王の城の」
「そう!」
ガルドがユキナを見た。
ユキナがガルドを見た。
「あなたがガルド?」
「そうだが」
「レリスから聞いてるよ。友達なんだって」
「違う」
「ちがうっていっても、てれてるだけだって言ってたよ、レリスが」
ガルドがレリスを見た。
レリスがにこにこした。
ガルドが深くため息をついた。
「あなたが、そのユキナか」
「そうだけど」
「一度話したかった」
「なんで?」
「レリスに変なことを吹き込んだ人間だから」
ユキナが少し笑った。
「役に立ったでしょ」
「立ってない」
「でも友達になったじゃん」
「なってない」
レリスがアモンを見た。
「アモン、ガルドてれてる?」
「そうチュ」
「うるさい」
ユキナが笑った。
ガルドが黙った。
レリスがにこにこした。
───
夕方、ユキナとレリスが街を歩いていた。
ミナが少し離れてついていた。
「ユキナ、いつまでいるの?」
「少しだけ。明日か明後日には出る」
「もっといてよ」
「旅の途中だから」
レリスが少し考えた。
「カキンオーさんのとこ、もどる?」
「そのうちね」
「そのうちっていつ」
「もう少し強くなったら」
レリスが頷いた。
「レリスもつよくなる」
「そうだね」
「おじさんのとこにかえるために」
ユキナが少し止まった。
「帰るために?」
「ここはがっこう。おじさんのおしろがおうち」
ユキナがレリスを見た。
レリスが真剣な顔をしていた。
ユキナが小さく笑った。
「そっか」
二人が街道を歩いた。
ファルネイスの街並みが夕陽を受けて赤く染まっていた。
綺麗だった。
ユキナが空を見上げた。
西の方角に、何か気になるものがあった。
山脈の方角だった。
空の色が、少し違った。
雲の形が、おかしかった。
「ユキナ、どうしたの」
「なんでもない」
ユキナが視線を戻した。
気のせいかもしれない。
でも、少し気になった。
街の鳥が、西の方角から飛んで逃げていた。
───
同じ頃、城の南の街道で。
人影が歩いていた。
旅装束に、腰に剣を二本。
がっしりとした体格。
日に焼けた顔。
城が見えてきた。
黒い城壁が、夕暮れの空に浮かんでいた。
人影が足を止めた。
城を見上げた。
しばらく動かなかった。
それから、歩き出した。
城門に向かって。
タルドが城門から顔を出した。
人影を見た。
目を細めた。
「カイトさん」
カイトだった。
表情が違った。
でも、目は変わっていなかった。
「久しぶり。カキンオーいるか」
「います」
「急ぎで話がある」
タルドが城門を開けた。




