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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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52/71

52,二人の話

 廊下に沈黙があった。


 ライラが少し間を置いた。


「……どうぞ」


 ライラが廊下の隅の窓際に移動した。


 ユキナがついてきた。


 二人が窓の外を見た。


 春の沼地が広がっていた。


 しばらく誰も喋らなかった。


 ユキナが口を開いた。


「私、看護師だったんだ。元の世界で」


 ライラが少し動いた。


「色んな患者さんを見てきた。色んな病気、色んな状況の人を」


「はい」


「その中に、田中君がいた」


 ライラが窓の外を見たまま、聞いていた。


「辛い病気だった。かなり辛い病気。でも、泣き言を言わなかった。一度も」


「……そうですか」


「いつもゲームをしてた。病室で、一人で」


 ユキナが少し笑った。


「私、ゲームなんて全然やったことなかったんだけど。そのゲームをやってみた」


「なぜですか」


「なんでだろうね」


 ユキナが窓に額を当てた。


「なかなか見つけられなかった。広いゲームだったから。でも、見つけた時に、声をかけた」


 ライラが少しだけ頷いた。


「ゲームの中では、女性のキャラクターに物をあげると喜ぶ人が多かったから。そうしたら仲良くなれるかと思って」


「それが最初の」


「そう。アイテムをくれって言ったのが最初」


 ユキナが苦笑いした。


「全然違った。明らかに迷惑そうだった。でも、やめられなかった」


「なぜですか」


「楽しんでほしかったから」


 ライラが少し止まった。


「ゲームなんだから、楽しめばいいのに。一人でずっと黙って狩りをしてた。誰とも話さずに。何かしてあげたかった。でも、何をしたらいいか分からなかった」


 ユキナが窓から離れた。


「ゲームの中だけでも、少し違う時間を過ごせたらって思ってたんだけど。うまくできなかった」


 ライラが静かに聞いていた。


「そのうち、ただ会いに行くだけになった。ラスボス代行しか出てこなくなっても、喋り続けてた」


「それは、なぜですか」


 ユキナが少し間を置いた。


「そこにいたから、かな。返事がなくても、いてくれた」


 廊下に沈黙があった。


「そしたら、彼が」


 ユキナが言葉を切った。


 少しの間があった。


「死んで」


 それだけ言った。


 ライラが窓の外を見続けた。


 ユキナも窓の外を見た。


 沼地の水面が、春の光を受けて揺れていた。


「ゲームは続けた。会える気がして。しばらくして、事故にあって、ここに来た」


「そうですか」


「そしたら、いた」


 ユキナが少し笑った。


「相変わらず無口で、地下に引きこもってて、ラスボス代行を出してくるけど」


 ライラが小さく笑った。


 ユキナがライラを見た。


「こんなこと、田中君には言えない。多分、知られたくないと思うから」


「なぜ私には」


 ユキナが少し考えた。


「あなたが一番、あの人のそばにいる人だから」


 ライラは答えなかった。


「あなたには話していいんじゃないかと思った。なんとなく」


 しばらく沈黙があった。


 ライラが静かに言った。


「私は」


 ユキナがライラを見た。


「カキンオー様のことが、大切です」


「知ってる」


「誰よりも」


「知ってる」


 二人が向かい合った。


 ライラがユキナをまっすぐ見た。


「あなたのことを、好きにはなれないかもしれません」


「そうだね」


「でも」


 ライラが少し間を置いた。


「嫌いでは、なくなりました」


 ユキナが少し止まった。


 それから、笑った。


「それで十分だよ」


 二人がまた窓の外を見た。


 沼地の水面が揺れていた。


 しばらく、二人は並んで立っていた。


 話すでもなく、離れるでもなく。


 ただ、並んでいた。


───


 地下の作業場では。


 カキンオーが金属を叩いていた。


 城が静かだった。


 レリスの声がしない静けさだった。


 慣れるまで、少し時間がかかりそうだった。


 金属を叩いた。


 上の階で、誰かが話しているのが微かに聞こえた。


 声の高さが二つあった。


 ライラとユキナだろうか。


 何を話しているのかは分からなかった。


 まあ、いいか。


 カキンオーは金属を叩き続けた。


 静かだった。


 いつもより静かな気がした。



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