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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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51,旅立ちの朝

 春が来た。


 城の周辺の木々が、少しずつ緑になり始めていた。


 沼地の空気が柔らかくなっていた。


 出発の日が来た。


───


 朝、広間でカキンオーはアイテムを並べていた。


 眼鏡。


 首飾り。


 ブレスレット。


 指輪各種。


 感電棒。


 それだけでは足りない気がして、指輪の中を確認した。


 回復薬を十本。


 解毒薬を五本。


 睡眠解除薬を五本。


 非常食を三日分。


 地図。


 予備の服。


 小さな収納袋。


 並べた。


 まだ足りない気がした。


 防寒具も入れよう。


 雨具も必要かもしれない。


 カキンオーは更に指輪の中を確認し始めた。


 そこに扉がノックされた。


 ユキナだった。


 机の上を見た。


 長い沈黙があった。


「戦争にでも行くの?」


 カキンオーが少し止まった。


「レリスは学校に行くんだよね?」


 カキンオーは答えなかった。


「五歳児の通学準備じゃないよ、これ」


 カキンオーは答えなかった。


 ユキナが苦笑いした。


「まあ、気持ちは分かるけどね」


 ユキナが出ていった。


 カキンオーは作業台を見た。


 多すぎるだろうか。


 少し考えた。


 でも、減らす気にはなれなかった。


 防寒具を追加した。


───


 執務室で、セバチャが書類を確認していた。


 ザガンから送られてきた資料だった。


 アルバ学院の入学許可証。


 住居の候補が五件。


 近隣の地図。


 護衛の手配確認書。


 セバチャは静かに頷いた。


 仕事が早かった。


 怯えている人間は仕事が早い。


 ライラが執務室に入ってきた。


「セバチャさん、準備は整いましたか」


「はい。学校はアルバ学院です。ファルネイス最高の学院です」


「最高の、ですか」


「はい。貴族の子弟が通う場所ですが、レリスには問題ありません」


 ライラが少し考えた。


「カキンオー様の城の者ですから」


「その通りです」


 セバチャが書類を綴じた。


「住居も五件候補があります。レリスが気に入ったものを選べます」


「五件も」


「ザガンが用意しました」


 ライラが少し黙った。


「次世代の支配も進めておられるのでしょうか」


 セバチャが少し間を置いた。


「カキンオー様は何もおっしゃっていませんが」


「そうですね」


「しかし、ファルネイス最高の学院にカキンオー様の城の者が通うとなれば」


 セバチャが静かに続けた。


「将来的に、ファルネイスの上層部との繋がりができます」


「なるほど」


「さらにその子供が成長して各所に就けば」


「一世代かけた支配、ですか」


「カキンオー様は、何十年先まで読んでおられるのかもしれません」


 ライラが微笑んだ。


「カキンオー様らしいですね」


「なんと深謀遠慮な御方か」


 セバチャは報告書の余白に、丁寧な字でそう書き添えた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 広間で、レリスがカキンオーから荷物を受け取っていた。


 眼鏡をかけた。


「みえる!」


「普通に見えてたでしょ」


 ユキナが突っ込んだ。


「でもなんかちがう!」


 首飾りを着けた。


「きれい!」


 ブレスレットを着けた。


「ぴかぴか!」


 指輪を着けた。


「いっぱい!」


 感電棒を手に取った。


 ボタンを押した。


 シャキーンと伸びた。


「かっこいい!!」


 レリスが棒を振り回した。


 全員が後退した。


「レリス、振り回したら駄目です」


「でもかっこいい!」


「駄目です」


 カキンオーがレリスの手から棒を取った。


 感電棒を短くしまった。


 また出した。


 レリスに渡した。


「ちゃんともつ!」


 レリスが棒を構えた。


 ユキナがカキンオーを見た。


「これ全部、レリスのために作ったり選んだりしたんだよね」


 カキンオーは答えなかった。


「不器用だね」


 カキンオーは答えなかった。


 ユキナが小さく笑った。


「でも、いいと思う」


───


 出発の時間になった。


 城門の前に全員が集まった。


 ミナが荷物を抱えていた。


 アモンがレリスの肩に乗っていた。


 ライラがレリスの前にしゃがんだ。


「レリス」


「うん」


「お手紙、書いてくださいよ」


「かく!」


「毎週」


「まいしゅう!」


「ちゃんとご飯を食べて」


「たべる!」


「困ったことがあったら」


「かえってくる!」


 ライラがレリスをぎゅっと抱きしめた。


 レリスが抱きしめ返した。


 しばらく二人でそのままでいた。


 ライラが離れた。


 目が赤かった。


 笑っていた。


「いってらっしゃい」


 レリスがタルドを見た。


「タルド、またあそんでね」


「ああ。強くなって帰ってこい」


「なる!」


 セバチャが深く頭を下げた。


「勉強、頑張ってください」


「がんばる!」


 ユキナがレリスの目線に合わせてしゃがんだ。


「また会おうね」


「ゆきなも、おじさんとなかよくしてね」


 ユキナが少し止まった。


「努力する」


「がんばって!」


 レリスがカキンオーを見た。


 カキンオーが城門の横に立っていた。


 レリスが駆け寄った。


 カキンオーの腰に飛びついた。


「おじさん、いってきます」


 カキンオーは答えなかった。


 でも、レリスの頭を一度だけ撫でた。


「かえってくるから」


 カキンオーが小さく頷いた。


 レリスが離れた。


 ミナの隣に立った。


 アモンがレリスの肩でぼんやりしていた。


「アモン、いくよ」


「うるさいチュ」


「いくよ!」


「分かってるチュ」


 アモンが欠伸をした。


「死ぬなよチュ」


 それだけだった。


 レリスが笑った。


「死なない!」


「当たり前だチュ」


 三人が街道を歩き始めた。


 全員がその背中を見送った。


 レリスが振り返った。


「いってくるねー!!」


 手を大きく振った。


 全員が手を振った。


 カキンオーも、小さく手を上げた。


 レリスが前を向いた。


 三人が街道の向こうに消えていった。


───


 城門が閉じた。


 しばらく誰も動かなかった。


 タルドが小さく言った。


「静かになりますね」


 ユキナが頷いた。


「そうだね」


 セバチャが頷いた。


「そうですね」


 ライラは何も言わなかった。


 全員がそれぞれの場所に戻っていった。


───


 城は、静かだった。


 レリスの声がしなかった。


 アモンの「うるさいチュ」も聞こえなかった。


 ライラは地下への石段の前に立っていた。


 ただ立っていた。


 どのくらいそうしていただろうか。


 足音がした。


 ユキナだった。


 ライラが振り返った。


 笑顔を作ろうとした。


「カキンオー様はお忙しいです」


 先に言った。


 ユキナが少し止まった。


 それから、小さく笑った。


「カキンオーさんじゃなくて、あなたと話がしたい」


 廊下に沈黙があった。


 ライラがユキナを見た。


 ユキナがライラを見た。




【作者より】

学校の入学手続きって大変ですよね……


セバチャ「お菓子を持って挨拶に行くだけですよ」


お茶目なセバチャですね(怖)

第50話、ついに大きな節目までお付き合いいただき本当にありがとうございます!


「セバチャ怖すぎる(笑)」「西の新しい脅威が気になる!」と少しでも楽しんでいただけましたら、50話到達の記念にページ一番下の【評価ポイント】を押して作者を応援していただけると、めちゃくちゃ嬉しいです!

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