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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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49/70

49,冬

 朝、広間でライラとレリスが向かい合っていた。


 机の上に、紙と石板が置かれていた。


「では今日は計算の続きです」


「さんすう!」


「そうです。昨日の続きから」


 ライラが石板に数字を書いた。


「3たす4は?」


 レリスが指を折り始めた。


 三本折った。


 さらに四本折ろうとして、手が足りなくなった。


「て、たりない」


「足を使ってもいいですよ」


 レリスが靴を脱いだ。


 足の指も折り始めた。


「なな!」


「正解です」


 レリスが嬉しそうにした。


「つぎ!」


「では、7たす8は?」


 レリスが両手と両足を全部使い始めた。


 全部折っても足りなかった。


「たりない!」


「では、数え方を変えましょう」


 ライラが丁寧に説明し始めた。


 そこにユキナが広間に入ってきた。


「おはよう」


「おはようございます」


「おはよう! ユキナ、さんすうわかる?」


「分かるよ」


「おしえて!」


 ライラが少し止まった。


「私が教えています」


「ユキナにもおしえてもらう!」


「私だけで十分です」


「ふたりのほうがいい!」


 ユキナがライラを見た。


 ライラがユキナを見た。


 レリスが二人を交互に見た。


 ユキナが椅子を引いて座った。


「じゃあ一緒に教えようか」


「結構です」


「ライラさん、二人で教えた方が効率いいよ」


「結構です」


「レリスのためだよ」


「結構です」


 レリスが首を傾げた。


「けっこうってなに?」


「いらないということです」


「なんでいらないの」


「いらないものはいらないんです」


 ユキナが苦笑いした。


 レリスがユキナを見た。


「ユキナ、7たす8は?」


「15だよ」


「じゅうご!」


 レリスが石板に15と書いた。


 ライラが静かに続きを教え始めた。


 ユキナが黙って隣で見ていた。


 ライラはユキナが見ていることに気づいていたが、何も言わなかった。


 ユキナはライラが教えるのを黙って見ていた。


 丁寧だった。


 レリスの目線に合わせていた。


 ユキナは少し目を細めた。


 この人は、本当にカキンオーのことが好きなんだな。


 そう思った。


───


 昼過ぎ、カキンオーは作業場で付与の練習をしていた。


 感電の強さを細かく調整する練習だ。


 弱い電流を金属に流す。


 少し強くする。


 少し弱くする。


 繰り返した。


 だいぶ制御できるようになってきた。


 春までには間に合いそうだった。


 カキンオーは棒を手に取った。


 試しに付与してみた。


 軽く触れた。


 ピリッとした。


 死なない程度だった。


 悪くない。


 もう少し調整が必要だが、方向性は合っている。


 カキンオーは棒を作業台に置いた。


 次の剣の素材を取り出そうとした時、扉がノックされた。


「カキンオー様、お昼のお食事をお持ちしました」


 ライラだった。


 扉が開いた。


 トレイを持ったライラが入ってきた。


「今日の昼食は根菜のシチューです。寒いので温かいものを」


 カキンオーが頷いた。


 ライラがトレイを置いた。


「レリスが15の計算ができました」


 カキンオーが少し動いた。


「嬉しそうに報告したかったのですが、カキンオー様に言ったらもっと喜ぶと思って」


 カキンオーは小さく頷いた。


 ライラが微笑んだ。


「ユキナという方が、算数を一緒に教えようとしてきました」


 カキンオーが少し止まった。


「お断りしました」


 カキンオーが頷いた。


「でも、正直に言うと」


 ライラが少し間を置いた。


「あの方の教え方、悪くないんです」


 カキンオーが顔を上げた。


 ライラが苦笑いした。


「認めたくないですが、レリスへの接し方は自然で、子供の扱いに慣れている感じがして」


 カキンオーは何も言わなかった。


「まあ、私の方が上ですけどね」


 ライラが扉を閉めた。


 カキンオーはシチューを食べた。


 うまかった。


───


 夕方、カキンオーが作業場から廊下に出た。


 ライラに頼む用事があった。


 素材の補充を頼もうと思っていた。


 廊下を歩いていると、角を曲がったところで人とぶつかりそうになった。


 ユキナだった。


 二人が廊下で向かい合った。


 ユキナが固まった。


 カキンオーも少し止まった。


 ユキナの目が大きくなった。


 カキンオーが視線を外そうとした。


「待って」


 ユキナが言った。


 カキンオーが止まった。


「逃げないで」


 カキンオーは逃げようとしていたわけではなかった。


 でも、足が止まった。


 ユキナがカキンオーを見た。


 カキンオーはユキナを見た。


 沈黙があった。


「久しぶり、だね」


 カキンオーは答えなかった。


「覚えてる? 私のこと」


 カキンオーは少し間を置いた。


 小さく頷いた。


 ユキナが少し笑った。


「そっか」


 カキンオーは答えなかった。


「ゲームで何回も会ったもんね」


 答えなかった。


「代行ばっかり出してきてたけど」


 答えなかった。


「気づいてたよ、代行だって」


 カキンオーが少し固まった。


「いつも見てたでしょ」


 答えなかった。


「まあ、いいけど」


 ユキナが少し間を置いた。


「元気だった?」


 カキンオーは少し考えた。


 元気、という言葉が少し変な気がした。


 でも、まあ。


 小さく頷いた。


「そっか。よかった」


 ユキナが続けた。


「私も元気だったよ。まあ、最後の方は色々あったけど」


 カキンオーは答えなかった。


「この世界、来るとは思わなかった」


 答えなかった。


「カキンオーさんがいるとも思わなかった」


 カキンオーが少し動いた。


「でも、いた」


 ユキナが笑った。


「それだけで、まあ、いいかって思った」


 カキンオーは答えなかった。


 ユキナがカキンオーを見た。


 カキンオーがユキナを見た。


「迷惑だった? ゲームの頃」


 カキンオーは少し間を置いた。


 正直に言えば、迷惑だった。


 かなり迷惑だった。


 でも、それを今ここで言えるほど、言葉が出てこなかった。


 カキンオーは首を横に振った。


 嘘をついた。


 ユキナが笑った。


「嘘くさい」


 カキンオーは答えなかった。


「まあ、正直に言わなくていいよ」


 ユキナが少し真剣な顔をした。


「一つだけ聞いていい?」


 カキンオーが頷いた。


「ここで、静かに暮らせてる?」


 カキンオーは少し止まった。


 静かに、暮らせているか。


 ユキナが来てから、静かではなくなった。


 でも、それ以外は。


 小さく頷いた。


 ユキナが微笑んだ。


「そっか。よかった」


 それだけ言って、ユキナが廊下を歩いていった。


 カキンオーはしばらどその場に立っていた。


 思ったより、悪くなかった。


 そう思った。


───


 夜、カキンオーはベッドに横になっていた。


 天井を見ていた。


 ユキナと話した。


 短かったが、話した。


 迷惑だったかと聞かれて、嘘をついた。


 迷惑だったのは本当だ。


 でも、なぜ嘘をついたのか。


 自分でもよく分からなかった。


 静かだった。


───


 同じ頃、ライラは台所で後片付けをしていた。


 タルドが入ってきた。


「ライラさん、さっきカキンオー様とユキナが廊下で話してるのを見ました」


 ライラの手が止まった。


「そうですか」


「少しだけ話してました。カキンオー様が答えてるのも、少し見ました」


「そうですか」


 ライラが皿を拭き続けた。


「ライラさん」


「何ですか」


「大丈夫ですか」


 ライラが微笑んだ。


「大丈夫です」


「本当に?」


「本当に大丈夫です」


 タルドが少し黙った。


「まあ、そうですね」


 タルドが台所を出ていった。


 ライラは皿を拭き続けた。


 静かだった。


 大丈夫だった。


 大丈夫だと思った。


 思ったが、皿を拭く手が少し強くなった。


───


 遠く、大陸の上空で。


 何かが動き始めていた。


 雲の上、さらに上。


 天空の大陸が、静かに揺れていた。



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