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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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48/70

48,準備

 セバチャが地図を広げていた。


 レリスが隣でじっと地図を見ていた。


「近隣の村には、残念ながら学校がありません」


「ない?」


「はい。学校があるのは帝都か、ファルネイスになります」


 レリスが地図を見た。


 城から遠かった。


「とおい?」


「遠いです。通いは難しい距離です」


 レリスが少し黙った。


「つまり、そこに住むことになります」


 レリスがセバチャを見た。


「おしろにかえってこれない?」


「定期的には帰れます。ただ、毎日は難しい」


 レリスがまた黙った。


 ライラがレリスの隣に座った。


「レリス、どうしますか」


 レリスが膝の上で手を握った。


 しばらく黙っていた。


「おじさんと、はなれる?」


「そうなります」


「ライラとも?」


「はい」


「タルドとも?」


「はい」


 レリスが下を向いた。


 目が少し赤くなっていた。


「アモンとも?」


 廊下の隅から声がした。


「俺は関係ないチュ」


 レリスが顔を上げた。


「アモンも会えなくなる」


「関係ないチュ」


「うそだ」


「うそじゃないチュ」


 レリスがまた下を向いた。


 しばらく誰も喋らなかった。


 扉がノックされた。


 返事がないまま開いた。


 カキンオーだった。


 全員がカキンオーを見た。


 カキンオーがレリスを見た。


 レリスがカキンオーを見た。


 目が赤かった。


 カキンオーがレリスの前にしゃがんだ。


 レリスと目線を合わせた。


 しばらく二人が向かい合っていた。


 カキンオーが小さく言った。


「行け」


 レリスが少し止まった。


「いいの?」


 カキンオーが頷いた。


「でも、さみしい」


 カキンオーは答えなかった。


 でも、レリスの頭に手を置いた。


 ライラが静かに言った。


「レリス」


 レリスがライラを見た。


「嫌になったら、いつでも帰ってきてください。この城は、いつでもレリスの場所ですから」


 レリスの目から、涙がこぼれた。


「うん」


「カキンオー様も、そう思っておられます」


 カキンオーが頷いた。


 レリスが頷いた。


「わかった。いく」


 カキンオーが立ち上がった。


 扉に向かった。


「おじさん」


 振り返った。


「ありがとう」


 カキンオーは何も言わなかった。


 扉が閉まった。


 ライラが袖で目を拭っていた。


 セバチャも少し目を細めていた。


 アモンが廊下の隅で欠伸をした。


「うるさいチュ」


 誰も何も言わなかった。


───


 地下の作業場で。


 カキンオーはレリスに渡す装備品を考えていた。


 課金アイテムは、譲渡不可な物も多い。


 まず、頭部防御のある眼鏡を取り出した。


 指輪の中にあった装備品だ。


 防御力は高い。


 見た目も、子供が使えるくらいの大きさだ。


 次に、防御力特化の首飾り。


 各種耐性のブレスレットと指輪。


 毒無効。


 睡眠無効。


 麻痺無効。


 即死無効。


 一通り揃えた。


 最後に武器だ。


 カキンオーは指輪の中の武器リストを確認した。


 問題があった。


 指輪の中にある武器は、すべて規格外の威力だ。


 レリスが使えば、相手を即死させてしまう。


 手加減ができる武器がない。


 ならば、作るか。


 死なない程度に感電する武器。


 短い棒状のもの。


 伸縮式にすれば、持ち運びにも便利だ。


 シャキーンと伸びるやつ。


 ただ、付与が問題だった。


 感電の強さを調整する付与が必要だが、強すぎても弱すぎてもいけない。


 今の自分の付与の精度では、調整が難しかった。


 強すぎれば即死させてしまう。


 弱すぎれば意味がない。


 もう少し付与の制御を練習する必要がある。


 カキンオーは棒の形だけ作った。


 感電の付与は、まだできない。


 春までには仕上げよう。


 そう思った。


───


 執務室で、セバチャが書類を広げていた。


 ライラが向かいに座っていた。


「行き先は帝都かファルネイスか、どちらがよいでしょうか」


「学校の質と、住む場所の安全性で判断すべきかと」


「帝都はモブテキ陛下との関係がありますから、保護は受けやすいですね」


「ただ、帝国はバイサーヤ教との一件で不安定な部分もあります」


「ファルネイスは商業都市ですから、子供の教育環境は整っているかもしれません」


「ただ、ザガンの件がありますから」


 二人が少し黙った。


「両方の情報を集めてから決めましょう」


 セバチャが頷いた。


「今は冬が近い。雪が降り始めれば街道も難しくなります」


「では春に出発ということでしょうか」


「それが現実的かと思います。その間に学校の情報、住む場所、護衛の手配を整えます」


 ライラが頷いた。


「レリスには、春になったら行くと伝えましょう」


「それがよいですね」


───


 廊下で、ライラがレリスに伝えた。


「春になったら出発します。それまでに準備を整えます」


「はる?」


「もう少し先です。冬が終わったら」


 レリスが少し考えた。


「ふゆのあとがはる?」


「そうです」


「ふゆって、どのくらい?」


「四ヶ月くらいです」


 レリスが指を折り始めた。


 四本折った。


「みっつしかない」


「四つです」


「よっつ?」


「はい」


 レリスがまた指を折った。


「わかった。はるにいく」


「その間に、お勉強もしておきましょう。読み書きも少し覚えておいた方がいいです」


 レリスが頷いた。


「ライラがおしえてくれる?」


「もちろんです」


「おじさんにもてがみかけるようになる?」


「なれます」


 レリスが嬉しそうにした。


「やった! おじさんにかく!」


───


 その夜、カキンオーは作業台に向かっていた。


 付与の制御の練習をしていた。


 強さを細かく調整できるようになれば、感電棒を仕上げられる。


 春までには間に合わせよう。


 金属に意識を向けた。


 流れを作った。


 少し強く。


 少し弱く。


 調整する。


 まだ難しかった。


 でも、感覚が少しずつ掴めてきた気がした。


 静かだった。


 廊下から、レリスの声が聞こえた。


「ライラ、あいうえお、つぎは?」


「あいうえお、かきくけこ、です」


「かきくけこ!」


「はい。もう一度」


「かきくけこ!」


 カキンオーは金属を叩いた。


 静かじゃなかった。


 でも、悪くなかった。





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