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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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45/71

45,来訪者

 完成した。


 作業台の上に、剣が一本置いてあった。


 見た目は普通の剣だ。


 刃の部分に、細かい溝が刻まれている。


 その溝に、薄く光るものが宿っていた。


 付与だ。


 持った人間の身体能力を底上げする効果を込めた。


 力が上がる。


 速さも少し上がる。


 カキンオーは剣を手に取った。


 軽く振った。


 悪くない。


 ただ。


 カキンオーは指輪に意識を向けた。


 収納リストから、所持しているなかで最も価値の低い剣を引き出した。


 ゲームの店売りの中で最高クラスの剣だ。


 今作った剣と比べると、明らかに違った。


 重さが違う。


 密度が違う。


 込められているものが、桁違いに違う。


 カキンオーは店売りの剣を見た。


 それから、今作った剣を見た。


 まあ、ガラクタに近いかもしれない。


 でも、自分で作ったものだ。


 悪くない。


 カキンオーは店売りの剣を指輪に戻した。


 今作った剣を作業台に置いた。


 これはどうしようか。


 後で考えよう。


 次の剣の素材を取り出した。


 今度は氷の付与にしてみよう。


 そう思った。


───


 同じ頃、帝国の街道を南に向かう一行があった。


 帝国の使者、三名。


 モブテキからの正式な書状を持っていた。


 そしてその隣を、ユキナが歩いていた。


 旅装束に着替えて、荷物を担いでいた。


 使者の一人が横目でユキナを見た。


「本当についてくるんですか」


「うん」


「皇帝陛下は使者団への同行は」


「別に使者団の一員じゃないし。たまたま同じ方向に行くだけ」


 使者が少し困った顔をした。


「南の城は魔王の城ですよ」


「知ってる」


「フロストスを一撃で吹き飛ばした存在がいる城ですよ」


「知ってる」


「それでも行くんですか」


「うん」


 ユキナが南の空を見た。


 遠く、沼地の方角に、黒い城の輪郭が見えた気がした。


 ユキナが小さく笑った。


「また無視されるんだろうな、どうせ」


「は?」


「なんでもない」


 ユキナが歩き続けた。


───


 城門の前に、一行が到着したのは昼過ぎだった。


 タルドが城門から顔を出した。


「ご用件は」


 使者の一人が書状を取り出した。


「帝国皇帝モブテキ陛下より、カキンオー様への親書をお持ちしました。謁見をお願いしたく」


「少々お待ちください」


 タルドが城内に走った。


 ユキナが城を見上げた。


 でかい。


 黒い。


 どこからどう見ても魔王の城だった。


 ユキナは城門をノックした。


「すみませーん、カキンオーさんいますかー」


 返答がなかった。


 使者たちが少し引いた。


───


 地下の扉をセバチャがノックした。


「カキンオー様、帝国の使者が参りました。それから」


 少し間を置いた。


「ユキナという方も、一緒に来ています」


 作業場の中が、少し静かになった。


 長い沈黙があった。


「いかがなさいますか」


 また沈黙があった。


 やがて、扉が少し開いた。


 カキンオーが顔を出した。


 セバチャを見た。


「ラスボス代行を出されますか」


 カキンオーが頷いた。


 扉が閉まった。


 セバチャが静かに息を吐いた。


───


 謁見の間に、ラスボス代行が座っていた。


 帝国の使者三名が通された。


 使者の筆頭が深く頭を下げた。


「カキンオー様、先日は帝国の兵士を助けていただきありがとうございました。皇帝陛下より、改めて謝意と友好の意を伝えるよう命を受けております」


 ラスボス代行は答えなかった。


 ただ、そこに座っていた。


 セバチャが書状を受け取った。


 謁見は十分ほどで終わった。


 使者たちが退室した。


 廊下に出た瞬間、一人が小さく言った。


「また会えた気がしない」


「謁見したじゃないですか」


「した気がしない」


 誰も反論できなかった。


───


 謁見の間にユキナが通されたのは、使者たちが帰った後だった。


 ライラが案内した。


 笑顔だった。


 目が笑っていなかった。


 ユキナが謁見の間に入った。


 ラスボス代行が座っていた。


 ユキナがそれを見た。


 少し止まった。


 それから、ため息をついた。


「また偽物じゃん」


 セバチャが少し固まった。


「ご存知なのですか」


「ゲームの頃から何度も見てるから。これカキンオーさんじゃないやつでしょ」


 セバチャが答えなかった。


 ユキナがラスボス代行の前に立った。


「カキンオーさん、どこにいるの。地下?」


 ラスボス代行は答えなかった。


「ねえってば」


 答えなかった。


 ユキナが小さく笑った。


「相変わらずなんだから」


 それから、ラスボス代行に向かって話し始めた。


 ゲームの頃と同じように。


 返事がなくても、話し続けた。


「この世界来てびっくりしたよ。召喚されて気づいたら洗脳されてて、すごく怒った。でもカキンオーさんがいるって分かって、なんか安心した」


 ラスボス代行は答えなかった。


「カイトさんって人のこと、大事にしてるんだね。あんな大声で叫ぶの初めて見た」


 答えなかった。


「会いたいな、カキンオーさんに」


 答えなかった。


 セバチャが静かに口を開いた。


「カキンオー様は、本日のご対応はラスボス代行に任せるとのことです」


「つまり会わないってこと?」


「はい」


 ユキナが立ち上がった。


「じゃあ泊めて」


 セバチャが少し止まった。


「申し訳ありませんが、そのようなサービスは」


「カキンオーさんに会えるまで泊まる」


「ですから、そのようなサービスは行っておりません」


「じゃあ城門の前で野宿する」


 セバチャが少し間を置いた。


「それは」


「野宿するから。城門の前で。毎日来る。会えるまで」


 セバチャがライラを見た。


 ライラがセバチャを見た。


 二人の間に、短い沈黙があった。


「……少々お待ちください」


───


 地下の扉をセバチャがノックした。


「カキンオー様、ユキナという方が城門の前で野宿すると言っています」


 沈黙があった。


「会えるまで毎日来るとも」


 また沈黙があった。


「いかがなさいますか」


 長い沈黙があった。


 扉が少し開いた。


 カキンオーが顔を出した。


 疲れた顔をしていた。


 セバチャを見た。


 セバチャが静かに言った。


「使用人部屋が空いております」


 カキンオーが少し固まった。


 それから、諦めたように小さく頷いた。


 扉が閉まった。


───


 使用人部屋に案内されたユキナを、ライラが先導した。


 廊下を歩きながら、ユキナが話しかけてきた。


「ここで働いてるの?」


「はい」


「カキンオーさんのこと、よく知ってる?」


「はい」


「どんな人?」


 ライラが少し間を置いた。


「素晴らしい方です」


「どんなふうに素晴らしいの」


「言葉では言い表せません」


「じゃあカキンオーさん、今何してるの」


「作業中です」


「何の作業」


「鍛冶です」


「へえ」


 ユキナが少し考えた。


「カキンオーさんって、ここでどんな生活してるの」


「静かに、暮らしておられます」


「静かに」


「はい」


 ユキナがライラを見た。


「あなた、カキンオーさんのこと好きでしょ」


 ライラが止まった。


 振り返った。


 笑顔だった。


「カキンオー様のお世話をするのが、私の役目です」


「そういう意味じゃなくて」


「お部屋はこちらです」


 ライラが扉を開けた。


 ユキナが中に入った。


 振り返った。


「ねえ」


「はい」


「私のこと、嫌い?」


 ライラが微笑んだ。


 いつもの笑顔だった。


「いいえ」


「嘘くさい」


「お夕食は七時にお持ちします」


 扉が閉まった。


 廊下に一人残ったライラは、しばらく動かなかった。


 それから、静かに歩き出した。


 笑顔のままだった。


 目が、笑っていなかった。


───


 地下では。


 カキンオーが氷の付与の練習をしていた。


 上の階から、ユキナの声が聞こえた気がした。


 確実に聞こえた。


 金属を叩いた。


 静かじゃなかった。


 全然静かじゃなかった。


 嫌な予感は、正しかった。



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