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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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43/70

43,嵐の後

 翌朝、城は静かだった。


 いつもの静けさだった。


 カキンオーは作業場で金属を磨いていた。


 昨日の疲れは、一晩でほとんど抜けていた。


 体は頑丈にできているらしい。


 金属を磨きながら、ぼんやり考えた。


 付与の感覚は、城を出る前よりも少し鈍くなっていた。


 数日練習を休んだせいだろう。


 また最初からやり直すほどではないが、取り戻すのに時間がかかりそうだ。


 まあ、焦らなくていい。


 時間はある。


 金属を磨いた。


 静かだった。


───


 廊下では。


 レリスがアモンの後をついて歩いていた。


「アモン、きのうどこいってたの」


「北チュ」


「おじさんといっしょに?」


「まあチュ」


「なにしてたの」


「色々チュ」


 レリスが少し考えた。


「たたかったの?」


「まあチュ」


「つかれた?」


 アモンが少し間を置いた。


「少しチュ」


「だいじょうぶ?」


「うるさいチュ」


 レリスが笑った。


「だいじょうぶなんだね」


 アモンが欠伸をした。


「心配するなチュ」


「ともだちだから心配」


「うるさいチュ」


 アモンが歩き続けた。


 レリスがついていった。


───


 執務室では。


 セバチャが書類を広げていた。


 帝国からの報告。


 共和国の動き。


 バイサーヤ教の現状。


 様々な情報が集まっていたが、肝心なことが分からなかった。


 カキンオー様が北でどう動かれたか。


 何があったか。


 カイト様はどこへ行ったか。


 セバチャは地下の扉をノックした。


 返事がないまま扉が開いた。


「カキンオー様、先日の件について伺えますか」


 カキンオーが顔を上げた。


「カイト様は今どちらに」


 カキンオーが首を横に振った。


「バイサーヤ教との戦闘の詳細は」


 カキンオーが小さく頷いた。


「頷かれても」


 カキンオーは作業台に視線を戻した。


 セバチャが少し間を置いた。


「アモンは何か知っていますか」


 廊下の奥から声がした。


「うるさいチュ」


 セバチャが静かに息を吐いた。


 しばらく扉の前に立っていた。


 カキンオーは金属を磨き続けていた。


「……分かりました。自分で調べます」


 扉が閉まった。


───


 セバチャが執務室に戻った。


 椅子に座った。


 羽根ペンを取り出した。


 情報収集の手順を書き始めた。


 帝国の兵士たちへの聞き込み。


 街道沿いの住民の証言。


 バイサーヤ教の動向確認。


 ユキナという人物の身元調査。


 順番に当たれば、だいたいのことは分かるはずだ。


───


 夕方、帝国からの情報が届いた。


 街道での戦闘の概要。


 兵士たちの証言。


 南の魔王が二人の勇者と戦った。


 片方の洗脳が解けた。


 もう片方は逃走した。


 そして南の魔王が叫んだ。


 カイト様の名前を呼んで、叫んだ。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 カキンオー様が、叫ばれた。


 あのカキンオー様が。


 セバチャはしばらく天井を見た。


 整理しなければならない。


 まず、カキンオー様は一人で城を出られた。


 誰にも言わずに。


 次に、二人の勇者と単独で戦われた。


 そして叫ばれた。


 カイト様の名を。


 結果、ユキナという人物の洗脳が解けた。


 ユキナは極大魔法でバイサーヤ教とファルネイスの前衛を壊滅させた。


 そしてカイト様は逃げた。


 セバチャはここで大きく頷いた。


 待て。


 カイト様の洗脳も、揺れていたはずだ。


 しかしカイト様は逃げた。


 洗脳が解けたのに、逃げた。


 なぜか。


 解けていなかったから逃げた?


 いや、兵士の証言によれば、カイト様の目に一瞬感情が戻っていた。


 つまり、ある程度は解けていた。


 それでも逃げた。


 なぜか。


 セバチャは静かに考えた。


 カイト様はバイサーヤ教の内部にいた。


 洗脳されている間に、様々な情報を得ていたはずだ。


 儀式の詳細、神官たちの計画、内部の構造。


 そしてカイト様は今、その情報を持ったまま行方不明だ。


 つまり。


 カイト様はわざと逃げたのだ。


 情報を持ち帰るために。


 表向きは逃走、実態は潜入工作。


 カキンオー様はそれを見越して、カイト様の洗脳を完全に解かなかった。


 完全に解いてしまえば、カイト様が潜入工作員として動けなくなるから。


 中途半端に揺さぶることで、カイト様が自分の意思で動ける状態を作った。


 そしてユキナを使ってバイサーヤ教とファルネイスの戦力を壊滅させた。


 一夜にして、二つの勢力がガタ落ちになった。


 はからずとも、大陸の勢力図が塗り変わった。


 まさか、ここまで読んでおられたとは。


 セバチャは羽根ペンを置いた。


 そして静かに、もう一段深く考えた。


 フロストスは撃退された。


 シルネアは定期的に情報を持ってくる。


 帝国は「いつでも来るがいい」という一言で恭順した。


 バイサーヤ教とファルネイスは壊滅した。


 ホノボーノン教は動けない。


 カイト様は潜入工作員として動いている。


 つまり。


 大陸の支配は、すでに完成しているのではないか。


 カキンオー様は何もしていないように見えて、すべてを掌握しておられる。


 戦わずして、大陸を手中に収めておられる。


 もはや魔王などという器ではない。


 セバチャは震える手で羽根ペンを走らせた。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 なんと恐ろしい御方か。


 報告書の末尾に、震える手で支配完了と書き添えた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 夜、カキンオーはベッドに横になっていた。


 天井を見ていた。


 静かだった。


 ユキナ。


 帝国が保護しているらしい。


 ユキナは、ゲームの頃からカキンオーを知っていた。


 知っていた、どころか。


 カキンオーは少し目を閉じた。


 あいつは、ゲームの頃からずっとカキンオーにつきまとっていた。


 何度ログアウトしても、次にログインすると現れた。


 城に何度も挑みに来た。


 負けても、また来た。


 また負けても、また来た。


 カキンオーは当時、かなり消耗していた。


 そういうやつだった。


 カキンオーは天井を見た。


 会いたくない。


 心の底から、そう思った。


 でも、帝国が保護しているとなれば、いずれ接触してくるかもしれない。


 「いつでも来るがいい」と言ってしまった。


 あれは帝国に向けた言葉だったが、ユキナにも届いているかもしれない。


 カキンオーは目を閉じた。


 静かだった。


 嫌な予感がした。



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