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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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40,叫び

 帝国の北の街道で、戦闘が起きていた。


 帝国の精鋭部隊、三十人が壁際に追い詰められていた。


 相手は二人だった。


 一人は黒髪の若い女性。


 もう一人は、がっしりとした体格の男だった。


 二人とも、目の焦点が合っていなかった。


 感情がなかった。


 ただ、命令通りに動いていた。


 隊長が叫んだ。


「カイト殿! 正気に戻ってください!」


 カイトは答えなかった。


 剣を構えたまま、一歩前に出た。


 ユキナも一歩前に出た。


 兵士たちが後退した。


 もう下がれる場所がなかった。


 その時。


 街道の南から、人影が歩いてきた。


 一人だった。


 黒いローブを纏った、少し痩せた青年だった。


 兵士の一人が叫んだ。


「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」


 青年は聞こえなかったのか、歩みを止めなかった。


 カイトが青年を見た。


 青年がカイトを見た。


 無言だった。


 カイトが剣を向けた。


「排除する」


 踏み込んだ。


 斬撃が放たれた。


 青年は避けなかった。


 右腕で受けた。


 鎧もない。


 素のローブのままで受けた。


 血が出た。


 青年はそれでも動かなかった。


 ただ、カイトを見ていた。


 カイトが二撃目を放った。


 また受けた。


 三撃目。


 また受けた。


 カイトが止まった。


 なぜ避けないのか、処理できなかった。


 命令にない行動だった。


 青年がゆっくりと右手を上げた。


 傷に意識を向けた。


 温かいものが流れた。


 傷が塞がった。


 回復魔法だった。


 カイトがそれを見た。


 ユキナがそれを見た。


 兵士たちもそれを見た。


 誰も動かなかった。


 青年が再びカイトを見た。


 無言だった。


 カイトが我に返ったように、もう一度剣を構えた。


 そしてユキナも動いた。


 二人同時に踏み込んだ。


───


 二人相手の戦闘が始まった。


 青年は指輪に意識を向けた。


 装備が展開した。


 黒鎧が纏わりつき、兜が頭を覆い、マントが広がった。


 カイトの剣が鎧に当たった。


 火花が散った。


 ユキナの魔法が飛んできた。


 右手で弾いた。


 二人の攻撃を同時に捌き続けた。


 殺せない。


 だから決め手がない。


 カイトの剣をいなして、ユキナの魔法を弾いて、ただ凌ぎ続けた。


 膠着状態が続いた。


 カキンオーの頭の中で、考えが巡った。


 ケアをかけてみよう。


 カイトの隙を見て、右手をカイトに向けた。


 流れを作った。


 ケアをカイトに向けて放った。


 カイトが一瞬だけ止まった。


 しかし、すぐに動き出した。


 効いていない。


 チャーム解除も試した。


 同じだった。


 やはり効かない。


 これは状態異常じゃない。


 もっと深いところを書き換えられている。


 どうすればいい。


 その時、後ろから声がした。


「ちょっと待チュ」


───


 戦闘の端で、アモンが座っていた。


 二人の動きを眺めていた。


 赤い目が、細くなっていた。


「これ、召喚魔法の系統チュ」


 カキンオーが一瞬だけアモンを見た。


 カイトの剣を捌きながら。


「召喚魔法チュ。悪魔は使えるチュ」


 アモンが立ち上がった。


「カキンオーが知らないのは当然チュ。でも俺は知ってるチュ」


 アモンが小さく笑った。


「久しぶりに本気を出チュ」


 アモンの体が、少し変わった。


 小さなネズミのままだった。


 しかし、その周囲の空気が変わった。


 重くなった。


 冷たくなった。


 アモンが口を開いた。


 言葉ではなかった。


 音でもなかった。


 それは、もっと古いものだった。


 悪魔の言語だった。


 周囲の空気が震えた。


 兵士たちが一斉に後退した。


 カイトが止まった。


 ユキナが止まった。


 二人の体が、小刻みに震え始めた。


 洗脳が、揺れていた。


「今チュ」


 アモンが叫んだ。


「今しかないチュ!」


───


 カキンオーは一瞬だけ、全てを忘れた。


 作戦も、魔法も、何もかも。


 ただ、カイトを見た。


 震えているカイトを。


 洗脳の中で、何かが揺れているカイトを。


 言葉が出た。


 叫んだ。


「カイト、返ってこい!!」


 街道に響いた。


 こんなに大きな声を出したのは、いつぶりだろうか。


 出したことがあったかどうかも分からないくらい、大きな声だった。


 ユキナの体が、大きく揺れた。


 ユキナの目の焦点が、合った。


 ユキナが膝をついた。


「な、なに、私、どこ」


 ユキナが頭を抱えた。


 洗脳が解けた。


 しかし、カイトは違った。


 カイトの体が、さらに激しく震えた。


 カキンオーを見た。


 一瞬だけ、焦点が合った。


 一瞬だけ、カイトの目に、感情が戻った。


 恐怖だった。


 自分が何をしていたか、断片的に見えたのかもしれない。


 カイトが叫んだ。


 言葉にならない叫びだった。


 そのまま、走り出した。


 北へ。


 街道の奥へ。


 あっという間に姿が消えた。


───


 カイトの叫ぶ姿が悲しかった。


 カキンオーは追えなかった。


 足が動かなかった。


 追う言葉も出なかった。


 街道に静寂が戻った。


 ユキナが地面に座ったまま、肩を震わせていた。


 兵士たちが呆然としていた。


 アモンがカキンオーの隣に来た。


「カイトは、自分が何をしたか見えたチュ」


 カキンオーは答えなかった。


「だから逃げたチュ」


 答えなかった。


「追いかけるチュ?」


 カキンオーは北の街道を見た。


 カイトの姿は、もうなかった。


 足が、動かなかった。


 アモンが静かに言った。


「今は無理チュ。あいつが自分で戻ってくるのを待つしかないチュ」


 カキンオーは北の空を見た。


 晴れていた。


 遠く、カイトが走り去った方向を見た。


 何も見えなかった。


 ユキナが顔を上げた。


 カキンオーを見た。


 カキンオーを見た瞬間、その目が大きくなった。


「あれ?カキンオー、さん?」


 カキンオーは振り返った。


 ユキナを見た。


 ユキナが震える声で言った。


「カキンオーさん、ですよね?」


 カキンオーは固まった。


 ユキナを知っていた。


 知っていたが、思い出したくなかった。


 アモンが小さく呟いた。


「面倒くさいことになってきたチュ」



【作者より】


ついに城を出て声を荒げたカキンオー。しかしカイトは逃亡し、さらにはユキナとの現実世界(?)での繋がりが……!?


アモン「うるさいチュ」


物語が大きく動く第40話、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!

「この先どうなっちゃうの!?」「早く続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひページ一番下の【評価ポイント】を押して、彼らの過酷な運命を応援していただけると執筆の大きな励みになります!

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