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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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36/72

36,感覚

 朝、カイトが荷物をまとめていた。


 レリスが部屋の入口に立っていた。


「またいくの」


「ああ」


「いつかえるの」


「来月の満月の前には戻る」


「まんげつ?」


「丸い月の夜だ」


「まんまる?」


「そう」


 レリスが少し考えた。


「わかった」


「今度はすぐ帰る」


「ほんとう?」


「本当に」


 レリスが頷いた。


 カイトが荷物を担いだ。


───


 廊下で、ライラとタルドが見送った。


「道中お気をつけて」


「ありがとう」


「お土産、期待しています」


「え」


 ライラが微笑んだ。


「冗談です」


「ライラさんの冗談、分かりにくいな」


 タルドが小さく笑った。


 セバチャが城門の前に立っていた。


「情報収集、よろしくお願いします」


「任せろ」


「くれぐれもご無理なさらず」


「分かってる」


 カイトが歩き出した。


 地下への石段の前で、カキンオーが立っていた。


 カイトが振り返った。


「じゃあな」


 カキンオーが小さく頷いた。


「満月までには戻る」


 また頷いた。


 カイトが手を上げた。


 カキンオーが小さく手を上げた。


 カイトが城門を出ていった。


───


 城に静けさが戻った。


 カイトがいなくなると、空気が少し違った。


 賑やかさが減った。


 それはそれで、悪くなかった。


 俺は作業場に戻った。


 やることは決まっていた。


 僧侶スキルの練習だ。


 全ジョブカンストの中に、僧侶がある。


 回復魔法、状態異常解除、補助魔法が使える。


 状態異常解除は、意思の刷り込みにも効くかもしれない。


 でも、その前に基本の回復魔法から始めよう。


 俺は作業台に座った。


 右手を見た。


 フロストスを殴った時、赤くなった。


 もう治っているが、うっすらと痕があった。


 これを治してみよう。


 頭の中のスキルを探した。


 回復魔法の項目があった。


 ヒール、ケア、リジェネ。


 一番弱いヒールを試してみる。


 俺は右手に意識を向けた。


 光が手のひらから出るイメージ。


 何も起きなかった。


 もう一度。


 同じ。


 何かが違う。


 俺はしばらく考えた。


 鍛冶のイメージは「形」だった。


 魔法はどうだろうか。


 少し違う気がする。


 形ではなく、別の何か。


 俺はもう一度試した。


 光を出すのではなく、体の中の何かを流す感覚。


 右手に、温かいものが流れた気がした。


 うっすらとした痕が、少し薄くなった。


 ほう。


 なんとなく、感覚が掴めそうだった。


 鍛冶は「形のイメージ」。


 魔法は「流れのイメージ」。


 そういうことらしい。


───


 数時間後、俺は左手に軽く切り傷をつけた。


 わざとだ。


 練習のためだ。


 痛いけど、仕方ない。


 切り傷に意識を向けた。


 流れを作った。


 温かいものが流れた。


 切り傷が、ゆっくりと塞がった。


 少し時間はかかったが、確実に塞がった。


 悪くない。


 感覚が固まってきた。


 俺はもう少し深い切り傷をつけた。


 今度はもう少し痛かった。


 同じように流した。


 今度は少し速く塞がった。


 コツが掴めた気がした。


 流れの強さと、意識の集中。


 それだけだ。


 俺は一息ついた。


 悪くない一日だった。


───


 そこに扉がノックされた。


 返事をしないでいると、扉が開いた。


 レリスだった。


「おじさん、なにしてるの」


 俺は少し固まった。


 左手の切り傷はもう塞がっていたが、血の跡が残っていた。


 レリスが俺の手を見た。


「てがあかい」


「……」


「いたいの?」


 俺は首を横に振った。


 レリスが俺の手を両手で包んだ。


「いたいのいたいのとんでいけ」


 俺は少し止まった。


「なおった?」


 俺は小さく頷いた。


 レリスがにこにこした。


「よかった!」


 走って出ていった。


「タルドー! おじさんがまたてをいたくしてたよー!」


 廊下の奥から、タルドの驚いた声が聞こえた。


「カキンオー様が? 何してるんだ?」


 俺は作業台に戻った。


 まあ、心配されるほどではない。


 次は付与の練習をしよう。


───


 付与の感覚は、回復魔法と似ていた。


 流れを作る。


 対象に流す。


 違うのは、流す対象が金属で、流すのは属性や効果だった。


 俺は作業台の剣を手に取った。


 昨日仕上げた剣だ。


 形は悪くない。


 これに火の属性を付与してみる。


 手のひらに火のイメージを作った。


 それを剣に流した。


 何も起きなかった。


 もう一度。


 同じ。


 俺はしばらく考えた。


 火のイメージが弱かったのかもしれない。


 もっと明確なイメージ。


 赤く燃える、熱い、焼く、焦がす。


 そのイメージを剣に流し込んだ。


 剣の刃が、一瞬だけ赤く光った。


 光が消えた。


 でも、何かが残った気がした。


 俺は剣を振った。


 空気が少しだけ揺れた。


 ほんの少しだけ、熱い風が生まれた。


 できた。


 まだ不安定だけど。


 でも、できた。


 俺はしばらく剣を眺めた。


 悪くない。


 かなりいい。


 今日は収穫があった。


───


 夕方、ライラが夕食を持ってきた。


「カキンオー様、お食事です」


 俺は作業台から顔を上げた。


 ライラがトレイを置いた。


「今日は、何か特別な日ですか」


 俺は少し首を傾げた。


「なんとなく、ご機嫌がいいように見えて」


 俺は少し考えた。


 そうかもしれない。


 付与ができた。


 まあ、機嫌がいいとまでは言わないが、悪くない気分ではある。


 俺は小さく頷いた。


 ライラが微笑んだ。


「よかったです」


 ライラが部屋を出た。


 俺はシチューを食べた。


 うまかった。


 作業台の剣を眺めた。


 明日はもう一本作ろう。


 今度は最初から付与前提で作ろう。


 次は氷属性にしてみようか。


 それとも電撃か。


 考えるだけで、なんか楽しかった。


 静かだった。


 カイトが戻るまで、まだ時間がある。


 その間にもう少し練習しよう。


 そう思った。




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