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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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35/70

35,殺到

 朝、セバチャが地下の扉をノックした。


「カキンオー様、ご報告があります」


 俺は作業台から顔を上げた。


「昨日より、謁見の申請が殺到しております」


 俺は手を止めた。


「帝国から二件。共和国から三件。バイサーヤ教から一件。ホノボーノン教から一件。その他、身元不明の使者が四件」


 セバチャが一呼吸置いた。


「合計十一件です。本日だけで」


 俺はしばらく黙っていた。


 十一件。


 一日で。


 フロストスの件が広まったらしい。


「いかがなさいますか」


 俺は少し考えた。


 全部断るのは簡単だ。


 でも全部断ったら、また乗り込んでくるかもしれない。


 受けるとしたら、どう捌くか。


 俺はセバチャを見た。


 セバチャが静かに言った。


「私にお任せいただけますか」


 俺は頷いた。


「全権を」


 また頷いた。


 セバチャが深く頭を下げた。


「御意のままに」


───


 執務室で、セバチャが申請書類を広げた。


 カイトが向かいに座っていた。


「手伝えることがあれば」


「ありがとうございます。では、帝国の件についてお聞きしてもよろしいですか」


「もちろん」


「帝国の申請、二件の内訳は」


「一件はモブテキからの正式な使者。フロストスの件への謝意と、今後の関係についての協議を求めてる」


「謝意、ですか」


「帝国領でフロストスが暴れた。その鎮圧を、結果的にカキンオーがしてくれた形になってる。モブテキはそれに礼を言いたいらしい」


 セバチャが書き留めた。


「もう一件は」


「帝国軍の将軍からだ。南の城との軍事同盟を結びたいという申請」


 セバチャが少し間を置いた。


「軍事同盟、ですか」


「フロストスを一撃で吹き飛ばした存在と同盟を結べれば、帝国は無敵だと思ったんだろ」


「カキンオー様のご意向としては」


カイトが苦笑いした。


「断るだろうな。あいつは静かに暮らしたいだけだから」


 セバチャが深く頷いた。


「まあ、そうなりますね」


───


 謁見の間では。


 午前中から使者が次々と通された。


 セバチャが全員を捌いた。


 帝国の使者には「謝意はカキンオー様に伝えます。軍事同盟については検討中とお伝えください」と告げた。


 共和国の使者三件は、いずれも南の城との通商関係の樹立を求めてきた。


「カキンオー様のご判断を仰ぎます」と告げて帰した。


 バイサーヤ教の使者には「カキンオー様はすべてをご存知です」と言った。


 使者が青くなって帰った。


 ホノボーノン教の使者は「南の城は神の意志に従うべきだ」と主張した。


 セバチャが静かに微笑んだ。


「カキンオー様は神の意志そのものです」


 使者が混乱して帰った。


 身元不明の四件は全員断った。


 理由は聞かなかった。


───


 昼過ぎ、セバチャが地下の扉をノックした。


「午前中の件、ご報告します」


 俺は作業台から顔を上げた。


 セバチャが淡々と報告した。


 帝国の謝意。


 軍事同盟の打診。


 通商関係の樹立要請。


 両宗教からの接触。


 俺はそれを聞きながら、金属を磨いていた。


 面倒くさい。


 でも、セバチャが全部捌いてくれた。


 セバチャが最後に言った。


「軍事同盟については、いかがなさいますか」


 俺は首を横に振った。


「通商関係については」


 少し考えた。


 素材が売れるなら悪くないかもしれない。


 小さく頷いた。


「分かりました。共和国との通商について、詳細を詰めます」


 セバチャが頭を下げた。


「もう一件」


 俺は顔を上げた。


「バイサーヤ教の使者が来ました。おそらく、召喚儀式の件についての接触だと思われます」


 俺は少し間を置いた。


 カイトから聞いた話が頭をよぎった。


 意思を刷り込む儀式。


 来月の満月。


「カキンオー様、バイサーヤ教の件については何かお考えはありますか」


 俺は答えられなかった。


 考えてはいる。


 でも、答えが出ていない。


 首を横に振った。


 セバチャが頷いた。


「引き続き考えます。御意のままに」


───


 夕方、カイトが作業場に顔を出した。


「セバチャさん、すごいな」


 俺は手を止めた。


「午前中だけで十一件捌いた。しかも全部それなりの形で収めた」


 俺は頷いた。


 まあ、セバチャは有能だ。


「お前、いい人材を持ってるな」


 俺は少し考えてから、また頷いた。


 カイトが作業台の剣を眺めた。


「それ、付与の練習か」


 俺は頷いた。


「うまくいってるか」


 俺は少し首を傾げた。


 なんとも言えない。


 感覚は掴めてきた。


 でも、まだ不安定だ。


 カイトが椅子に座った。


「バイサーヤ教の件、少し考えてたんだけど」


 俺は手を止めた。


「召喚された人物が、意思を刷り込まれた状態で現れる。それを止める方法があるとすれば」


 カイトが少し考えた。


「儀式そのものを止めるか、召喚された人物を助けるか、どちらかだと思う」


 俺は聞いていた。


「儀式を止めるには、神殿に乗り込む必要がある。でもそれは、お前には向いてない」


 俺は頷いた。


 向いていない。


 絶対に向いていない。


「となると、召喚された人物を助ける方が現実的だ。意思の刷り込みが解除できるかどうか、分からないけど」


 カイトが俺を見た。


「何かできそうか」


 俺はしばらく考えた。


 全ジョブカンストの中に、僧侶がある。


 状態異常の解除スキルがある。


 意思の刷り込みが状態異常に分類されるかどうかは分からない。


 でも、試す価値はあるかもしれない。


 俺は小さく頷いた。


 カイトが頷き返した。


「そうか。じゃあ、召喚されたやつが城に来たら、お前に任せる」


 俺は頷いた。


 来るかどうかも分からないけど。


 まあ、来たら考えよう。


 カイトが立ち上がった。


「飯、できてるらしいぞ。ライラが呼んでた」


 俺は作業台の剣を置いた。


 まあ、腹は減っている。


 二人で作業場を出た。


───


 城の二階では。


 セバチャが報告書を書いていた。


 本日、十一件の謁見申請を処理した。


 フロストス撃退の件が大陸全土に広まりつつある。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 カキンオー様はフロストスを撃退された。


 その噂が広まった結果、各勢力が一斉に動き出した。


 カキンオー様は何もしていない。


 ただ、フロストスが来たから対応しただけだ。


 それだけで、大陸が動いた。


 もはやカキンオー様を中心に、世界が回り始めている。


 大陸支配など、とうに達成されているのかもしれない。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 セバチャは報告書の末尾に、震える手でそう書き添えた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 地下では。


 俺はライラが作ったシチューを食べていた。


 うまかった。


 カイトが隣で食べていた。


 レリスが向かいで食べていた。


「おじさん、きょうおきゃくさんいっぱいきたんだって」


 俺は頷いた。


「なんで?」


 俺は少し考えた。


 答えようがなかった。


 カイトが代わりに言った。


「カキンオーが有名になったからだ」


「ゆうめい?」


「ドラゴンをやっつけたから」


 レリスが目を輝かせた。


「おじさん、ゆうめいなの!?」


 俺は首を横に振った。


 有名になりたくない。


 静かに暮らしたい。


 レリスがにこにこした。


「すごいじゃん!」


 俺はシチューを食べた。


 全然すごくない。


 ただ、面倒くさくなっただけだ。


 静かだった。


 まあ、飯はうまかった。


 それでいい。



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