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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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33/71

33,フロストス

 朝、セバチャが地下の扉をノックした。


「カキンオー様、緊急のご報告があります」


 俺は作業場から顔を上げた。


「フロストスが帝国領に入りました。現在、北東に向かって移動しています」


 俺は手を止めた。


「帝国の軍が迎撃を試みましたが、全滅しました」


 全滅か。


「近隣の村の避難は完了しています。ただ」


 セバチャが少し間を置いた。


「このまま北東に進めば、明日か明後日には城の射程に入ります」


 俺は頷いた。


「カキンオー様、どうされますか」


 俺はしばらく考えた。


 フロストスは俺のテリトリーを犯していない。


 まだ。


 でも、このまま来れば犯すことになる。


 その時どうするか。


 まあ、その時考えよう。


「様子を見る」


 セバチャが頷いた。


「御意のままに」


───


 城の廊下では。


 ライラがレリスの手を引いて歩いていた。


 レリスが南西の窓を見た。


「ライラ、そらがへんな色してる」


「そうですね」


「なんで?」


「フロストスという方が暴れています」


「フロストスって?」


「大きなドラゴンです」


 レリスが目を丸くした。


「ドラゴン! みたい!」


「駄目です」


「なんで!」


「危ないからです」


 レリスがむすっとした。


「おじさんはみるの?」


 ライラが少し間を置いた。


「カキンオー様は、大丈夫です」


「なんで?」


「カキンオー様だからです」


 レリスがよく分からないという顔をした。


 アモンが廊下の隅から言った。


「強いからチュ」


「アモンもしってるの?」


「まあチュ」


「アモンはこわい?」


 アモンが少し間を置いた。


「フロストスは古い存在チュ。強いチュ」


「おじさんより?」


「それはないチュ」


「なんで分かるの?」


「なんとなくチュ」


 レリスが頷いた。


「じゃあだいじょうぶだね」


「まあチュ」


───


 同じ頃、帝国の帝都では。


 モブテキが執務室で頭を抱えていた。


 机の上に報告書が山積みになっていた。


 軍が全滅。


 村が消えた。


 住民が逃げている。


 被害が拡大している。


 モブテキが顔を上げた。


「カイトはどこにいる」


「現在、帝国の東の街にいると思われます」


「呼べ」


「はい」


 伝令が飛び出した。


 モブテキが窓の外を見た。


 南西の空が、微かに光っていた。


「面倒くさいことになった」


 独り言だった。


 誰も答えなかった。


───


 帝国の東の街で。


 カイトは伝令を受け取った。


 読んだ。


 顔を上げた。


 南西の空を見た。


 遠く、山脈の方角から、何かが光っていた。


 カイトは少し考えた。


 モブテキに会いに行くべきか。


 それとも。


 カイトは荷物をまとめ始めた。


 城に行こう。


 モブテキへの返事は後でいい。


 あいつのところに行かなければならない気がした。


 理由はうまく言えないけど。


 カイトは宿を出た。


───


 翌朝。


 城の南西の空が、白く輝いていた。


 ブレスだった。


 遠かったが、近づいていた。


 タルドが城門の上から南西を見た。


 でかい影が見えた。


 翼を広げた、巨大な影だ。


「来ます」


 セバチャが頷いた。


「ライラ、レリスを地下に」


「はい」


 ライラがレリスを抱えて走った。


「みたい!」


「駄目です」


「みたい!!」


「駄目です」


 声が遠ざかっていった。


 セバチャがタルドに言った。


「タルドさんも城内に」


「セバチャさんは」


「私もすぐに入ります」


 タルドが城内に駆け込んだ。


 セバチャは空を見上げた。


 巨大な影が、着実に近づいていた。


 翼の一振りで、空気が揺れた。


 セバチャは城内に入った。


 扉を閉めた。


───


 地下の作業場で。


 俺は付与の練習をしていた。


 なんか感覚が掴めてきた気がした。


 そこに、轟音が響いた。


 城全体が揺れた。


 ブレスだ。


 城の外に当たったらしい。


 俺は作業台に剣を置いた。


 まあ、出るか。


 テリトリーを犯された。


 仕方ない。


 俺は指輪に意識を向けた。


 装備が展開していく。


 黒鎧が纏わりつき、兜が頭を覆い、マントが広がる。


 石段を上がった。


 城門を開けた。


 外に出た。


───


 フロストスは城の前に降り立っていた。


 巨大だった。


 城と同じくらいの高さがあった。


 全身が白銀の鱗で覆われていた。


 目が、赤かった。


 城門が開いた。


 黒鎧の存在が出てきた。


 フロストスが見下ろした。


 小さな存在だった。


 しかし。


 フロストスは動きを止めた。


 何かを感じた。


 この存在から、何かを感じた。


 言葉にできない、しかし確かな何かを。


 フロストスは動けなかった。


 長い沈黙があった。


 やがてフロストスが翼を広げた。


 飛び上がろうとした。


 その瞬間、フロストスの中で何かが弾けた。


 自分が引いた。


 この小さな存在の前で、自分が引いた。


 それが許せなかった。


 フロストスは翼を止めた。


 振り返った。


 喉の奥から、凄まじい冷気が溢れ出した。


 全力のブレスだった。


 山脈を吹き飛ばしたのと同じ力だった。


 白銀の奔流が、黒鎧の存在に向かって放たれた。


───


 俺はブレスを見た。


 でかい。


 かなりでかい。


 まあ、いいか。


 俺は右手を握った。


 拳を振るった。


 ブレスが、空に吹き飛んだ。


 そのまま拳を引かずに、前に踏み出した。


 フロストスの腹に、一撃を叩き込んだ。


 轟音がした。


 フロストスの巨体が、空に吹き飛んだ。


 遠く、南西の空に、白銀の影が消えていった。


 静寂が戻った。


 俺は拳を下ろした。


 少し痛かった。


 鱗が硬かった。


 まあ、なんとかなった。


 俺は城門に向かって歩き出した。


 入る前に振り返った。


 南西の空に向かって、小さく言った。


「次はないぞ」


 誰も聞いていなかった。


 まあ、聞こえればいい。


───


 城門の内側で、セバチャとタルドが息を呑んでいた。


 ブレスが吹き飛んだ。


 フロストスが吹き飛んだ。


 黒鎧の存在が、何事もなかったように戻ってきた。


 タルドが小さく言った。


「何をされたんですか」


 黒鎧は答えなかった。


 廊下を歩いて、地下への石段を降りていった。


 セバチャがしばらく動けなかった。


 タルドも動けなかった。


 二人が顔を見合わせた。


 何も言えなかった。


───


 地下の作業場で。


 俺は装備を解除した。


 右手を見た。


 少し赤くなっていた。


 まあ、すぐ治るだろう。


 作業台の剣を手に取った。


 付与の練習の続きをしよう。


 さっき少し感覚が掴めた気がした。


 静かだった。


───


 城の二階では。


 セバチャが報告書を書いていた。


 本日、フロストスが城に接近した。


 カキンオー様が城門を出て対峙された。


 フロストスのブレスを素手で吹き飛ばし、フロストスを殴り飛ばした。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 フロストスのブレスを、素手で。


 フロストスを、殴り飛ばした。


 セバチャは羽根ペンを置いた。


 しばらく天井を見た。


 カキンオー様の力の底が、まだ見えない。


 いや、底などというものが存在しないのかもしれない。


 セバチャは静かに結論を出した。


 カキンオー様は、この世界の常識の外におられる。


 それだけは確かだ。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 セバチャは報告書の末尾に、震える手でそう書き添えた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 夕方、レリスが作業場に飛び込んできた。


「おじさん! ドラゴンきたって! みたかった!」


 俺は手を止めた。


「みた?」


 俺は小さく頷いた。


「どうだった!」


 俺はしばらく考えた。


 鱗が硬かった。


 それだけだ。


 俺は右手をさすった。


 レリスが目を丸くした。


「いたかったの!?」


 俺は少し考えてから、小さく頷いた。


 レリスが心配そうな顔をした。


「だいじょうぶ?」


 俺は頷いた。


 レリスが俺の右手を両手で包んだ。


 小さな手だった。


「いたいのいたいのとんでいけ」


 俺は固まった。


 レリスが顔を上げた。


「よくなった?」


 俺はしばらく動けなかった。


 小さく、頷いた。


 レリスがにこにこした。


「よかった!」


 走って出ていった。


「タルドー! おじさんドラゴンとたたかったって! てがいたかったって!」


 廊下の奥から、タルドの驚いた声が聞こえた。


「手が、痛かった? カキンオー様が?」


 俺は剣を磨いた。


 右手は、もう痛くなかった。


 気のせいかもしれないけど。


 静かだった。


 まあ、なんとかなった。


 それでいい。



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