31,世界が動く
兜が完成した。
粗削りだが、悪くない出来だった。
剣より難しかった。
曲面が多いせいだ。
俺は兜を作業台に置いて眺めた。
タルドに渡そう。
城門で殴られた時、頭を打っていた。
次はそうならないように。
それだけだ。
深い理由はない。
俺は作業場を出た。
───
廊下でタルドに兜を渡した。
タルドが固まった。
「これ、俺にですか」
俺は頷いた。
「カキンオー様が作られた」
頷いた。
「……ありがとうございます」
タルドが兜を両手で持った。
少し間があった。
「被ってみます」
被った。
少し大きかった。
タルドが苦笑いした。
「大きいですね」
俺は少し固まった。
採寸していなかった。
まあ、調整できるだろう。
俺は地下に戻った。
次は採寸してから作ろう。
そう思った。
───
同じ頃、国境近くの中立地帯で。
帝国と共和国の使節が向かい合っていた。
バイサーヤ教のドリスも同席していた。
議題は一つだった。
三魔王への対応だ。
ヴェラノが書類を広げた。
「現状を整理します。東にシルネア、西にフロストス、南にカキンオー。三方を魔王に囲まれた状態です」
「圧迫とまでは言えないが」
「脅威です」
ハルトが続けた。
「南の城については、力では解決できないと判断しています。帝国の使者が謁見しましたが、成果はありませんでした」
「共和国もギルドが乗り込んで全滅しました」
「では、どうするか」
ドリスが口を開いた。
「我々バイサーヤ教は、新たな召喚の儀式を計画しています」
「また失敗するのでは」
「今回は違います」
ドリスが書類を取り出した。
「前回の召喚では、来た人物が役目を断りました。今回は、来た人物が断れないような状況を作ります」
ヴェラノが目を細めた。
「具体的には」
「召喚と同時に、勇者としての使命を刷り込む儀式を追加します。前回は本人の意思を尊重しすぎました」
ハルトが眉をひそめた。
「それは、本人の意思を無視するということですか」
「非常時です」
沈黙があった。
「日程はいつですか」
「来月の満月の夜に実行します」
その時、扉が開いた。
伝令が飛び込んできた。
「失礼します、緊急の報告です」
全員が振り返った。
「西の山脈から報告が入りました。帝国の偵察隊、十二名が山脈の調査中に行方不明になりました」
ハルトが立ち上がった。
「行方不明、とは」
「フロストスのテリトリーに迷い込んだ可能性があります」
広間が静まり返った。
「山脈の周辺住民から報告が入っています。昨夜から山脈の奥で、異常な気配がすると」
ドレイスが静かに言った。
「フロストスが、目覚めたかもしれない」
誰も答えなかった。
ハルトが伝令に言った。
「山脈周辺の住民を避難させろ。今すぐ」
「はい」
伝令が飛び出した。
広間に残った三者が顔を見合わせた。
ヴェラノが静かに言った。
「三魔王問題が、一つ動き始めましたね」
───
城の地下では。
俺は次の作業の準備をしていた。
次はもう少し小さく作ろう。
採寸が必要だ。
静かだった。
西の山脈で何かが起きていることを、俺は知らなかった。




