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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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30/73

30,外の話

 帝都の街は賑やかだった。


 市場に人が溢れ、石畳の上を荷馬車が走り、どこからか料理の匂いが漂ってくる。


 カイトはその中を歩いていた。


 今日の依頼は終わった。


 街外れに出没していた魔物の群れを片付けただけだ。


 特別なことは何もない。


 いつもと同じだ。


 屋台で肉を一串買って、かじりながら歩いた。


 うまかった。


 帝都の飯は悪くない。


 城の飯の方がうまいけど。


 カイトはそう思って、少し笑った。


 魔王の城の飯が一番うまいというのも、妙な話だ。


───


「カイト」


 後ろから声がした。


 振り返った。


 護衛を数人連れた、普通の体格の男が歩いてきた。


 くたびれた顔をしていたが、目だけは真剣だった。


 モブテキだった。


「よう、皇帝陛下」


「その呼び方はやめろと言っている」


「じゃあモブテキさん」


「それでいい」


 モブテキが隣に並んで歩き始めた。


 護衛たちが少し離れてついてくる。


「今日も依頼か」


「ああ。街外れの魔物を片付けた」


「助かる」


「金になるから別にいいんだが」


 モブテキが苦笑いした。


「相変わらずだな」


 二人で屋台の前を通り過ぎた。


 モブテキが立ち止まった。


「腹が減った」


「皇帝が屋台で食うのか」


「たまにはいい」


 モブテキが肉串を一本買った。


 護衛たちが少し慌てた。


 モブテキが気にせずかじった。


「うまいな」


「だろ」


 二人で並んで歩いた。


 しばらく黙っていた。


 モブテキが口を開いた。


「南の城のことは聞いているか」


 カイトが少し間を置いた。


「まあ、少し」


「少し、か」


 モブテキが肉串を眺めた。


「帝国として、正式に動かなければならない時期が近づいている」


「どういう意味だ」


「共和国も宗教も、南の城への対応を模索している。帝国だけが動かないわけにはいかない」


 カイトが空を見上げた。


「具体的には何をするんだ」


「それが分からなくて困っている」


 モブテキが正直に言った。


「力で攻めても無駄だというのは、ギルドの件で分かった。交渉を試みたが、執事が出てきて終わった。宗教は謁見を申請して、何か言われて帰ってきた」


「何て言われたんだ」


「笑止、と」


 カイトが少し笑いそうになった。


「笑うな」


「笑ってない」


「笑いそうだっただろ」


「まあ」


 モブテキが息を吐いた。


「あの城の主は、何者なんだ。本当のところを教えてくれ」


 カイトはしばらく考えた。


「俺が知ってる限りでいいか」


「頼む」


「静かに暮らしたいだけのやつだ」


 モブテキが固まった。


「静かに、暮らしたい」


「ああ」


「あの城を構えて、魔王の格好をして、静かに暮らしたい」


「そうだ」


 モブテキがしばらく黙っていた。


「……それは本当か」


「俺が嘘をついてどうするんだ」


 モブテキが肉串を食べ終えた。


 串を捨てた。


「つまり、帝国が何もしなければ、向こうも何もしてこないということか」


「たぶんそうだ」


「脅威ではない、と」


「俺はそう思ってる」


 モブテキが少し考えた。


「だが、共和国や宗教が動けば、帝国も無視できない」


「それはそうだな」


「カイト、一つ頼みがある」


 カイトが少し警戒した。


「なんだ」


「南の城の主に、帝国は友好的だと伝えてくれないか」


「直接行けばいいだろ」


「使者を送ると向こうが身構える。お前が伝えれば、自然に届く」


 カイトが空を見上げた。


「まあ、また行くつもりではあるから、伝えてもいいが」


「助かる」


「ただ」


 カイトがモブテキを見た。


「あいつは、帝国がどう思っているかより、静かかどうかの方が大事だと思う」


「静かかどうか」


「帝国が何もしてこないなら、それだけで十分だと思う」


 モブテキが少し考えた。


「つまり、帝国は何もしなければいい」


「俺はそう思う」


 モブテキが頷いた。


「なるほど」


 二人がしばらく歩いた。


 モブテキが小さく言った。


「楽な相手だな」


「そうだろ」


「しかし、それを評議会や宗教に説明するのが難しい」


「それはモブテキさんの仕事だろ」


「そうなんだが」


 モブテキが疲れた顔をした。


「皇帝というのは、面倒なものだ」


「なりたくてなったんだろ」


「なりたくてなったわけじゃない。気がついたらなっていた」


 カイトが少し笑った。


「それ、俺と同じだな」


「勇者もか」


「なりたくてなったわけじゃない。気がついたら呼ばれてた」


 モブテキが苦笑いした。


「似た者同士だな、俺たちは」


「そうかもな」


───


 その夜、宿に戻ったカイトは、紙と羽根ペンを取り出した。


 しばらく考えた。


 書き始めた。


 カキンオーへ。


 元気か。


 俺は元気だ。


 帝国にいる。


 外の話を少し書く。


 帝国は友好的だ。モブテキという皇帝は悪いやつじゃない。静かに暮らしたいなら、帝国は邪魔をしないと思う。


 共和国と宗教は少し面倒くさそうだ。でも今すぐ何かしてくるわけじゃない。


 シルネアが城に来たと聞いた。


 お前のことだから、疲れただろうと思う。


 まあ、また行く。


 カイト


 カイトが手紙を折った。


 城に届けてくれる商人を探そう。


 そう思った。


───


 数日後、城の城門に、一人の商人が来た。


「カキンオー様宛の手紙を預かっています」


 タルドが受け取った。


 地下の扉をノックした。


「カキンオー様、カイト様からお手紙です」


 返事がないまま扉が開いた。


 タルドが手紙を差し出した。


 俺は受け取った。


 開いた。


 読んだ。


 カイトらしい手紙だった。


 余計なことは書いていない。


 でも、必要なことは全部書いてあった。


 俺はしばらく手紙を眺めた。


 シルネアが来たことを知っているのか。


 まあ、どこかから聞いたのだろう。


「疲れただろうと思う、か」


 俺は小さく声が出た。


 まあ、疲れた。


 正解だ。


 俺は手紙を折って、本棚の隙間に挟んだ。


 また作業場に戻った。


 今日は鍛冶の続きだ。


 静かだった。


 悪くない一日だと思った。


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