表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

3,整理していただけなのに


3,整理していただけなのに


 指輪の整理をしようと思ったのは、特に理由がなかった。


 ただ、天井を眺めるのに飽きた。


 それだけだ。


 俺は起き上がり、右手の人差し指の指輪に意識を向けた。


 収納リストが脳裏に広がる。


 膨大だ。


 武器だけでも数十種類。


 防具、魔道具、素材、消耗品。


 課金の歴史が、そのままリストになっている。


 眺めていると、ゲームをやっていた頃のことを思い出した。


───


 カキンオーは、ゲームの中のラスボスだった。


 正確には、プレイヤーでありながら公式にラスボスと認定された、前代未聞の存在だ。


 専用マップと専用の城を与えられ、挑んでくるプレイヤーたちを待ち受けるのが役割だった。


 最初は戸惑った。


 ラスボスとは何をすればいいのか、まったく分からなかった。


 だが、考えてみれば単純な話だった。


 プレイヤーが楽しめればいい。


 それだけだ。


 俺は研究した。


 他のゲームのラスボスがどんな台詞を言うか。


 どんな登場の仕方をするか。


 どんな演出が盛り上がるか。


 そして特訓した。


 定型文なら言える。


 演技なら喋れる。


 普段の会話は無理でも、ラスボスムーブは別だ。


「ぐわっはっはっは、愚かな冒険者どもよ」


 一人で練習するのは、かなり恥ずかしかった。


 だが、プレイヤーたちが城に来るたびに盛り上がっているのを見ると、悪くない気分だった。


 宝箱も置いた。


 挑んできたプレイヤーへの報酬として、城のあちこちに装備を入れた宝箱を配置した。


 プレイヤーたちが宝箱を開けて喜んでいるのを見るのが、意外と好きだった。


 誰かが喜ぶのを、遠くから眺めるのは、悪くなかった。


───


 俺は収納リストを眺めながら、そんなことを思い出していた。


 この世界でも、いらない装備は山ほどある。


 置いておいても仕方がない。


 どこかに出しておけばいいか。


 深く考えなかった。


 ゲームの頃と同じように、ただそう思っただけだ。


 指輪から木箱を二つ取り出した。


 一つに装備を数点入れて、廊下に出て置いておいた。


 もう一つは城の外に出て、城門のそばの目立つ場所に置いた。


 それだけだ。


 用が済んだので地下に戻った。


 ラスボス代行がそれを見ていた。


───


 城の外に箱が置かれていることに最初に気づいたのは、帝国の偵察兵だった。


 二人組の若い兵士が、沼地の外縁から城を観察する任務についていた。


 上官からの命令は単純だ。


 城の規模と動向を把握して報告せよ。


 近づくな。


 その命令を、二人はほぼ守っていた。


 ほぼ、というのは、城門のそばに見慣れない木箱が置かれているのを発見したからだ。


 二人は顔を見合わせた。


「罠か」


「かもしれない」


「でも箱だ」


「箱だな」


 しばらく二人は茂みの中から箱を眺めた。


 箱は動かない。


 何も起きない。


 ただそこにある。


「開けてみるか」


「死ぬかもしれない」


「でも箱だ」


 結局、じゃんけんで負けた方が恐る恐る近づき、震える手で蓋を開けた。


 中を見た。


 固まった。


「……おい」


「何だ」


「来い」


 もう一人が近づいて中を覗き込んだ。


 二人とも、しばらく黙っていた。


 箱の中には、剣が一本と、鎧が一式入っていた。


 どちらも、見たことのない作りだった。


 帝国の宮廷鍛冶師が作るものとも、ファルネイスの職人が作るものとも違う。


 剣の刃には、読めない紋様が刻まれていた。


 鎧の表面には、光の当たり方によって色が変わるような加工が施されていた。


 一人が生唾を飲み込んだ。


「これ、持って帰っていいのか」


「罠かもしれない」


「でも」


「持って帰ろう」


 二人は箱ごと抱えて、来た道を引き返した。


 早足で、しかし走らないように。


 走ったら負けな気がしたからだ。


───


 同じ頃、別の方角から城に近づいていた人物がいた。


 バイサーヤ教の若い修道士、ノームだ。


 任務は情報収集だった。


 南の魔王と呼ばれる存在について、教会として把握しておく必要がある。


 城門のそばに木箱が置かれているのを見つけた。


 ノームは立ち止まった。


 城の中から、少し痩せた青年が出てきて箱を置いていったことを見ていた。


 ノームは震えた。


 あれが、魔王か。


 普通の青年に見えた。


 だが、それが余計に恐ろしかった。


 ノームは手帳に書き殴った。


 城の主は、自ら城門を出て何かを置いた。


 無言で。


 無表情で。


 まるで儀式のように。


 ノームは手帳を閉じて、神殿への報告書を頭の中で組み立て始めた。


───


 夕方、セバチャが地下の扉をノックした。


 返事がないまま扉が開く。


「カキンオー様、本日城門付近に置かれた木箱の件ですが」


 俺は天井を見たまま動かなかった。


「外の箱は帝国の兵士が持ち去りました」


 そうか。


 セバチャが一呼吸置いた。


「なぜ今日、城門の外に箱を置かれたのでしょうか」


 俺は答えなかった。


 整理していただけだ。


 それだけだ。


 沈黙が続いた。


 セバチャが静かに、しかし確信に満ちた声で言った。


「なるほど。誰が持ち去るかを把握することで外の勢力を炙り出す。最小限の行動で最大限の情報を得る、ということですね」


 全然違う。


 セバチャが深く頭を下げた。


「箱を置くだけで……なんと深謀遠慮な御方か」


 俺は何も言わなかった。


 ただ天井を見ていた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 その夜、帝国の前線基地に一通の報告書が届いた。


 内容を読んだ副官が眉をひそめた。


「箱を持ち帰った?」


「はい。中身を添付してあります」


 副官が箱の中身を取り出した。


 剣を手に取り、刃の紋様を眺めた。


 鎧を広げ、加工の細かさを確認した。


 長い沈黙があった。


「これを、城の前に置いていたのか」


「はい」


「なぜだ」


「分かりません」


 副官がもう一度剣を眺めた。


 帝国最高の鍛冶師に作らせた剣より、明らかに上だ。


 それを、誰でも持っていけるように城の前に置いていた。


「上に報告しろ」


「何と書きますか」


 副官がしばらく考えた。


「南の城の主は、我々の知らない力を持っている。そして、それを惜しげもなく外に出している。理由は不明。以上だ」


───


 同じ頃、バイサーヤ教の神殿では。


 ノームの報告書を読んだ上級神官が立ち上がった。


「城の主が、自ら外に出て何かを置いた」


「はい」


「無言で」


「はい」


「無表情で」


「はい」


 上級神官が窓の外の南の空を見た。


「討伐か、接触か」


 誰も答えなかった。


───


 地下の自室では。


 俺はベッドに寝転がりながら、ぼんやりと考えていた。


 ゲームの頃、宝箱を置くとプレイヤーたちが喜んでいた。


 この世界でも、誰かが持っていったなら、まあよかったんじゃないか。


 そういえば、武器だけじゃなくて回復薬も置いていたな。


 あっちの方が喜ばれることもあった。


 次は回復薬でも入れておくか。


 深く考えるでもなく、そう思った。


 それだけだ。


 目を閉じた。


 静かだった。


 それでよかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ