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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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27/71

27,躾

 ファルネイスの商業区に、立派な商会があった。


 表通りに面した、三階建ての石造りの建物だ。


 看板には「ザガン商会」と書かれていた。


 セバチャはその建物を見上げた。


 朝の商業区は人通りが多かった。


 商人たちが行き交い、荷馬車が石畳を走っていた。


 賑やかな場所だった。


 セバチャは建物の扉を開けた。


───


 一階は商談用の広間だった。


 受付の男がセバチャを見た。


「どちら様でしょうか」


「カキンオー様の城より参りました。ザガン様にお取り次ぎいただけますか」


 受付の男が少し固まった。


 カキンオー。


 その名前に反応した。


「少々お待ちください」


 男が奥に消えた。


 しばらくして戻ってきた。


「どうぞ、三階へ」


───


 三階の部屋は広かった。


 中央に大きな机があった。


 窓から商業区が見渡せた。


 そして、部屋の四隅と壁際に、男たちが立っていた。


 全員、体格がよかった。


 全員、腕を組んでいた。


 全員、こちらを見ていた。


 護衛だ。


 数えると八人いた。


 部屋の空気が重かった。


 机の向こうに、ザガンが座っていた。


 穏やかな顔をしていた。


 目だけが穏やかではなかった。


「ようこそ、カキンオー様の執事殿」


 ザガンが微笑んだ。


「わざわざお越しいただいて、何のご用でしょうか」


 セバチャも微笑んだ。


「少々、お話があって参りました」


 セバチャが机の前の椅子に座った。


 護衛たちが少し動いた。


 セバチャは気にしなかった。


 懐から書類を取り出した。


 一枚、また一枚と、机の上に並べた。


 ミナの証言書。


 センの動きの記録。


 中間業者の名前と取引の記録。


 ゲスネイとの繋がりを示す証拠。


 全部で十二枚あった。


 ザガンが書類を見た。


 表情は変わらなかった。


「これは、何でしょうか」


「お分かりになると思いますが」


「さあ、私には」


 ザガンが書類を一枚手に取った。


 眺めた。


 机に戻した。


「初めて見るものばかりですね。私には関係のない話のようです」


 セバチャが静かに言った。


「そうですか」


「ええ。心当たりが全くありません」


「なるほど」


 ザガンが微笑んだ。


「それで、カキンオー様のご用件は何でしょうか。何かお力になれることがあれば」


 セバチャが少し間を置いた。


 静かに、しかしはっきりと呟いた。


「やはり、クズか」


 部屋の空気が変わった。


 ザガンの目から笑顔が消えた。


「……今、何と」


 セバチャが立ち上がった。


 その瞬間、どこからともなく杖が手に現れた。


 黒塗りの、細い杖だった。


 護衛の一人が動いた。


 セバチャに向かって踏み込んだ。


 次の瞬間だった。


 杖が一閃した。


 護衛が壁まで吹き飛んだ。


 壁にひびが入った。


 護衛は動かなかった。


 部屋が静まり返った。


 残りの七人が剣を抜いた。


 セバチャは動かなかった。


 ただ、杖を持って立っていた。


 背筋が伸びていた。


 いつもと変わらない立ち姿だった。


「カキンオー様の執事が、手ぶらで来るとお思いでしたか」


 七人が一斉に動いた。


───


 それからの時間は、短かった。


 杖が動くたびに、男が吹き飛んだ。


 一人、二人、三人。


 セバチャのスーツは剣を受けても傷一つつかなかった。


 四人、五人、六人。


 七人目が剣を捨てた。


 部屋の床に、八人が転がっていた。


 誰も動かなかった。


 セバチャが杖を消した。


 服の乱れを直した。


 ザガンを見た。


 ザガンが椅子に座ったまま、動けないでいた。


 顔から色が消えていた。


 セバチャが静かに口を開いた。


「穏便に済ませることもできたのですが」


 セバチャが書類を一枚手に取った。


「次に何かなさった場合は」


 一歩、前に出た。


「物も、人も、財産も、すべて破壊します」


 ザガンが後退しようとした。


 椅子ごと壁に当たった。


 セバチャの杖が、静かにザガンの左腕に向かって振り下ろされた。


 凄まじい音がした。


 ザガンの悲鳴が部屋に響いた。


 骨が折れていた。


「静かに」


 セバチャが折れた腕にもう一度杖を叩きつけた。


 さらに大きな悲鳴が上がった。


 セバチャが再び杖を構えた。


 ザガンが必死に声を押し殺そうとした。


 手で口をふさぎ声をかみ殺す。


 セバチャが静かに言った。


「逆らうな。従いなさい」


 ザガンが何度も頷いた。


 何度も、何度も頷いた。


 セバチャが杖を下ろした。


「カキンオー様は、私が百人いても傷一つつけられません」


 セバチャがザガンを見下ろした。


「愚かな野心は持たぬことです」


 ザガンは何も言えなかった。


 ただ頷いた。


 セバチャが書類をまとめた。


 懐にしまった。


「さて、躾は済みましたね」


 セバチャが深々と頭を下げた。


「ご多忙の中、お時間をいただきありがとうございました」


 セバチャが部屋を出た。


 廊下を歩いた。


 階段を降りた。


 建物を出た。


 商業区の朝の空気が広がっていた。


 セバチャは少し空を見上げた。


 青かった。


 まあ、これで十分だろう。


 城に戻ろう。


 セバチャは歩き出した。


───


 部屋では。


 ザガンが椅子に座ったまま、折れた腕を抱えていた。


 床に転がった護衛たちが、うめきながら起き上がり始めた。


 ザガンは窓の外を見た。


 セバチャの背中が商業区に消えていくのが見えた。


 ザガンは静かに息を吐いた。


 あの城は、関わってはいけない。


 執事があれなら、主はどれほどのものか。


 ザガンは折れた腕を見た。


 撤退だ。


 静かに、しかし完全に撤退する。


 それしかなかった。


───


 城に戻ったセバチャが、地下の扉をノックした。


 返事がないまま扉が開く。


「カキンオー様、ファルネイスより戻りました」


 俺は本から目を離した。


「ザガンへの件、片付きました」


 俺は少し間を置いた。


 頷いた。


「書類については、評議会への提出を保留しております。ザガンが再び動くようであれば、その時に使います」


 俺はまた頷いた。


 セバチャが深く頭を下げた。


「御意のままに」


 扉が閉まった。


 俺は本を開いた。


 セバチャが片付けてきたらしい。


 何をしてきたのかは分からないが。


 まあ、なんとかなったのなら、それでいい。


 ページをめくった。


 静かだった。


───


 城の二階では。


 セバチャが報告書を書いていた。


 本日、ファルネイスのザガン商会を訪問した。


 ザガンに直接伝えた。


 躾は完了した。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 カキンオー様から全権を委任されていた。


 その全権を、今日使った。


 果たしてカキンオー様のご意向に沿っていたかどうか。


 しかしカキンオー様は頷かれた。


 沈黙は肯定である。


 つまり、これで良かったのだ。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 セバチャは報告書の末尾に、丁寧な字でそう書き添えた。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 廊下では。


 レリスがアモンの後をついて歩いていた。


「アモン、セバチャどこいってたの」


「知らないチュ」


「おしごと?」


「知らないチュ」


「なんかつよそうだよね、セバチャ」


「まあチュ」


 レリスが少し考えた。


「カキンオーおじさんより、つよい?」


 アモンが少し間を置いた。


「それはないチュ」


「なんで?」


「なんとなくチュ」


 レリスがまた考えた。


「そうなの?」


「そうチュ」


 レリスが走り出した。


「おじさーん! セバチャかえってきたよー!」


 アモンが欠伸をした。


「うるさいチュ」





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