26,また来るよ
朝、カイトが荷物をまとめていた。
レリスが部屋の入口に立っていた。
「どこいくの」
「少し用があって」
「いつかえってくるの」
「また来るよ」
「いつ?」
「そのうち」
レリスがむすっとした。
「そのうちっていつ」
「早めに来る」
「ほんとう?」
「本当に」
レリスがしばらくカイトを見ていた。
「やくそく?」
「約束」
レリスが少し考えてから頷いた。
「わかった」
それだけ言って、走って行った。
カイトが苦笑いした。
廊下でライラが待っていた。
「お世話になりました」
「こちらこそ。また来ます」
「お待ちしております」
ライラが深々と頭を下げた。
カイトが歩き出した。
タルドが廊下の端で頭を下げた。
「お世話になりました」
「元気でな。その剣、大事にしろよ」
タルドが腰の剣を見た。
「はい」
セバチャが城門の前に立っていた。
「カイト様、道中お気をつけて」
「ありがとう。じゃあな」
カイトが歩き出した。
───
城門の外に出たカイトは、少し足を止めた。
振り返った。
黒い城壁が空を切り取っていた。
いつ見てもでかい城だな、と思った。
カイトが歩き出した。
沼地の外縁を歩いていると、茂みの中で何かが動いた。
カイトが足を止めた。
気配がした。
一人ではない。
茂みが動いた。
男が飛び出してきた。
太った体に、派手な服を着ていた。
ゲスネイだった。
カイトがゲスネイを見た。
ゲスネイがカイトを見た。
少し間があった。
「……またお前か」
「またお前か、はこっちの台詞だ」
ゲスネイの顔が歪んだ。
「今度は負けない。人数が違う」
カイトが後ろを見た。
五人いた。
「前より増えたな」
「行けっ」
五人が動いた。
次の瞬間、五人が地面に転がっていた。
ゲスネイが後退した。
「な、なんで」
「お前も来るか」
カイトがゲスネイを見た。
ゲスネイが逃げようとした。
カイトがゲスネイの首根っこを掴んだ。
「今度は逃がさない」
───
城門の前に、カイトがゲスネイを引きずって戻ってきた。
タルドが目を丸くした。
「カイトさん、それは」
「ゲスネイとかいう男だ。城に渡しておく」
「出発したんじゃ」
「途中で拾った」
セバチャが城門から出てきた。
ゲスネイを見た。
「これは」
「そこの茂みに隠れてた。城を落とそうとしてたらしい」
セバチャが静かに頷いた。
「ありがとうございます」
「じゃあ、今度こそ行く」
カイトがゲスネイをセバチャに渡した。
ゲスネイがセバチャを見た。
セバチャが微笑んだ。
ゲスネイが青くなった。
カイトが歩き出した。
今度は振り返らなかった。
───
地下への石段を上がったところで、カキンオーが廊下に立っていた。
カイトを待っていたのかもしれなかった。
二人が廊下で向かい合った。
カイトが笑った。
「見送りに来たのか」
カキンオーは答えなかった。
「まあ、また来るよ」
カキンオーが小さく頷いた。
「城、面白かった。レリスも、アモンも、ライラも、セバチャも、タルドも」
カキンオーは黙っていた。
「お前も」
カキンオーが少し間を置いた。
小さく、頷いた。
カイトが手を上げた。
「じゃあな」
カキンオーが小さく手を上げた。
カイトが城門に向かって歩いていった。
カキンオーはその背中を、廊下の端から見ていた。
───
地下では。
俺はベッドに横になっていた。
天井を見ていた。
カイトが行った。
また来ると言っていた。
まあ、来るだろう。
あいつは来ると言ったら来る。
静かだった。
さっきより静かだった。
悪い静かさではなかった。
でも、少し違う静かさだった。
俺は天井を見続けた。
まあ、いいか。
また来る。
それでいい。
目を閉じた。
───
同じ頃、セバチャの執務室では。
セバチャがゲスネイの尋問を終えていた。
ゲスネイは全部話した。
ザガンからの指示。
レリスの元の主人の名前。
中間業者のルート。
全部話した。
セバチャは羽根ペンを置いた。
机の上に、書類が積まれていた。
ミナの証言。
センの動き。
中間業者の名前。
ゲスネイとの繋がり。
全部、ある。
セバチャは静かに立ち上がった。
何はともあれ、躾は必要だ。
明日、ファルネイスに向かう。
───
城の二階では。
ライラがレリスに夕食を食べさせていた。
レリスがスープを飲みながら言った。
「カイト、またくるって」
「そうですね」
「ほんとうにくるかな」
「来ると思いますよ」
レリスがスープを飲んだ。
「おじさん、さびしそうだった」
ライラが少し止まった。
「そうですか」
「うん。かおにでてないけど、なんかさびしそうだった」
ライラが微笑んだ。
「レリスは、よく分かりますね」
「だって、いつもみてるもん」
レリスがスープを飲み終えた。
「カイト、はやくきてほしいな」
「そうですね」
ライラがレリスの頭を撫でた。
また来る。
ライラもそう思った。




