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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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24,賑やかな城

 朝、カイトは城の部屋で目が覚めた。


 天井を見た。


 石造りだった。


 窓から光が入っていた。


 思ったより快適だった。


 ベッドも悪くなかった。


 魔王の城にしては、普通すぎるくらい普通だった。


 カイトは起き上がって、廊下に出た。


 静かだった。


 朝の城は静かだった。


 足音を立てながら廊下を歩いていると、台所の方から匂いがした。


 いい匂いだった。


 パンを焼く匂いと、スープの匂いだ。


 カイトが台所を覗いた。


 ライラが振り返った。


 目が輝いた。


「カイト様! おはようございます!」


「おはよう」


「よく眠れましたか? お部屋の温度は大丈夫でしたか? 枕の硬さは? 毛布の厚さは? 何か不便なことはありませんでしたか?」


 カイトが少し後退した。


「ええと」


「朝食をご用意します! 何がお好きですか? パンは薄切りと厚切りどちらが? スープは濃いめと薄めどちらが? お肉はありますが量はどうしましょう?」


「なんでも」


「なんでもは困ります! ちゃんと教えてください!」


 カイトが苦笑いした。


「じゃあ、普通で」


「普通の基準が分かりません!」


 カイトは椅子に座った。


 出されたものを全部食べることにした。


 それが一番早い気がした。


───


 朝食の途中で、セバチャが台所に来た。


「カイト様、よく眠れましたか」


「ああ、思ったより快適だった」


 セバチャが向かいに座った。


「少しよろしいですか」


「どうぞ」


「カキンオー様のことを、以前から知っていると伺いました」


「まあ、ゲームで何度か会ったことがある」


「どのような方でしたか」


 カイトがスープを飲みながら考えた。


「無口で、引きこもりで、でも変なとこで律儀なやつだった」


「律儀、ですか」


「プレイヤーがボスに挑みに来たら、ちゃんと相手してたし、宝箱も置いてたし。頼まれてもいないのに」


 セバチャが書き留めた。


「カキンオー様の沈黙についてはどう思いますか」


「しゃべれないわけじゃないんだよな、あいつ」


 セバチャの羽根ペンが止まった。


「しゃべれない、わけではない、と」


「うん。ゲームで一回だけしゃべったのを聞いたことがある。ちゃんとしゃべれる。ただ、なんか苦手みたいで」


「なぜしゃべらないのだと思いますか」


 カイトが少し考えた。


「怖いんじゃないかな、人と話すのが。俺もそんなに得意じゃないけど、あいつはもっとひどかった」


 セバチャが深く頷いた。


 羽根ペンが走った。


 カイトがセバチャを見た。


「何を書いてるんだ」


「報告書です」


「俺の話を」


「はい」


「なんで」


「カキンオー様にご報告するためです」


 カイトがしばらくセバチャを見た。


「……変わった城だな」


「ありがとうございます」


 セバチャが頭を下げた。


 カイトはスープの続きを飲んだ。


───


 食後、廊下を歩いていると、足元に何かが来た。


 ネズミだった。


 黒い毛並みで、赤い目をしていた。


 カイトが立ち止まった。


 ネズミを見た。


 ネズミがカイトを見た。


「なんチュ」


 カイトが固まった。


「……しゃべった」


「しゃべってるチュ」


 カイトがしばらくネズミを見ていた。


「お前、何者だ」


「アモンチュ」


「ネズミか」


「見れば分かるチュ」


 カイトが少し考えた。


「この城、ネズミがしゃべるのか」


「俺だけチュ」


「なんで」


「色々あったチュ」


 そこへレリスが走ってきた。


「カイト! アモンとあった?」


「今まさに」


「ともだちだよ!」


「アモンが?」


「レリスのチュ。俺はカイトなど知らないチュ」


「ともだちじゃん!」


「違うチュ」


 カイトがレリスを見た。


 レリスがカイトを見た。


「カイトもともだちになる?」


「俺は人間だけど大丈夫か」


「いいよ!」


 アモンが欠伸をした。


「勝手にするチュ」


 アモンが廊下の奥に消えていった。


 レリスがカイトの手を握った。


「いっしょにきて!」


「どこへ」


「おじさんのさぎょうば!」


「作業場?」


「みせてあげる!」


 カイトがレリスに引っ張られながら歩き始めた。


 思ったより力が強かった。


───


 地下への石段の手前で、ライラが立っていた。


 笑顔だった。


「カイト様」


「ああ」


「地下はご遠慮いただけますか」


「カキンオーの部屋か」


「はい」


 カイトが石段を見た。


「少し話したいんだが」


「カキンオー様のご都合がよろしければ、ご連絡します」


「都合が悪かったら」


「ご遠慮いただきます」


 カイトが少し笑った。


「守ってるんだな」


「当然です」


 ライラが微笑んだ。


 その笑顔に、カイトは少し背筋が伸びた。


 セバチャが念を押した意味が、少し分かった気がした。


「分かった。待つよ」


「ありがとうございます」


 レリスがカイトの袖を引いた。


「ならさぎょうばはまたこんど」


「そうだな」


「じゃあそとあそぼ」


「外は駄目です」


 ライラが即座に言った。


「なんで!」


「危ないからです」


「カイトがいるじゃん!」


「カイト様は関係ありません」


 カイトが苦笑いした。


「俺、関係ないのか」


「はい」


 レリスがむすっとした。


「じゃあひろまであそぼ」


「広間なら構いません」


 レリスがカイトの手を引いた。


「いこ!」


 カイトが引っ張られながら言った。


「お前、強いな」


「しってる!」


───


 広間でレリスと遊びながら、カイトはぼんやり考えた。


 変な城だ。


 執事は変な質問ばかりしてくる。


 メイドは笑顔が怖い。


 ネズミがしゃべる。


 子供が城に住んでいる。


 でも、悪くない。


 なんか、温かい感じがする。


 カキンオーらしいと言えば、カキンオーらしい。


 意図してやってるわけじゃないんだろうけど。


 レリスがカイトに積み木を押しつけた。


「つくって!」


「何を」


「おしろ!」


「城か」


「カキンオーおじさんのおしろ!」


 カイトが積み木を手に取った。


「難しいな」


「できる!」


「お前が作れよ」


「いっしょにつくる!」


 カイトが苦笑いしながら積み木を重ねた。


 広間に二人の声が響いた。


───


 地下では。


 俺は三本目の剣を仕上げていた。


 上の階から、カイトとレリスの声が聞こえた。


 賑やかだった。


 いつもレリスの声は聞こえるが、今日は別の声も混じっていた。


 カイトの声だ。


 本当に来たんだな、と思った。


 俺は剣を磨いた。


 静かではなかった。


 でも、悪くなかった。



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