23,再会
城門の前に、男が立っていた。
旅装束に、腰に剣を二本。
がっしりとした体格で、人懐こそうな顔をしている。
城を見上げていた。
でかいな、と思った。
噂には聞いていたが、実際に見るとまた違う。
黒い城壁が空を切り取っている。
尖塔が雲に届きそうだ。
どこからどう見ても魔王の城だった。
男が城門をノックした。
しばらくして、城門が開いた。
タルドが出てきた。
「いらっしゃいませ。謁見か戦闘か、ご用件をお聞かせください」
男が少し考えた。
「謁見で」
「お名前は」
「カイト」
タルドが頷いた。
「少々お待ちください」
───
セバチャがタルドから報告を受けた。
「カイトと名乗る人物が謁見を求めています」
「装備は」
「剣を二本。革鎧。旅装束です」
「態度は」
「普通でした。申請も正式に」
セバチャが頷いた。
「通しなさい。私が対応します」
───
応接室で、セバチャがカイトと向かい合った。
カイトが部屋を見回した。
普通の応接室だった。
魔王の城の応接室にしては、普通すぎるくらいだった。
「カイト様、いくつか確認させていただきます」
「どうぞ」
「カキンオー様への謁見の目的は」
カイトが少し間を置いた。
「知り合いかもしれないんで、確認しに来ました」
セバチャの羽根ペンが止まった。
「知り合い、ですか」
「まあ、たぶん」
「カキンオー様と面識が」
「ゲームで会ったことがあって」
セバチャがカイトを見た。
カイトがセバチャを見た。
「ゲーム、とは」
「説明が難しいんですが、俺の前の世界での話です」
セバチャが静かに書き留めた。
「前の世界、ですか」
「はい。俺、転移してきた人間なので」
セバチャがまた少し止まった。
転移。
カキンオー様と同じだ。
「カキンオー様の沈黙についてはどう思いますか」
カイトが少し笑った。
「あいつ、昔からしゃべらないんですよ。でも、悪いやつじゃないです」
セバチャが深く頷いた。
羽根ペンを置いた。
「少々お待ちください。カキンオー様にお伝えしてまいります」
───
地下の作業場で。
俺は三本目の剣を仕上げていた。
今日は調子がいい。
形もバランスも、一本目よりずっとマシだ。
そこにセバチャがノックして入ってきた。
「カキンオー様、謁見の申請が来ております」
俺は手を止めた。
「カイトと名乗る人物です」
俺の手が、完全に止まった。
カイト。
あのカイトか。
セバチャが続けた。
「前の世界でカキンオー様と面識があると言っています。転移してきた人間だとも」
俺はしばらく動かなかった。
本当にカイトか。
あのゲームのカイトか。
最後にクロデンを使って戦いに来た、あいつか。
俺は剣を作業台に置いた。
立ち上がった。
指輪に意識を向けた。
装備が展開していく。
黒鎧が纏わりつき、兜が頭を覆い、マントが広がる。
セバチャが少し目を細めた。
「ご自身で謁見されますか」
俺は頷いた。
セバチャが深く頭を下げた。
「御意のままに」
───
謁見の間で、カイトは待っていた。
松明の光が揺れていた。
広い部屋だった。
天井が高かった。
どこからどう見ても魔王の謁見の間だった。
扉が開いた。
黒鎧の存在が入ってきた。
ゆっくりと歩いてくる。
玉座に腰を下ろした。
カイトはその存在を見た。
しばらく黙っていた。
カイトが少し前に出た。
「なあ」
黒鎧は答えなかった。
「その装備、見覚えがあるんだけど」
黒鎧は答えなかった。
「アカマルだよな。それ」
答えなかった。
「ゲームでさ、俺と交換したやつじゃないか」
カイトが腰の剣を一本抜いた。
古びた剣だった。
「これ、覚えてるか。クロデンだ。ずっと持ってた」
黒鎧は動かなかった。
カイトが少し笑った。
「やっぱりお前か」
黒鎧は答えなかった。
「カキンオー、だよな」
沈黙があった。
長い沈黙だった。
カイトが続けた。
「相変わらず無口だな」
また沈黙があった。
カイトが苦笑いした。
「俺さ、この世界に来てから色々あって。勇者とかやらないって言ったのに、なんか気づいたら勇者って呼ばれてて」
黒鎧は聞いていた。
「お前はどうだ。魔王の城構えて、なんか大変そうな噂ばかり聞いてたけど」
黒鎧は答えなかった。
カイトが玉座の前まで来た。
距離が近かった。
「元気そうで、よかった」
黒鎧が少し動いた。
ゆっくりと、右手を上げた。
カイトの肩を、一度だけ叩いた。
それだけだった。
言葉はなかった。
カイトが笑った。
「そうか。まあ、そうだよな」
───
謁見の間を出た後、俺は廊下を歩きながら少し考えた。
本当にカイトだった。
生きていた。
この世界に来ていた。
まあ、俺も来ているわけだから、そういうこともあるか。
でも、来ていたのか。
俺は少し止まった。
クロデンを、まだ持っていた。
あの時の剣を、ずっと持ち続けていた。
俺も指輪の中に入れたままにしている。
捨てられなかった。
まあ、そういうことだ。
俺は地下への石段を降り始めた。
───
応接室では。
セバチャがカイトに向かい合っていた。
「カイト様、本日はどちらにお泊りになりますか」
「近くの宿に」
「よろしければ、城にお部屋をご用意できますが」
カイトが少し考えた。
「いいのか」
「カキンオー様のお知り合いであれば」
カイトが笑った。
「じゃあ、お願いしようかな」
セバチャが頷いた。
「ただし、一つだけお願いがあります」
「何だ」
「城内での行動についていくつかルールがございます」
「どんな」
「地下への立ち入りはご遠慮ください」
「カキンオーの部屋か」
「はい」
「まあ、あいつのことだから引きこもってそうだしな」
セバチャが静かに続けた。
「それから、ライラの邪魔をしないようにお願いします」
「ライラ?」
「メイドです」
「分かった」
「本当にお願いします」
カイトが少し首を傾げた。
「なんか念を押すな」
セバチャが静かに答えた。
「念を押さないと大変なことになる可能性があります」
カイトがセバチャを見た。
セバチャが真顔だった。
「……分かった、気をつける」
───
城の廊下で、レリスがカイトを見つけた。
「だれ!」
「カイトだ。お前は」
「レリス! カキンオーおじさんのおしろにすんでる!」
カイトが少し目を細めた。
「カキンオーのおじさん、か」
「おじさんのともだち?」
カイトが少し考えた。
「まあ、そんなとこかな」
レリスが嬉しそうにした。
「おじさん、ともだちいたんだ!」
カイトが笑った。
「そうだな」
レリスが走って行った。
「おじさーん! ともだちきたよー!」
地下の方角から、何も返ってこなかった。
カイトが苦笑いした。
相変わらずだな、と思った。
───
地下では。
俺は作業場に戻っていた。
三本目の剣の仕上げをしていた。
レリスの声が聞こえた。
「おじさーん! ともだちきたよー!」
俺は手を止めた。
友達、か。
まあ、そうかもしれない。
俺は剣を磨いた。
静かだった。
でも、今日は少し違う静かさだった気がした。
悪くなかった。




