21,報復と影
ミナが全部話した。
椅子に座ったまま、震えながら、全部話した。
ザガンという名前。
評議会の裏社会枠。
表向きは商人。
中間業者を何人も挟んで指示を出していること。
センを使ってタルドから情報を引き出していたこと。
ミナ自身が城に送り込まれた経緯。
全部話し終えて、ミナは俯いた。
「もう、終わりですか」
セバチャが静かに言った。
「いいえ」
ミナが顔を上げた。
「正直に話していただきありがとうございます」
セバチャが羽根ペンを置いた。
「ザガンは、今回の件でどのような利益を得ようとしていましたか」
ミナが少し考えた。
「城の資産を把握して、最終的には内側から奪うつもりだったと思います。レリスの件は、交渉の材料にするつもりだったんじゃないかと」
「交渉、とは」
「カキンオー様が子供を手放したくないなら、資産の一部と交換する。そういう話だったと聞いています」
セバチャが静かに書き留めた。
「ゲスネイとの繋がりは」
「ゲスネイはザガンの下請けです。直接の繋がりはないはずですが、金で動いているのは同じです」
セバチャが頷いた。
「最後に一つ」
「はい」
「ザガンの居場所は分かりますか」
ミナが少し間を置いた。
「ファルネイスの商業区に、表向きは商会を構えています。場所は分かります」
セバチャが深く頷いた。
「ありがとうございました」
───
セバチャが地下の作業場をノックした。
俺は手を止めた。
セバチャが入ってきた。
ミナから聞いた内容を、順番に説明した。
ザガン。
評議会の裏社会枠。
城を内側から奪う計画。
レリスを交渉材料にしようとしていたこと。
セバチャが話し終えた。
「カキンオー様、報復が必要かと思われます」
俺は少し考えた。
報復。
面倒くさい。
でも、放置したらまた来るかもしれない。
特にレリスの件は。
「ザガンへの対応をどうするか、ご判断をいただけますか」
俺はしばらく天井を見た。
何もしなければまた動く。
何かしなければならない。
でも、何をすればいいのかが分からない。
俺は指輪から紙と炭を取り出した。
一言書いた。
「セバチャに任せる」
セバチャに渡した。
セバチャが紙を受け取った。
少し間があった。
「……御意のままに」
セバチャが深く頭を下げた。
その目に、静かな光があった。
───
セバチャが執務室に戻った。
扉を閉めた。
机の前に座った。
羽根ペンを取り出した。
しばらく何も書かなかった。
カキンオー様に任された。
報復の全権を。
セバチャは静かに考えた。
ザガンは評議会の人間だ。
力攻めはできない。
できないが、別の方法がある。
ザガンが動かした人間の記録。
中間業者の名前。
センの動き。
ミナの証言。
全部、ある。
これを使えば、ザガンを評議会から追い落とすことができるかもしれない。
あるいは、もっと静かなやり方もある。
セバチャは羽根ペンを走らせ始めた。
カキンオー様は全権を委ねられた。
ならば、カキンオー様の格に見合う報復をしなければならない。
血は流さない。
しかし、二度と動けないようにする。
なんと深謀遠慮な御方か。
セバチャは報告書の末尾に、丁寧な字でそう書き添えた。
一切合切が、全力でズレていた。
───
廊下では。
タルドが壁にもたれて座っていた。
脇腹が痛かった。
ライラが隣に座っていた。
「安静にしてください」
「してます」
「していません」
「座ってるじゃないですか」
「横になってください」
「ここで横になるんですか」
アモンが廊下の隅から二人を眺めていた。
「仲いいチュ」
「仲良くないです」
タルドとライラが同時に言った。
アモンが欠伸をした。
「否定が速すぎるチュ」
タルドがアモンを見た。
「お前、本当に何なんだ」
「アモンチュ」
「それは名前だろ」
「自分でつけたチュ」
「なんでネズミがしゃべるんだ」
「色々あったチュ」
タルドがしばらくアモンを見た。
「ありがとな。レリスを助けてくれて」
アモンが少し間を置いた。
「別にチュ。面白そうだったからチュ」
「そうか」
「感謝されるのは嫌いチュ」
「そうか」
「でも」
アモンが小さく続けた。
「まあ、悪くはなかったチュ」
タルドが笑った。
ライラも小さく笑った。
アモンが立ち上がった。
「見るなチュ」
廊下の奥に消えていった。
───
地下では。
レリスが作業場の扉を開けた。
「おじさん、タルドがいたいって」
俺は手を止めた。
「しってる?」
俺は小さく頷いた。
レリスが部屋に入ってきた。
作業台の剣を見た。
「また作ってる」
俺は頷いた。
「まえのより、うまくなった?」
俺は少し考えてから、頷いた。
レリスが剣をじっと眺めた。
「タルドにあげたら?」
俺は固まった。
タルドに。
そうか、そういう考え方もあるか。
レリスが当然のように続けた。
「タルド、まもれなかったって、おちこんでたから」
俺はしばらく剣を眺めた。
まあ、そうかもしれない。
小さく頷いた。
レリスがにこにこした。
「やった! タルドよろこぶよ!」
レリスが走って出ていった。
俺は剣を手に取った。
少し丁寧に仕上げよう。
そう思った。
───
一方、街道を南へ向かう男がいた。
がっしりとした体格に、旅装束。
腰に剣を二本差している。
依頼が終わったのは三日前だった。
依頼主に礼を言って、その日のうちに南へ向かった。
街道沿いの宿に泊まりながら、少しずつ南へ下っていた。
宿のたびに、南の城の噂を聞いた。
魔王の城。
宝箱。
謁見申請制度。
百人の荒くれどもが壊滅した話。
男は宿の主人から話を聞きながら、杯を傾けた。
「その城の主、カキンオーってのは、どんなやつだ」
宿の主人が少し考えてから言った。
「誰も顔を知らないんですよ。黒い鎧を着てるとは聞きますが、素顔は見た者がいない」
「強いのか」
「百人を瞬殺したって話ですよ。勇者より強いんじゃないかって噂もあります」
男が少し笑った。
「勇者より強いか」
「あなた、これから南に行くんですか」
「まあ、少し寄ってみようかと思って」
宿の主人が心配そうな顔をした。
「気をつけてくださいよ。謁見申請してから行かないと、えらいことになるって聞きますから」
「申請制度があるのか」
「そうなんですよ。戦闘か謁見か、城門で申請するらしいですよ」
男が杯を置いた。
立ち上がった。
「ありがとう」
男が宿を出た。
夜の街道に出た。
南の空を見上げた。
暗闇の中に、遠く黒い城の輪郭が見えた気がした。
男が小さく呟いた。
「カキンオー、か」
男が歩き出した。
南へ向かって。




