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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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20/23

20,俺がやりたかった

 形になった。


 粗削りだった。


 歪みもあった。


 プロの鍛冶師が見たら笑うかもしれない。


 でも、剣だった。


 確かに剣の形をしていた。


 俺は作業台の上の剣を眺めた。


 ゲームではボタン一つで完成していた。


 この世界では、何日もかかった。


 炉の温度の加減。


 叩く場所と力の入れ方。


 冷やすタイミング。


 全部、体で覚えた。


 頭の中のスキルが、少しずつ体に繋がってきた気がした。


 悪くない。


 むしろ、かなりいい。


 俺は剣を手に取った。


 重さがある。


 バランスはまだ甘い。


 でも、自分で作った剣だ。


 なんか、嬉しかった。


───


 そこにライラがノックして入ってきた。


「カキンオー様、できましたか」


 俺は剣を見せた。


 ライラの目が輝いた。


「すごいです……! ご主人様が作られた剣……!」


 俺は頷いた。


 ライラがしばらく剣を眺めてから、少し改まった顔をした。


「カキンオー様、一つご相談があります」


 俺はライラを見た。


「ミナの件ですが、罰が必要ではないかと」


 俺は少し考えた。


 罰か。


 まあ、そうかもしれない。


「その剣で、試し斬りをされますか」


 俺は固まった。


 試し斬り。


 ミナを。


 さすがにそれは。


 ゲームじゃないし。


 俺は首を横に振った。


「ではどのような罰が」


 俺は少し考えて、剣を作業台に置いた。


 それからライラに剣を指差した。


 それからミナのいる方向を指差した。


 ライラが頷いた。


「剣を見せる、ということですか」


 俺は頷いた。


 まあ、脅しくらいにはなるだろう。


───


 応接室で、ミナが椅子に座っていた。


 ライラが剣を持って入ってきた。


 ミナが剣を見た。


 顔が青くなった。


「あの」


「カキンオー様からです」


 ライラが剣をテーブルに置いた。


「カキンオー様が今日、この剣を完成させました」


「は、はい」


「試し斬りについて、ご検討いただいたようです」


 ミナが椅子から転げ落ちそうになった。


「ま、待ってください、何でもします、何でも、絶対逆らいません、掃除でも料理でも洗濯でも、一生やります、外には出ません、報告もしません、ザガンとも一切関わりません、お願いします」


 一息で言い切った。


 ライラが静かに頷いた。


「分かりました。カキンオー様にお伝えします」


「助かります、本当に助かります」


「ただし」


 ライラが微笑んだ。


「もし次に城を裏切るようなことがあれば」


「しません、絶対しません」


「その時はカキンオー様がお決めになります」


「しません、本当にしません、死んでもしません」


 ライラが剣を持って部屋を出た。


 ミナは椅子にへたり込んだ。


 しばらく動けなかった。


 廊下でアモンが壁際に座っていた。


「怯えすぎチュ」


「うるさいです」


「でも正解チュ」


 ミナはアモンを見た。


「あなたは怖くないんですか、カキンオー様が」


「怖いチュ」


 アモンが欠伸をした。


「でも従う気はないチュ」


 ミナはしばらくアモンを見てから、小さく言った。


「化け物ですね、あなたも」


「お互い様チュ」


───


 同じ頃、城から少し離れた場所で。


 ゲスネイは百人の荒くれどもを前にして、腕を組んでいた。


 四十代、太った体に派手な服を着た男だ。


 目が細く、声が大きかった。


「いいか、情報じゃ戦力はほとんどない。執事と女メイドと雑用の小僧だけだ。カキンオーとかいうボスも、普段は地下に引きこもってるらしい。押し込めば終わる」


 荒くれどもがざわめいた。


「城の中の宝は全部山分けだ。子供も連れて帰る。分かったか」


「おう」


「じゃあ行くぞ」


 ゲスネイが城門に向かって歩き出した。


 百人がついてきた。


───


 城門の前で、タルドが薪を運んでいた。


 大勢の足音が聞こえた。


 顔を上げた。


 武装した男たちが、城門に向かって歩いてきた。


 先頭に、太った派手な服の男がいた。


 タルドが前に出た。


「用件は何ですか。謁見か戦闘か、申請を」


 ゲスネイが歩みを止めなかった。


「邪魔だ」


 タルドが吹き飛んだ。


 城壁に背中を打ちつけた。


 息が詰まった。


 視界が歪んだ。


 男たちが城門を押し開けて、なだれ込んでいった。


 タルドは立ち上がろうとした。


 足に力が入らなかった。


 城の中から、廊下を走る足音が聞こえた。


───


 城内では。


 ライラが廊下を走っていた。


 大勢が入ってきた。


 セバチャがどこかに向かった。


 レリスを部屋に閉じ込めた。


 アモンがどこかに消えた。


 ライラは城の中心に向かった。


 謁見の間の扉が開いていた。


 中にラスボス代行が立っていた。


 百人の男たちが廊下と広間に広がっていた。


 先頭のゲスネイが謁見の間を見た。


「なんだ、あれが城の主か」


 男の一人が言った。


「カキンオーって聞いてたけど、こいつか?」


「まあいい、やれ」


 三人が剣を抜いてラスボス代行に向かった。


 一瞬だった。


 三人が廊下の壁に叩きつけられた。


 音がした。


 うめき声がした。


 動かなくなった。


 しばらく誰も動かなかった。


「怯むな、百人いるんだぞ、行けっ」


 ゲスネイが怒鳴った。


 男たちがなだれ込んだ。


───


 それからの時間は、短かった。


 ラスボス代行は攻撃されるたびに、少しだけ強く返した。


 加減していた。


 努力していた。


 それでも、百人が相手では加減が難しかった。


 一人が剣で斬りかかれば、その剣が折れて本人が吹き飛んだ。


 二人が同時に来れば、二人同時に廊下の端まで転がった。


 弓を射れば、矢が折り返してきた。


 魔法を使えば、魔法が倍になって返ってきた。


 誰も死ななかった。


 ただ、全員動けなくなった。


 ゲスネイは途中で逃げた。


 三人の部下を連れて、来た道を引き返した。


 城門を飛び出した。


 振り返らなかった。


───


 作業場では。


 俺は二本目の剣に取り組んでいた。


 一本目より少しマシになりそうだった。


 金属を叩いた。


 城の中が、なんか騒がしかった。


 怒声が聞こえた気がした。


 何かが壁に当たる音がした。


 うめき声がした。


 俺は手を止めた。


 なんだ。


 しばらく耳を澄ませた。


 やがて静かになった。


 セバチャが作業場の扉をノックした。


「カキンオー様、ご報告があります」


 俺は手を止めた。


「ゲスネイという人物が百名を率いて城に侵入しました」


 俺が顔を上げた。


「ラスボス代行が対応しました。九十六名が戦闘不能。ゲスネイを含む四名が逃亡しました」


 俺はしばらく黙っていた。


 全部終わってたのか。


 俺が知らない間に。


「タルドさんが城門で殴り飛ばされました。軽傷です」


 タルドが。


「ラスボス代行に非はありません。適切な対応でした」


 非はない。


 そうだ、非はない。


 ラスボス代行は正しくやった。


 でも。


 俺は作業台の剣を見た。


 タルドが殴られた。


 百人が来た。


 俺は作業場にいた。


 全部終わってから知った。


「カキンオー様、何かご指示は」


 俺は少し間を置いた。


 ゲスネイが逃げた。


 四人が逃げた。


 俺は何もしていない。


 小さく首を横に振った。


 セバチャが頭を下げた。


「御意のままに」


 扉が閉まった。


 俺は作業台の前に座った。


 剣を眺めた。


 ラスボス代行はよくやった。


 分かっている。


 でも。


 俺がやりたかった。


 タルドが殴られたのを、俺は知らなかった。


 百人が来たのを、俺は知らなかった。


 全部終わってから聞いた。


 それが、なんか、嫌だった。


 うまく言葉にできないけど。


 嫌だった。


 俺は剣を手に取った。


 もう一本、作ろう。


 次は、もっとうまくできるはずだ。


 金属を叩いた。


 静かだった。


 廊下の奥から、タルドの声が聞こえた。


「痛い、痛い、ライラさん、もう大丈夫です、本当に」


「安静にしてください」


「これは大げさじゃ」


「安静にしてください」


「ライラさん、顔が」


「安静にしてください」


 俺は金属を叩いた。


 タルドは生きていた。


 まあ、よかった。


 でも、次は俺がやる。


 そう思った。



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