20,俺がやりたかった
形になった。
粗削りだった。
歪みもあった。
プロの鍛冶師が見たら笑うかもしれない。
でも、剣だった。
確かに剣の形をしていた。
俺は作業台の上の剣を眺めた。
ゲームではボタン一つで完成していた。
この世界では、何日もかかった。
炉の温度の加減。
叩く場所と力の入れ方。
冷やすタイミング。
全部、体で覚えた。
頭の中のスキルが、少しずつ体に繋がってきた気がした。
悪くない。
むしろ、かなりいい。
俺は剣を手に取った。
重さがある。
バランスはまだ甘い。
でも、自分で作った剣だ。
なんか、嬉しかった。
───
そこにライラがノックして入ってきた。
「カキンオー様、できましたか」
俺は剣を見せた。
ライラの目が輝いた。
「すごいです……! ご主人様が作られた剣……!」
俺は頷いた。
ライラがしばらく剣を眺めてから、少し改まった顔をした。
「カキンオー様、一つご相談があります」
俺はライラを見た。
「ミナの件ですが、罰が必要ではないかと」
俺は少し考えた。
罰か。
まあ、そうかもしれない。
「その剣で、試し斬りをされますか」
俺は固まった。
試し斬り。
ミナを。
さすがにそれは。
ゲームじゃないし。
俺は首を横に振った。
「ではどのような罰が」
俺は少し考えて、剣を作業台に置いた。
それからライラに剣を指差した。
それからミナのいる方向を指差した。
ライラが頷いた。
「剣を見せる、ということですか」
俺は頷いた。
まあ、脅しくらいにはなるだろう。
───
応接室で、ミナが椅子に座っていた。
ライラが剣を持って入ってきた。
ミナが剣を見た。
顔が青くなった。
「あの」
「カキンオー様からです」
ライラが剣をテーブルに置いた。
「カキンオー様が今日、この剣を完成させました」
「は、はい」
「試し斬りについて、ご検討いただいたようです」
ミナが椅子から転げ落ちそうになった。
「ま、待ってください、何でもします、何でも、絶対逆らいません、掃除でも料理でも洗濯でも、一生やります、外には出ません、報告もしません、ザガンとも一切関わりません、お願いします」
一息で言い切った。
ライラが静かに頷いた。
「分かりました。カキンオー様にお伝えします」
「助かります、本当に助かります」
「ただし」
ライラが微笑んだ。
「もし次に城を裏切るようなことがあれば」
「しません、絶対しません」
「その時はカキンオー様がお決めになります」
「しません、本当にしません、死んでもしません」
ライラが剣を持って部屋を出た。
ミナは椅子にへたり込んだ。
しばらく動けなかった。
廊下でアモンが壁際に座っていた。
「怯えすぎチュ」
「うるさいです」
「でも正解チュ」
ミナはアモンを見た。
「あなたは怖くないんですか、カキンオー様が」
「怖いチュ」
アモンが欠伸をした。
「でも従う気はないチュ」
ミナはしばらくアモンを見てから、小さく言った。
「化け物ですね、あなたも」
「お互い様チュ」
───
同じ頃、城から少し離れた場所で。
ゲスネイは百人の荒くれどもを前にして、腕を組んでいた。
四十代、太った体に派手な服を着た男だ。
目が細く、声が大きかった。
「いいか、情報じゃ戦力はほとんどない。執事と女メイドと雑用の小僧だけだ。カキンオーとかいうボスも、普段は地下に引きこもってるらしい。押し込めば終わる」
荒くれどもがざわめいた。
「城の中の宝は全部山分けだ。子供も連れて帰る。分かったか」
「おう」
「じゃあ行くぞ」
ゲスネイが城門に向かって歩き出した。
百人がついてきた。
───
城門の前で、タルドが薪を運んでいた。
大勢の足音が聞こえた。
顔を上げた。
武装した男たちが、城門に向かって歩いてきた。
先頭に、太った派手な服の男がいた。
タルドが前に出た。
「用件は何ですか。謁見か戦闘か、申請を」
ゲスネイが歩みを止めなかった。
「邪魔だ」
タルドが吹き飛んだ。
城壁に背中を打ちつけた。
息が詰まった。
視界が歪んだ。
男たちが城門を押し開けて、なだれ込んでいった。
タルドは立ち上がろうとした。
足に力が入らなかった。
城の中から、廊下を走る足音が聞こえた。
───
城内では。
ライラが廊下を走っていた。
大勢が入ってきた。
セバチャがどこかに向かった。
レリスを部屋に閉じ込めた。
アモンがどこかに消えた。
ライラは城の中心に向かった。
謁見の間の扉が開いていた。
中にラスボス代行が立っていた。
百人の男たちが廊下と広間に広がっていた。
先頭のゲスネイが謁見の間を見た。
「なんだ、あれが城の主か」
男の一人が言った。
「カキンオーって聞いてたけど、こいつか?」
「まあいい、やれ」
三人が剣を抜いてラスボス代行に向かった。
一瞬だった。
三人が廊下の壁に叩きつけられた。
音がした。
うめき声がした。
動かなくなった。
しばらく誰も動かなかった。
「怯むな、百人いるんだぞ、行けっ」
ゲスネイが怒鳴った。
男たちがなだれ込んだ。
───
それからの時間は、短かった。
ラスボス代行は攻撃されるたびに、少しだけ強く返した。
加減していた。
努力していた。
それでも、百人が相手では加減が難しかった。
一人が剣で斬りかかれば、その剣が折れて本人が吹き飛んだ。
二人が同時に来れば、二人同時に廊下の端まで転がった。
弓を射れば、矢が折り返してきた。
魔法を使えば、魔法が倍になって返ってきた。
誰も死ななかった。
ただ、全員動けなくなった。
ゲスネイは途中で逃げた。
三人の部下を連れて、来た道を引き返した。
城門を飛び出した。
振り返らなかった。
───
作業場では。
俺は二本目の剣に取り組んでいた。
一本目より少しマシになりそうだった。
金属を叩いた。
城の中が、なんか騒がしかった。
怒声が聞こえた気がした。
何かが壁に当たる音がした。
うめき声がした。
俺は手を止めた。
なんだ。
しばらく耳を澄ませた。
やがて静かになった。
セバチャが作業場の扉をノックした。
「カキンオー様、ご報告があります」
俺は手を止めた。
「ゲスネイという人物が百名を率いて城に侵入しました」
俺が顔を上げた。
「ラスボス代行が対応しました。九十六名が戦闘不能。ゲスネイを含む四名が逃亡しました」
俺はしばらく黙っていた。
全部終わってたのか。
俺が知らない間に。
「タルドさんが城門で殴り飛ばされました。軽傷です」
タルドが。
「ラスボス代行に非はありません。適切な対応でした」
非はない。
そうだ、非はない。
ラスボス代行は正しくやった。
でも。
俺は作業台の剣を見た。
タルドが殴られた。
百人が来た。
俺は作業場にいた。
全部終わってから知った。
「カキンオー様、何かご指示は」
俺は少し間を置いた。
ゲスネイが逃げた。
四人が逃げた。
俺は何もしていない。
小さく首を横に振った。
セバチャが頭を下げた。
「御意のままに」
扉が閉まった。
俺は作業台の前に座った。
剣を眺めた。
ラスボス代行はよくやった。
分かっている。
でも。
俺がやりたかった。
タルドが殴られたのを、俺は知らなかった。
百人が来たのを、俺は知らなかった。
全部終わってから聞いた。
それが、なんか、嫌だった。
うまく言葉にできないけど。
嫌だった。
俺は剣を手に取った。
もう一本、作ろう。
次は、もっとうまくできるはずだ。
金属を叩いた。
静かだった。
廊下の奥から、タルドの声が聞こえた。
「痛い、痛い、ライラさん、もう大丈夫です、本当に」
「安静にしてください」
「これは大げさじゃ」
「安静にしてください」
「ライラさん、顔が」
「安静にしてください」
俺は金属を叩いた。
タルドは生きていた。
まあ、よかった。
でも、次は俺がやる。
そう思った。




