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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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19/23

19,アモン

 小さなネズミがいた。


 通路の暗がりに、ちょこんと座っていた。


 黒い毛並みで、赤い目をしていた。


 ミナはそれを見て、少し息を吐いた。


 ネズミか。


 驚かせるな。


 ミナが扉に向き直った。


「その袋、下ろすチュ」


 ミナが固まった。


 今、声がした。


 振り返った。


 ネズミがいた。


 さっきと同じ場所に、さっきと同じ姿勢で座っていた。


 赤い目がミナを見ていた。


「聞こえてるチュ?」


 ミナは声が出なかった。


「その袋の中身、ご主人様のものチュ。それと倉庫から失敬したものも、全部チュ」


 ネズミが一歩前に出た。


 小さな足音がした。


 たったそれだけで、ミナの背中に冷たいものが走った。


「返すなら今チュ」


 ネズミが首を傾げた。


 可愛い仕草だった。


「返さないなら、その体を魂ごと塵にして、存在したことすら消してあげるチュー」


 笑顔だった。


 ネズミが笑っていた。


 ミナは袋を下ろした。


 盗んだ布袋も放り出した。


 膝をついた。


 手が震えていた。


「賢いチュ」


 ネズミが小さく頷いた。


───


 そこへ廊下の奥から足音がした。


 ライラだった。


 ミナを見た。


 袋を見た。


 ネズミを見た。


 止まった。


「……え」


 ライラがネズミを見た。


 ネズミがライラを見た。


「なんチュ」


 ライラがミナを見た。


 ミナが首を振った。


「私も知りません」


 ライラがもう一度ネズミを見た。


「あなたは」


「アモンチュ」


「しゃべりますか」


「しゃべってるチュ」


 ライラが少し間を置いた。


「なぜここに」


「面白そうだったからチュ」


 ライラがしばらくアモンを見ていた。


 それからミナに向き直った。


 混乱を顔に出したまま、笑顔を作った。


「と、とりあえず、ミナさん」


「はい」


「レリスをどこへ連れて行くつもりでしたか」


 アモンが横から口を挟んだ。


「奴隷商人のところチュ。さっき自分で言ってたチュ」


 ライラがアモンを見た。


「聞いていたんですか」


「最初からいたチュ」


 ライラが目を細めた。


「……そうですか」


 アモンが欠伸をした。


「続きはセバチャとやるといいチュ。俺は関係ないチュ」


 ライラがまたアモンを見た。


 それからミナに向き直った。


「立てますか」


 ミナが頷いた。


 ライラが歩き出した。


 ミナがついていった。


 ライラが歩きながら小声で呟いた。


「ネズミが、しゃべって、」


 アモンが後ろから聞こえないくらいの声で言った。


「動揺してるチュ。面白いチュ」


───


 大きな布袋が廊下に置かれたままだった。


 しばらくして、袋の中からもぞもぞと動く気配がした。


 口が内側から押された。


 ライラが結び目を解いた。


 レリスが顔を出した。


 目がとろんとしていた。


「ん、」


「レリス、大丈夫ですか」


「ライラ、」


 レリスがゆっくりと周囲を見回した。


 薄暗い廊下だった。


 ミナが壁際に座っていた。


 ネズミが床に座っていた。


 レリスがネズミを見た。


 目が少し大きくなった。


「ネズミ、」


「そうチュ」


「しゃべった」


「そうチュ」


 レリスがしばらくネズミを見ていた。


「まえにあったネズミ!」


「会ったことはないチュ」


「おんなじこえ!」


「気のせいチュ」


 レリスが起き上がろうとして、ふらついた。


 ライラが支えた。


「まだ眠いですか」


「うん、なんか、ふわふわする」


 レリスがネズミをまた見た。


「ネズミ、なまえは?」


「アモンチュ」


「アモン、かわいい」


「余計なお世話チュ」


 レリスが笑った。


───


 城に戻ってから、セバチャがミナの話を聞いた。


 ゲスネイという奴隷商人。


 中間業者経由の依頼。


 足の裏の印を見て連絡が来た。


 セバチャは静かに書き留めた。


 ミナが話し終えると、セバチャが口を開いた。


「正直に話していただきありがとうございます」


「処分は」


 ミナが静かに聞いた。


「カキンオー様がお決めになります」


 セバチャが立ち上がった。


「少し待っていてください」


───


 地下の作業場で。


 俺は金属を叩いていた。


 今日は少し形になってきた。


 そこにセバチャがノックして入ってきた。


「カキンオー様、ご報告があります」


 俺は手を止めた。


 セバチャが事情を説明した。


 ミナが工作員だったこと。


 レリスを連れ出そうとしたこと。


 通路で止めたこと。


「止めたのは」


 セバチャが少し間を置いた。


「アモンと名乗るネズミです。城内に以前からいたようですが、詳細は不明です」


 俺が顔を上げた。


 ネズミ。


 城に融合していた何かか。


 ゲームで色々と試したことがある。


 最悪の悪魔とネズミ型モンスターを融合させた記憶がある。


 取り出さないまま放置していた。


 あれか。


 まあ、名前は知らないが。


 自分でつけたのかもしれない。


「カキンオー様、ミナの処遇についてはいかがなさいますか」


 俺はしばらく天井を見た。


 追い出したところでまた使われるかもしれない。


 まあ、置いておくか。


 小さく頷いた。


「置いておく、ということでよろしいでしょうか」


 俺は頷いた。


 セバチャが頭を下げた。


「御意のままに」


───


 城の二階では。


 セバチャが報告書を書いていた。


 本日、工作員の侵入が発覚した。


 レリスの連れ出しを阻止した。


 阻止したのは、アモンと名乗るネズミだった。


 素性、正体、一切不明。


 城に以前からいたらしいが、誰も知らなかった。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 誰も知らなかった。


 しかしカキンオー様は、報告を聞いた時に特に驚かれなかった。


 つまり、カキンオー様はご存知だったのだ。


 あのネズミの存在を。


 しかし我々には一切知らせなかった。


 なぜか。


 セバチャは静かに考えた。


 必要な時だけ動く、誰も知らない最後の守護者。


 カキンオー様の隠し切り札だったのだ。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 廊下では。


 レリスがアモンの後をついて歩いていた。


「アモン、どこいくの」


「関係ないチュ」


「いっしょにいく!」


「来るなチュ」


「なんで!」


「うるさいチュ」


 レリスが笑いながらついていった。


 アモンが立ち止まった。


「しつこいチュ」


「ともだちじゃん」


「違うチュ」


「ともだちだもん」


 アモンがレリスを見た。


 赤い目が、じっとレリスを見た。


 少しの間があった。


「……好きにするチュ」


 レリスがにこにこした。


「やった!」


 アモンが歩き出した。


 レリスがついていった。


 廊下の奥から、二人の足音が遠ざかっていった。


───


 地下では。


 俺は金属を叩き続けていた。


 あのネズミか。


 生きていたのか。


 というか、名前をつけていたのか。


 まあ、いいか。


 城と一緒に来たなら、そういうこともある。


 金属を叩いた。


 今日は形になりそうだ。


 静かだった。


 廊下の奥から、レリスの笑い声が聞こえた。


 それとは別の、小さな声も聞こえた気がした。


「うるさいチュ」


 俺は手を止めた。


 しばらく廊下の方を見た。


 また金属を叩き始めた。


 まあ、いいか。



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