18,盗みと裏切り
朝、セバチャが村に向かった。
急ぐ必要はない。
ただ、確かめなければならないことがある。
センの家は村の外れだった。
扉をノックした。
返事がなかった。
もう一度ノックした。
やはり返事がなかった。
セバチャは扉を開けた。
鍵はかかっていなかった。
中は荒れていなかった。
ただ、人がいなかった。
机の上に、小さな硬貨が一枚残っていた。
拾って眺めた。
見慣れない紋章が刻まれていた。
セバチャは硬貨を懐に入れた。
センはすでに逃げていた。
村人に話を聞いて回った。
昨夜、荷物をまとめて出ていったらしい。
どこへ向かったか、誰も知らなかった。
セバチャは村を後にした。
拷問は、できなかった。
残念だと思った。
───
同じ頃、城では。
ライラが警戒態勢に入っていた。
城門の外を定期的に確認する。
来訪者には必ず対応する。
城内を定期的に巡回する。
ライラは廊下を歩きながら、城内を確認していた。
台所、倉庫、広間、使用人部屋。
異常なし。
次の巡回まで、少し時間があった。
───
ミナは倉庫にいた。
城が警戒態勢に入ったのを感じていた。
セバチャが村に向かった。
ライラが城内を巡回し始めた。
時間がない。
ミナは棚を素早く確認した。
嵩張らないもの。
価値が高いもの。
魔核が小瓶に入って並んでいた。
装備品の一部が棚の奥にあった。
ミナは布袋に詰め込んだ。
手早く、しかし必要なものだけを選んだ。
倉庫を出た。
───
廊下を歩いていると、台所からレリスの声がした。
「ミナ! おはよ!」
ミナが足を止めた。
台所を覗くと、レリスが一人で野菜を並べていた。
ライラに手伝いを命じられたのだろう。
ミナは少し考えた。
今日逃げるなら、レリスを連れていく必要がある。
レリスがいれば、ゲスネイへの手土産になる。
自分の身の保証にもなる。
ミナが台所に入った。
「レリス、ちょっといいかな」
「なに?」
「秘密の場所を見せてあげる」
レリスが目を輝かせた。
「ひみつ?」
「そう。誰も知らない場所だよ」
「いく!」
「ライラには内緒ね。驚かせようよ」
レリスが笑った。
「いいね!」
───
ミナはレリスの手を引いて、城の東側の廊下を歩いた。
普段は誰も来ない区画だ。
左に曲がり、右に曲がり、低い天井の通路を抜けた。
レリスが不思議そうに周囲を見ていた。
「ここどこ?」
「秘密の道だよ」
「ほんとうに?」
「本当に」
突き当たりに、古びた木の扉があった。
ミナが開けた。
埃っぽい小部屋だった。
使われていない倉庫のようだった。
窓もなく、薄暗かった。
「ここ?」
レリスが首を傾げた。
「もう少し奥だよ」
ミナが部屋の中に入った。
レリスもついてきた。
扉が閉まった。
ミナが振り返った。
手に、小さな布が握られていた。
「レリス、少し眠ってね」
「え?」
布がレリスの顔に当てられた。
レリスが抵抗した。
「やだ、なに、やだ、ミナ」
数秒だった。
レリスの体から力が抜けた。
ミナが受け止めた。
傍らに置いていた大きな布袋を広げた。
レリスをそっと入れた。
口を結んだ。
袋を担いだ。
部屋を出た。
───
ミナは入り組んだ廊下を進んだ。
城を調べる中で見つけた通路だ。
石造りの壁に沿って続く、細い道。
城の外壁の内側を通っている。
突き当たりに、小さな鉄の扉があった。
その先が外だ。
茂みに出る。
そこから街道まで走れば、合流地点に馬が待っている。
ミナは扉に手をかけた。
押した。
冷たい外の空気が入ってきた。
出られる。
足を踏み出そうとした瞬間。
「待つんだチュー」
後ろから、声がした。
小さな声だった。
可愛い声だった。
しかし、ミナの足が止まった。
振り返れなかった。
振り返ってはいけない気がした。
背中に、何かを感じた。
殺気とは違う。
ただ、そこに何かがいた。
確実に、そこにいた。
ミナは動けなかった。




