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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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17/21

17,三日

 セバチャが地下の扉をノックした。


 返事がないまま扉が開く。


「カキンオー様、先ほどの件をご報告します」


 俺は作業場から戻ったところだった。


 手に煤がついていた。


 鍛冶はまだうまくいっていない。


 セバチャが静かに事情を説明した。


 城門に二人組が来た。


 逃げた奴隷の子供がいるはずだ。


 返してもらえるか。


 三日以内に返答を。


 俺はしばらく黙っていた。


 レリスか。


 沼地で見つけた、あの子か。


 泥だらけで、裸足で、茂みに隠れていた。


 奴隷の子供だったのか。


 知らなかった。


 知らなかったが、今は知った。


「カキンオー様、いかがなさいますか」


 俺は答えなかった。


 答えが出なかった。


 セバチャが静かに続けた。


「奴隷の子供は、法的には元の主人の所有物です。返還を求める権利がある、ということになります」


 法的には、か。


 俺はしばらく天井を見た。


「三日、猶予があります」


 セバチャが頭を下げた。


「御意のままに」


 扉が閉まった。


 俺は作業台に手をついた。


 どうしようか。


 返すのか。


 返さないのか。


 面倒くさい。


 でも、面倒くさいで済む話じゃない気がした。


───


 廊下では。


 タルドが掃除の手を止めていた。


 奴隷の子供。


 レリスが。


 センのことが、また頭をよぎった。


 レリスのことを話した。


 迷子の女の子だと。


 それだけだ。


 それだけのはずだ。


 でも。


 タルドは廊下の壁にもたれた。


 センとは幼なじみだ。


 気のいいやつだと思っていた。


 でも、城のことをよく聞いてくる。


 そして今日、奴隷の返還を求める男たちが来た。


 タルドはしばらく動かなかった。


 気のせいであってほしかった。


 でも、気のせいではない気がした。


───


 台所では。


 ライラがレリスと夕食の準備をしていた。


 レリスが野菜を洗いながら、鼻歌を歌っていた。


 ライラはそれを聞きながら、手を動かし続けた。


 セバチャから話は聞いていた。


 奴隷の子供。


 返還要求。


 三日以内。


 ライラは包丁を置いた。


「レリス」


「なに?」


「ここは好きですか」


 レリスが少し考えた。


「すき!」


「なぜですか」


「タルドがいるし、ライラがいるし、おじさんもいるし」


「カキンオー様が」


「おじさんがいる!」


 ライラが微笑んだ。


「そうですね」


 レリスが鼻歌を再開した。


 ライラは包丁を手に取った。


 この子をどこにも渡さない。


 笑顔のまま、静かにそう思った。


───


 夜、タルドがセバチャの執務室をノックした。


「少し、話があります」


 セバチャが顔を上げた。


「センという男を知っていますか」


「村の方ですか」


「そうです。幼なじみです」


 タルドが少し間を置いた。


「最近、城のことをよく聞いてくるんです。レリスのことも話しました。迷子の女の子がいると」


 セバチャが静かに聞いていた。


「今日来た男たちと、センが関係しているかもしれない。確証はないですが」


 セバチャが羽根ペンを置いた。


「タルドさん」


「はい」


「よく話してくれました」


 タルドが頷いた。


「センは、悪いやつではないと思います。ただ、誰かに使われているのかもしれない」


「調べます」


 セバチャが静かに言った。


「タルドさんは、今まで通りにしていてください」


「センとの関係は」


「普通にしていてください。気づいていないふりを」


 タルドが頷いた。


 扉を閉める前に、振り返った。


「レリスは、どうなりますか」


 セバチャが少し間を置いた。


「カキンオー様がお決めになります」


 タルドが扉を閉めた。


───


 翌朝、レリスが地下の廊下をうろうろしていた。


 作業場の前で立ち止まった。


 中から金属を叩く音がした。


 レリスが扉をノックした。


 音が止まった。


 少しして、扉が開いた。


 カキンオーだった。


 手に煤がついていた。


 レリスが中を覗き込んだ。


「なにしてるの」


 カキンオーは答えなかった。


 レリスが作業台を見た。


 金属の塊が置いてあった。


 形が歪んでいた。


「これ、なに」


 カキンオーは答えなかった。


「つくってるの?」


 カキンオーが少し間を置いた。


 小さく頷いた。


「へたくそ」


 カキンオーが固まった。


 レリスが笑った。


「でも、がんばってるね」


 カキンオーは何も言わなかった。


 レリスが踵を返した。


「またみにくるね!」


 走って行った。


 カキンオーはしばらくその背中を見ていた。


 へたくそ、か。


 否定できない。


 俺は作業台に向き直った。


 もう一回やってみよう。


───


 三日目の朝。


 城門の前に、また男たちが来た。


 今度は四人だった。


 タルドが出迎えた。


「返答を聞きに来た」


 タルドが頷いた。


「セバチャを呼んでくる」


───


 応接室で、セバチャが男たちと向かい合った。


「返答をお聞かせください」


 セバチャが静かに口を開いた。


「カキンオー様からのお言葉をお伝えします」


 男たちが待った。


 セバチャが一呼吸置いた。


「断る」


 たった一言だった。


 男たちが顔を見合わせた。


「理由は」


「カキンオー様はそれ以上、何もおっしゃっていません」


 男の一人が立ち上がった。


「法的に返還の権利がある。それは分かっているか」


「承知しています」


「それでも断ると」


「はい」


 男たちが沈黙した。


 もう一人が低い声で言った。


「後悔することになるぞ」


 セバチャが静かに答えた。


「その言葉、カキンオー様にお伝えします」


 男たちが立ち上がった。


 城門を出る前に、一人が振り返った。


「三日後にまた来る。その時は、もっと大勢で来る」


 セバチャは表情を変えなかった。


「ご自由に」


───


 地下の作業場では。


 俺は金属を叩き続けていた。


 セバチャから報告は受けていた。


 断ると伝えた。


 後悔することになると言われた。


 まあ、そうかもしれない。


 でも、返す気はなかった。


 理由を言葉にしろと言われたら、うまく言えない。


 ただ、返す気はなかった。


 それだけだ。


 金属を叩いた。


 まだ形にならない。


 でも、少しずつコツがつかめてきた気がする。


 レリスがまた覗きに来るかもしれない。


 へたくそと言われる前に、形にしたかった。


 なんとなく、そう思った。



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