16,返せ
城の地下に、小さな作業場があった。
炉がある。
道具もある。
ゲームの城だから当然あるとは思っていたが、実際に見るのは初めてだった。
俺はインゴットを一本、指輪から取り出して眺めた。
鉄のインゴットだ。
ゲームでは鍛冶スキルがあれば、素材を選んでボタンを押すだけで剣になった。
そういうものだと思っていた。
炉に火を入れた。
インゴットを熱した。
赤くなった。
叩いた。
形が変わった。
悪くない。
続けた。
叩いて、叩いて、叩いた。
なんか違う。
形が歪んでいる。
剣になる気配がない。
俺は作りかけのものを眺めた。
ゲームとは違う。
手順が分からない。
コツが分からない。
頭の中のスキルは確かにある。
でも、それをどう体に伝えるのかが分からない。
うーん。
俺はもう一本インゴットを取り出した。
もう一回やってみよう。
諦めたわけではない。
なんか悔しかった。
───
同じ頃、ファルネイスの街の外れにある、目立たない建物で。
ザガンが男と向かい合っていた。
男の名前をザガンは知らない。
知る必要がない。
中間業者を二人挟んだ先にいる人間だ。
自分とは繋がっていない。
それでいい。
「城に子供がいる」
ザガンが静かに言った。
「女の子だ。五歳くらい。足の裏に印がある」
男が少し目を細めた。
「どんな印だ」
ザガンが紙に書いて渡した。
男が見た。
少し間があった。
「……これは」
「心当たりがあるか」
「ある」
男が紙を返した。
「この街の奴隷商人の印だ。ゲスネイという男だ」
「ゲスネイか」
「そうだ。奴隷の子供にこれをつける。追跡用だ」
ザガンが頷いた。
「ゲスネイに話を通せるか」
「できる」
「頼む」
ザガンが立ち上がった。
「ただし」
ザガンが静かに続けた。
「俺の名前は一切出すな。お前がこの話を持ち込んだことにしろ」
「報酬は」
「結果が出たら払う」
男が頷いた。
ザガンが部屋を出た。
廊下を歩きながら、静かに考えた。
城に直接圧力をかけることはしない。
法的な手続きを使う。
奴隷の子供は元の主人の所有物だ。
返還を求める権利がある。
城の主がどう出るか。
それを見てから、次を考える。
───
城では。
ミナが台所で作業をしながら、城内の把握を続けていた。
一週間働いて、だいたいの構造は頭に入った。
北の廊下の突き当たりに、使われていない部屋が三つある。
東の倉庫の裏に、小さな搬入口がある。
夜は無人になる区画がある。
ミナは表情を変えずに野菜を切り続けた。
そこへレリスが入ってきた。
「ミナ、なにつくってるの」
「スープだよ」
「てつだう!」
「包丁は危ないから駄目」
「じゃあなにする」
「野菜を運んで」
レリスが嬉しそうに野菜を抱えた。
ミナがレリスを見た。
この子は何も知らない。
城に来る前に何があったのかも、自分がどういう立場なのかも。
ミナは野菜を受け取りながら、静かに言った。
「レリス、ここに来る前はどこにいたの」
レリスが少し考えた。
「おかあさんといた」
「お母さんはどこにいるの」
レリスが黙った。
少しの間があった。
「しらない」
それだけ言って、レリスがまた野菜を取りに行った。
ミナは手を止めなかった。
表情も変えなかった。
───
夕方、タルドが城門の外で薪を運んでいると、見知らぬ男が近づいてきた。
二人組だった。
革鎧ではない。
商人でもない。
どこか、目つきが違った。
「ここがカキンオーの城か」
「そうだが」
「城の主に取り次いでもらいたい」
「用件は」
男が少し間を置いた。
「逃げた奴隷の子供がいるはずだ」
タルドが手を止めた。
「返してもらえるか、と伝えてくれ」




