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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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15/17

15,刻印

 朝、城の廊下でレリスがタルドの後をついて歩いていた。


 タルドが掃除をするたびに、レリスが邪魔をした。


「タルド、あそぼ」


「仕事中だ」


「おわったら?」


「また仕事がある」


「ずっとしごとなの?」


「そうだ」


 レリスがむすっとした。


「タルドはいつもしごとしてる」


「働いてるからな」


「レリスもてつだう」


「足手まといになるから駄目だ」


「ならない!」


「なる」


 レリスがタルドの持つモップを掴んだ。


 タルドが引っ張った。


 レリスも引っ張った。


 しばらく綱引きになった。


 ライラが廊下の奥から歩いてきた。


「レリス、タルドさんの邪魔をしてはいけません」


「てつだってる!」


「邪魔です」


「てつだいとじゃまはちがう!」


 タルドがモップを回収した。


 レリスがライラに向き直った。


「ライラ、タルドがあそんでくれない」


「仕事中ですから」


「じゃあライラあそぼ」


「私も仕事中です」


「じゃあカキンオーおじさん!」


「カキンオー様はもっとお忙しいです」


「ぜんぜんいそがしそうじゃないけど」


 ライラが微笑んだ。


「そう見えるのがカキンオー様のすごいところです」


 レリスがよく分からないという顔をして、廊下を歩いていった。


───


 その頃、城の風呂場では。


 俺は浴槽に浸かりながら、ぼんやり考えていた。


 最近、本を読む以外にやることがない。


 チェスは一人では面白くない。


 何かできることはないか。


 頭の中でスキルリストを広げた。


 全ジョブカンスト。


 金によるゴリ押しの結果だ。


 課金すれば経験値が買えた。


 買えるものは全部買った。


 戦士、魔法使い、盗賊、僧侶、錬金術師、鍛冶師、料理人、農夫。


 農夫まで。


 全部カンストしている。


 この世界で使えるかどうかは分からないが、スキルは頭の中に残っている。


 鍛冶か。


 錬金術か。


 素材なら倉庫に山ほどある。


 売るだけじゃなくて、何か作れるかもしれない。


 まあ、気が向いたらでいい。


 俺は浴槽から上がった。


───


 風呂場の外では。


 ライラが扉の前に立って待っていた。


 セバチャが廊下を通りかかった。


「また扉の前ですか」


「カキンオー様がお風呂に入っておられます」


「それは分かりますが」


「お待ちしています」


「一歩離れなさい」


「でも」


「離れなさい」


 ライラが渋々と一歩後退した。


 一歩だけだった。


 そこへレリスが走ってきた。


「ライラなにしてるの」


「お待ちしています」


「なにを?」


「カキンオー様を」


 レリスが扉を見た。


「おじさん、おふろ?」


「はい」


「いっしょにはいる!」


 レリスが扉に手をかけた。


 ライラが素早くレリスを抱き上げた。


「駄目です」


「なんで! ライラもいつもはいろうとするじゃん!」


 セバチャが静かに咳払いをした。


 ライラが少し顔を赤くした。


「それとこれとは話が違います」


「どうちがうの」


「違うんです」


「わかんない」


 セバチャがもう一度咳払いをして、執務室に戻っていった。


───


 風呂から上がった俺が扉を開けると、ライラがレリスを抱えたまま扉の前に立っていた。


 距離、一歩。


 レリスが手を振った。


「おじさん、おかえり!」


 俺は黙って廊下を歩き出した。


 ライラが後ろからついてきた。


「お加減はいかがですか。温度は丁度よかったですか。長く入りすぎではないですか」


 レリスも後ろからついてきた。


「おじさん、あしはやい!」


 俺は返事をしなかった。


 廊下を歩きながら、さっき考えたことを思い出した。


 鍛冶か、錬金術か。


 ライラに素材を頼めばいいか。


 頼む方法が問題だが。


 まあ、後で考えよう。


───


 その日の午後、セバチャの執務室に来客があった。


 城で働きたいという申し出だった。


 三十代の落ち着いた女性で、名をミナといった。


 以前は商家で働いていたが、主人が事業を畳んで職を失ったという。


 セバチャが向かいに座って、羽根ペンを手に取った。


「なぜこの城で働きたいと思ったのですか」


「知人から、こちらで人を募集していると聞きました」


「知人、とは」


「村の方です。タルドという方の知り合いから」


 セバチャが書き留めた。


「カキンオー様の沈黙についてはどう思いますか」


 ミナが少し考えた。


「深い御方なのだと思います。言葉より行動で示される方なのでしょう」


 セバチャが深く頷いた。


「なるほど」


 羽根ペンが走った。


「カキンオー様のお世話に関心はありますか」


「いいえ。雑用で構いません」


「謙虚ですね」


 セバチャはしばらくミナを観察した。


 的確な答えだ。


 深読みできる余白がある。


 この人物は、カキンオー様の真意を理解できる素養がある。


「採用します。明日から来てください」


 ミナが深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


───


 セバチャが報告書を書いていた。


 新たな使用人を一名採用した。


 タルドの知人の紹介とのこと。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 タルドの知人の紹介。


 つまり、カキンオー様はすでに、村との繋がりを人材確保に活かす仕組みを作っておられたのだ。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 翌日、ミナが城に来た。


 ライラが出迎えた。


「いらっしゃいませ。ミナさんですね」


「はい。よろしくお願いします」


 ライラが城内を案内した。


 台所、倉庫、広間、廊下。


 ミナは静かについてきながら、目だけが動いていた。


 倉庫の前で、ライラが説明した。


「こちらは倉庫です。素材や備品が入っています。業務で必要なものはセバチャに申請してください」


「分かりました」


 ミナが倉庫の扉をちらりと見た。


 鍵はかかっていない。


 ミナは表情を変えずに頷いた。


───


 案内の途中で、廊下をレリスが走ってきた。


「ライラ! あたらしいひとだれ!」


「ミナさんです。今日から城で働いてもらいます」


 レリスがミナを見上げた。


「レリスです。よろしくです」


 ミナが微笑んだ。


「よろしく。かわいいね」


「しってる!」


 レリスが走って行った。


 廊下の端で転んだ。


 ミナが思わず前に出た。


「大丈夫?」


 レリスが起き上がった。


「へいき!」


 ミナの視線が、一瞬だけ下に向いた。


 レリスの足が、裸足だった。


 足の裏に、何か小さな印があった。


 レリスがまた走り出した。


 ミナは表情を変えなかった。


 ライラが苦笑いした。


「いつもあんな感じで。すみません」


「元気な子ですね」


「本当に」


 ライラが歩き出した。


 ミナはついていきながら、頭の中に刻み込んだ。


 足の裏の印。


 小さく、しかし明確に刻まれていた。


───


 夜、ミナが使用人部屋に戻った。


 懐から小さな手帳を取り出した。


 倉庫の位置。鍵なし。


 人員構成。執事、メイド、雇われた若者、新入りの自分。


 それから少し間を置いて、書いた。


 城に子供がいる。女の子。五歳前後。


 足の裏に印。


 ミナは手帳を閉じた。


 あの印が何を意味するのか、ザガンなら分かるだろう。


 ミナは蝋燭を吹き消した。


───


 同じ頃、城の廊下でレリスがタルドに絡んでいた。


「タルド、あしのうらみせて」


「なんで」


「みたいから」


「嫌だ」


「なんで!」


「くすぐったいから」


 レリスが笑った。


「くすぐったいの! じゃあくすぐる!」


「やめろ」


「みせたらくすぐらない」


「取引するな」


 タルドがレリスを抱き上げて、廊下の端に置いた。


「今日はもう部屋に帰れ」


「やだ」


「ライラに言うぞ」


 レリスが少し考えた。


「……かえる」


 レリスが廊下を歩いていった。


 タルドはその背中を見送った。


 センのことを、ふと思った。


 先週また会って、少し話した。


 気のいいやつだと思っていた。


 でも、なんとなく引っかかることがある。


 城のことを、よく聞いてくる。


 興味があるだけかもしれない。


 でも。


 タルドは掃除を再開した。


 気のせいかもしれないけど。


───


 地下では。


 俺は本を読んでいた。


 鍛冶、やってみるか。


 素材をライラに頼めばいいか。


 頼む方法が問題だが。


 まあ、明日考えよう。


 ページをめくった。


 静かだった。





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