14,友人
タルドが村に帰るのは、週に一度だった。
休みというわけではない。
買い出しの同行と、素材の売却だ。
ライラと一緒のこともあるし、一人のこともある。
その日は一人だった。
素材を売って、食料を買って、帰るだけだ。
いつもと同じ、単純な用事だった。
買い取り屋を出たところで、声をかけられた。
「よう、タルドじゃないか」
振り返ると、見覚えのある顔だった。
幼なじみのセンだ。
二つ年上で、子供の頃からよく遊んでいた。
「センか。久しぶりだな」
「城で働いてるって聞いたぞ。どうだ、慣れたか」
「まあ、なんとか」
センが笑った。
「飯でも食いながら話さないか。久しぶりだし」
タルドは少し考えた。
急いで帰る必要はない。
「いいか」
───
村の酒場の隅で、二人は向かい合って座った。
センが杯を傾けながら言った。
「城って、どんなとこだ。噂ばかりで実態が分からなくてな」
「普通の城だよ。広くて、薄暗くて、静かで」
「主人はどんなやつだ」
「あまり会わない。地下にいることが多い」
「怖いか」
タルドが少し考えた。
「怖くはないな。廊下ですれ違っても、何もしてこない」
「しゃべらないのか」
「しゃべらない。でも、悪い人ではないと思う」
センが頷きながら聞いていた。
「他に人はいるのか」
「執事と、メイドと、俺だ。あと子供が一人いる」
「子供?」
「迷子で保護した子だ。レリスという」
センが少し目を細めた。
「へえ」
「かわいいやつだよ。やんちゃだけど」
センが杯を置いた。
「城の中は広そうだな。部屋もたくさんあるか」
「ある。使ってない部屋がほとんどだけど」
「倉庫とかも?」
「ある。素材とか装備品とかが入ってる」
「装備品、か」
センが笑った。
「宝箱の中身みたいなやつか」
「たぶんそうだと思う。俺は詳しく見てないけど」
センが頷いた。
「そうか。いいとこ就職したな」
「まあ、変わったとこだけど」
タルドが杯を飲んだ。
センが続けた。
「執事って、あの白髪の老人か。なんか変わってるって聞いたけど」
「変わってる。面接で変な質問ばかりされた」
「どんな質問だ」
「カキンオー様の沈黙をどう思うかとか」
センが笑った。
「変なの」
「だろ」
タルドも笑った。
久しぶりに気が楽になった気がした。
センは昔から話しやすい。
気を遣わなくていい。
───
酒場を出て、タルドが城への道を歩いていると、センが途中までついてきた。
「また来週来るか」
「来ると思う」
「じゃあまた飯食おう」
「ああ」
センが手を振って、村の方に戻っていった。
タルドは城への道を歩きながら、久しぶりに友人と話せた気がして、少し気分が良かった。
───
その夜、街道沿いの宿で。
センは小さな部屋で、蝋燭の光の下に座っていた。
手帳に書き込んでいた。
城の構造。
人員構成。
執事、メイド、雇われた若者。
子供が一人。
倉庫に素材と装備品。
使っていない部屋が多数。
センは手帳を閉じた。
懐から小さな紋章入りの硬貨を取り出して、眺めた。
ザガンから渡された硬貨だ。
報告すれば、また金になる。
タルドは良いやつだった。
悪いとは思った。
少しだけ。
センは蝋燭を吹き消した。
───
翌朝、城の廊下で。
タルドが掃除をしていると、レリスが走ってきた。
「タルド! きのうどこいったの!」
「村だ」
「なんで! いっしょにいけばよかった!」
「仕事だから」
「レリスもいく!」
「駄目だ」
レリスがむすっとした。
「なんで!」
「危ないから」
「ライラもそういう」
「じゃあ駄目だ」
レリスがタルドの袖を引いた。
「ねえ、タルドのむらってどんなとこ」
「普通の村だ」
「こどもいる?」
「いるよ」
「あそびたい」
タルドが掃除の手を止めた。
レリスが大きな目でタルドを見上げていた。
タルドは少し考えた。
この子は城の外の世界をほとんど知らない。
城に来てから、出たことがない。
「いつか連れていってやる」
「ほんとう?」
「約束はできないけど」
レリスが少し考えてから頷いた。
「わかった。でもわすれないでね」
「分かった」
レリスが走って行った。
タルドはしばらくその背中を眺めてから、掃除を再開した。
───
地下では。
俺は本を読んでいた。
静かだった。
上の階からレリスの声が聞こえた。
毎日賑やかだ。
まあ、悪くない。
ページをめくった。
───
城から遠く離れた場所で。
センの報告を受けたザガンが、静かに頷いた。
「子供が一人いる、か」
「はい。迷子を保護したと」
「どんな子供だ」
「詳しくは分かりません。タルドは女の子だとだけ」
ザガンが少し考えた。
「次は、その子供のことを詳しく調べろ」
「なぜですか」
「迷子を保護する城だ」
ザガンが静かに続けた。
「人質にもなるし、弱点にもなる。あるいは、別の意味があるかもしれない」
「別の意味、とは」
「城に子供がいる理由が、単純な保護だけとは限らない」
センが頷いた。
「次回、もう少し詳しく聞き出します」
「急ぐな」
ザガンが静かに言った。
「タルドとの関係を壊すな。時間をかけろ」
「はい」
「それから」
ザガンが立ち上がった。
「城に入り込む口実を考えろ。使用人の募集がまたあれば、こちらから人を送り込む」
「分かりました」
センが部屋を出た。
ザガンは窓の外の南の空を眺めた。
急ぐことはない。
じわじわと、内側から。
それがザガンのやり方だった。
───
城の地下では。
俺は本を読んでいた。
静かだった。
ただ、静かだった。




