表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

12,思い出と小さな日常

 カキンオーが公式ラスボスとして認定されてから、しばらく経った頃のことだ。


 その日も、城に挑戦者が来ていた。


 珍しくもなかった。


 毎日のように誰かが来て、戦って、死んで、蘇生して、帰っていく。


 それがこの城の日常だった。


 その男が来たのは、夕方近かった。


 装備を見た瞬間、カキンオーは少し驚いた。


 見覚えがあった。


 アカマルだ。


 赤のマルドール。


 かつて交換した、あの鎧だ。


「やっぱりお前か」


 男が笑いながら言った。


 カキンオーは黙っていた。


「プレイヤーがボスになるってどういうことだよ。運営も大概だな」


 カキンオーは答えなかった。


 男が肩をすくめた。


「相変わらず無口だな」


 それから少し間を置いて、男が続けた。


「俺、このゲーム今日でやめるんだ」


 カキンオーは動かなかった。


「だから最後に挑戦してみたくてな。お前に」


 男が剣を抜いた。


 二刀流だった。


 一本はよく見る装備だった。


 もう一本に、カキンオーは目が止まった。


 クロデンだ。


 黒のデンストラー。


 あの時交換した、あの剣だ。


 少し時代遅れになっていた。


 装備のインフレが進んで、もう最強ではない。


 それでも、その剣を使い続けていた。


 カキンオーは自分の装備を確認した。


 普段は剣と盾のスタイルだ。


 しかし今日は違う気がした。


 指輪から剣を一本取り出した。


 クロデンだ。


 同じく時代遅れになった、あの剣だ。


 ずっと指輪の中に入れていた。


 捨てられなかった。


 男が目を細めた。


 それから、笑みを浮かべた。


「そうか」


 それだけだった。


 男が踏み込んできた。


 猛烈な斬撃だった。


 連撃が続く。


 一撃、二撃、三撃、四撃。


 止まらない。


 カキンオーは全力で防御を続けた。


 受けて、捌いて、退いて、また受けて。


 攻撃する余裕がなかった。


 男の猛攻が、一息ついた瞬間があった。


 その瞬間、カキンオーは一撃を放った。


 一撃だけだ。


 それだけで、男の体力がすべて消えた。


 キャラが崩れ落ちた。


 蘇生待ちのカウントが始まった。


 数秒の沈黙があった。


「強すぎだろ」


 男が笑いながら言った。


「ラスボス頑張れよ」


 カウントがゼロになった。


 男のキャラが消えた。


 カキンオーは、しばらくその場に立っていた。


 何か一言、言えたらよかった。


 ありがとうとか。


 またなとか。


 そんな簡単な言葉でよかった。


 でも、何も言えなかった。


 あの時何かひと言言えたら。


 今でも、たまに思い出す。


───


 地下の部屋で天井を見上げながら、俺はそんなことを考えていた。


 またあいつのことを思い出してしまった。


 あいつは今、どこにいるんだろう。


 そう思っていると、廊下から声が聞こえた。


「レリス、そっちは倉庫ですよ」


「いいの! みたいの!」


「駄目です」


「なんで!」


 ライラとレリスだ。


 毎日こんな感じだ。


 俺は天井から視線を外した。


 まあ、いいか。


 本を開こうとしたとき、扉が勢いよく開いた。


 レリスだった。


 息を切らして、目をきらきらさせていた。


「おじさん、そうこみた!」


 俺は固まった。


 おじさん。


 俺が、おじさん。


 後ろからライラが走ってきた。


「レリス! カキンオー様のお部屋に勝手に入っては」


「いいじゃん!」


 レリスが俺を見た。


「おじさん、そうこのなかにすごいのいっぱいあった! なんで?」


 俺は答えなかった。


 答えようがなかった。


 ライラがレリスの手を掴んだ。


「失礼しました、カキンオー様。すぐ連れていきます」


「やだ! おじさんとはなす!」


「駄目です」


「なんで!」


 レリスがライラの手を振り解いて、俺の方に一歩踏み込んだ。


 俺は思わず後退した。


 子供に後退する魔王。


 我ながら情けない。


 レリスが俺を見上げた。


「おじさん、なんでしゃべらないの」


 俺は黙っていた。


 レリスがしばらく考えてから言った。


「しゃべれないの?」


 違う。


 しゃべれる。


 ただ、しゃべれないだけだ。


 自分でも意味が分からないが、そういうことだ。


 ライラが再びレリスの手を掴んだ。


「カキンオー様はお忙しいのです。行きますよ」


「いそがしそうにみえないけど」


「レリス」


「ほんとうのことじゃん」


 ライラがレリスを抱き上げた。


 レリスが俺に手を振った。


「またくるね、おじさん!」


 扉が閉まった。


 廊下でライラがレリスに何か言っているのが聞こえた。


 俺はしばらくその場に立っていた。


 おじさん、か。


 まあ、そう見えるのかもしれない。


 俺は本を開いた。


───


 城の廊下では。


 ライラがレリスを抱えたまま歩いていた。


「レリス、カキンオー様のお部屋に勝手に入ってはいけません」


「なんで?」


「カキンオー様がびっくりされるからです」


「おじさん、びっくりしてた?」


 ライラが少し考えた。


「していました」


「ちょっとだけ、うしろにさがった」


「見ていたんですか」


「うん」


 ライラが微笑んだ。


「カキンオー様が後退されたのは、レリスが初めてだと思います」


 レリスが少し得意そうな顔をした。


「そうなの?」


「はい」


「おじさん、こわくないね」


 ライラが少し間を置いた。


「そうですね」


 小さな声で、付け加えた。


「とても、優しい方ですよ」


───


 夕方、タルドが廊下を掃除していると、レリスが走ってきた。


「タルド!」


「何だ」


「おじさんのへや、はいった!」


 タルドが手を止めた。


「おじさん、って」


「くろいよろいのひと」


 タルドが少し固まった。


「カキンオー様のお部屋に入ったのか」


「うん!」


「……生きてるな」


「いきてるよ?」


 タルドがまた掃除を始めた。


「何かされたか」


「うしろにさがった」


 タルドが少し考えた。


「後退した?」


「うん。ちょっとだけ」


 タルドはしばらく黙って掃除を続けた。


 それから小さく言った。


「そうか」


 なんとなく、安心した気がした。


───


 夜、セバチャが地下の扉をノックした。


 返事がないまま扉が開く。


「カキンオー様、本日レリスが無断でお部屋に入ったとのこと、申し訳ございませんでした」


 俺は天井を見たまま答えなかった。


「再発防止のため、レリスの行動範囲を制限いたします」


 俺は少し考えた。


 まあ、別にいいか。


 驚いただけだし。


 小さく手を横に振った。


 セバチャが少し間を置いた。


「……制限しなくてよいと」


 俺は天井を見たまま動かなかった。


 セバチャが深く頭を下げた。


「御意のままに」


───


 城の二階では。


 セバチャが報告書を書いていた。


 本日、レリスがカキンオー様のお部屋に無断侵入した。


 カキンオー様は制限不要とのご判断を示された。


 セバチャはそこで一度ペンを止めた。


 なぜカキンオー様は制限を不要とされたのか。


 子供の無礼を許されたのか。


 あるいは、レリスの存在をすでに城の一部として認めておられるのか。


 セバチャは静かに結論を出した。


 カキンオー様は、レリスを通じて何かをご覧になっているのだ。


 子供の目を通した、この世界の真実を。


 なんと深謀遠慮な御方か。


 一切合切が、全力でズレていた。


───


 地下では。


 俺は本を読んでいた。


 おじさん、か。


 まあ、いいか。


 ページをめくった。


 静かだった。


 廊下の奥から、またレリスの声が聞こえた気がした。


 今日はもう来ないだろう。


 たぶん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ