105,アモンダールの戦い
タルドが困惑していた。
城門の前でアモンを見ていた。
「か、カキンオー様と戦いたい、とは」
「言ったとおりチュ」
タルドがしばらく固まっていた。
それから走った。
───
セバチャの部屋に飛び込んだ。
「セバチャさん! 大変です!」
セバチャが書き物をしていた。
顔を上げた。
「どうされましたか」
「アモン様が、カキンオー様と戦いたいと」
セバチャが少し止まった。
それから立ち上がった。
「分かりました」
「え、分かりましたって」
「手続きを進めます」
「て、手続き?」
セバチャが廊下を歩き始めた。
タルドが後を追った。
「手続きするんですか」
「謁見の申請です。戦闘を希望する場合の手順通りに」
「アモンですよ?」
「決まりです」
タルドが困惑したまま後をついた。
───
地下の作業場に。
セバチャがノックした。
「カキンオー様、アモン様より戦闘の申請がございました」
しばらく沈黙があった。
扉が開いた。
カキンオーが立っていた。
固まっていた。
セバチャを見た。
セバチャが頷いた。
「アモン様がお待ちでございます」
カキンオーはしばらく動かなかった。
それから、頷いた。
───
装備を整えた。
玉座に座った。
扉が開いた。
アモンが入ってきた。
セバチャが控えていた。
アモンがセバチャを見た。
「二人きりにするチュ」
セバチャがカキンオーを見た。
カキンオーが頷いた。
「では私は外に」
セバチャが退室した。
扉が閉まった。
静かになった。
アモンがカキンオーを見た。
「理由が必要チュか?」
カキンオーが首を横に振った。
「それならいいチュ」
───
アモンの体が黒い靄に包まれた。
膨れ上がった。
変わった。
靄が晴れた。
人型の悪魔がそこにいた。
大きかった。
翼があった。
目が深く暗かった。
「やっとこの姿に戻れた」
地の底から響くような声だった。
カキンオーが玉座から立ち上がった。
ラスボスとして。
アモンダールが両手を掲げた。
無数の黒い球体が現れた。
次々に。
止まらなかった。
アモンダールの手が動いた。
全ての球体が圧縮された。
砂粒ほどになった。
黒曜石のように輝いた。
空中でキラキラと光っていた。
それが、動いた。
四方八方から迫ってきた。
速かった。
小さかった。
避ける間もなかった。
カキンオーの全身に触れた。
轟音が響いた。
一定の空間で爆発が維持された。
破壊力が分散しきれなかった。
爆発がカキンオーを覆った。
煙が広がった。
静寂があった。
煙が晴れた。
カキンオーが立っていた。
両手をクロスして防御態勢だった。
無傷だった。
腕を下ろした。
「防ぐ必要もなかったな」
静かだった。
アモンダールは動揺しなかった。
───
暗黒の靄がカキンオーにまとわりついた。
動きが阻害された。
一瞬だった。
カキンオーが吹き飛ばした。
でもアモンダールはすでにいなかった。
靄とともに移動していた。
カキンオーの背後にいた。
背中に手を当てた。
何かを流した。
カキンオーがビクンと反応した。
それだけだった。
振り向きざまに裏拳を放った。
アモンダールが手から暗黒の靄を出した。
柔らかく受け止めた。
カキンオーが距離を取った。
しばらく二人が向き合った。
「全力で来るがいい」
カキンオーが言った。
アモンダールが何かを呟き始めた。
言葉だった。
低く、長かった。
カキンオーが指輪に意識を向けた。
引き出した。
闇の鎧が纏わりついた。
アモンダールの言葉が途切れた。
部屋が闇に染まった。
暗かった。
完全な闇だった。
何も見えなかった。
何も聞こえなかった。
カキンオーが呼吸をしようとした。
できなかった。
危険を感じた。
全方位に向けて魔法を放った。
無差別に。
爆裂した。
闇が晴れた。
───
部屋の端に、アモンダールがいた。
四肢が吹き飛んでいた。
床に倒れていた。
動かなかった。
カキンオーが見た。
一瞬、後悔した。
動いた。
指輪から完全回復薬を取り出した。
アモンダールに振りかけた。
もう一本取り出した。
口から飲ませた。
アモンダールの体が輝いた。
傷が癒えた。
欠損が戻った。
全部、戻った。
アモンダールの体が縮んだ。
靄に包まれた。
小さくなった。
ネズミになった。
アモンがカキンオーを見た。
「めちゃくちゃなやつだチュ」
カキンオーは答えなかった。
「でもスッキリしたチュ」
カキンオーが少し間を置いた。
「ごめん」
静かだった。
一言だった。
アモンが少し止まった。
「もういいチュ」
扉の方へ走った。
───
扉が開いた。
セバチャが入ってきた。
ライラも一緒だった。
ライラがカキンオーを見た。
ひどく心配そうだった。
部屋を見渡した。
壁にひびが入っていた。
床が焦げていた。
「カキンオー様、ご無事で」
セバチャが静かに言った。
「カキンオー様に問題が起こることなどありえません」
ライラが小声で言った。
「いや、しかし、部屋が」
「ありえません」
「でも壁が」
「ありえません」
ライラがまた小声で言い始めた。
誰も聞いていなかった。
アモンが扉の前で止まった。
「レリスのとこに帰るチュ」
それだけ言って、出ていった。
───
ファルネイスの宿舎で。
レリスが右手を出していた。
黒いモヤモヤが出た。
丸くしようとした。
崩れた。
「うーん」
また出した。
また崩れた。
「うーん」
ミナが横で見ていた。
「難しいですね」
「むずかしい」
また出した。
また崩れた。
「うーん」
夜が更けていった。
レリスは続けた。
全然できなかった。
でも、やめなかった。




