106,修理と帰還
翌朝。
謁見の間は酷いことになっていた。
壁にひびが入っていた。
床が焦げていた。
天井の一部が落ちていた。
タルドが見渡した。
「なんとかしないと」
腕まくりをした。
工具を持ってきた。
壁のひびに工具を当てた。
ひびが広がった。
「あ」
また当てた。
もう少し広がった。
「あ、あ」
天井を見上げた。
また少し落ちてきた。
「あああ」
タルドが工具を置いた。
部屋から出た。
───
セバチャの部屋に飛び込んだ。
「セバチャさん! 謁見の間が」
「存じております」
「壁が、天井が」
「存じております」
「俺がちょっと触ったら」
「存じております」
セバチャが報告書を書いていた。
タルドが覗き込んだ。
「なんと書いてあるんですか」
「カキンオー様が謁見の間の改装を決意された、と」
「改装?」
「左様でございます」
「でもあれは戦闘で」
「改装でございます」
タルドが困惑した。
「セバチャさん、謁見の間どうするんですか」
「カキンオー様にお任せするのが最善かと」
───
カキンオーが謁見の間に来た。
見渡した。
ひどかった。
タルドが隅に立っていた。
「すみません、少し触ったら」
カキンオーが手を上げた。
流れを作った。
壁のひびが埋まった。
床の焦げが消えた。
天井が戻った。
元通りになった。
タルドが目を丸くした。
「なおった」
カキンオーが頷いた。
「す、すごいです」
カキンオーが部屋を出た。
タルドが謁見の間を見渡した。
綺麗だった。
「すごい」
誰もいなかった。
───
セバチャが報告書に書き添えた。
本日、カキンオー様が謁見の間を即座に修復された。
これが意味することは一つである。
いかなる破壊も、カキンオー様の前では些細なことに過ぎない。
世界が壊れようとも、カキンオー様であれば修復可能であろう。
つまり。
この世界はカキンオー様なしでは存続不可能である。
セバチャはそこでペンを止めた。
いや、しかし。
そうなるとカキンオー様の負担は。
心労は莫大なものになる。
世界中の破壊をお一人で修復されるとなれば。
これは世界に警告を発すべきではないか。
いや、さすがにそれは。
しかし。
ああ、どうすれば。
セバチャはしばらく頭を抱えた。
それから、ゆっくりと顔を上げた。
答えは一つだった。
報告書の末尾に、丁寧な字で書き添えた。
全身全霊でお支えする以外にない。
粉骨砕身、尽くしますぞ。
一切合切が、全力でズレていた。
───
ファルネイスの宿舎で。
夜遅かった。
レリスがまだ練習していた。
黒いモヤモヤが出た。
丸くしようとした。
崩れた。
「うーん」
また出した。
また崩れた。
そこに。
窓から何かが入ってきた。
小さかった。
アモンだった。
「かえったチュ」
レリスが振り返った。
「アモン!」
「うるさいチュ」
アモンが枕の上に乗った。
レリスの手を見た。
黒いモヤモヤが出ていた。
「練習してたチュか」
「うん。でもまだ丸くならない」
アモンが少し見ていた。
「手を出すチュ」
レリスが右手を出した。
アモンが前足で軽く触れた。
何かが、流れた。
レリスがビクンと反応した。
「なに?」
「感覚を覚えろチュ」
レリスが目を閉じた。
呪文を唱えた。
モヤモヤが出た。
丸くしようとした。
さっきより、少しだけ丸かった。
崩れた。
「あ」
「近いチュ」
レリスが目を開けた。
「ちかい?」
「もう少しチュ」
レリスがまた目を閉じた。
また出した。
また丸くしようとした。
また崩れた。
「うーん」
「続けるチュ」
アモンが枕の上で丸まった。
レリスが続けた。
夜が更けていった。
アモンが小さく欠伸をした。
レリスはやめなかった。
部屋が静かだった。
悪くなかった。




