104,悪魔法の練習
朝、アモンが枕の上にいた。
レリスが向かいに座っていた。
「もっとおしえて」
「お前にはまだ早いチュ」
「なんで」
「今の魔法で十分チュ」
「チクチクするだけじゃん」
「それで十分チュ」
レリスが頬を膨らませた。
「もっとおしえて」
アモンが少し間を置いた。
「仕方ないチュ」
レリスが前に出た。
「右手を出すチュ」
レリスが右手を出した。
「魔力を手の上にたくさん集めるチュ」
「どうやって」
「さっきのチクチクを手の上に集めるチュ」
レリスが目を閉じた。
呪文を唱えた。
手の上に黒いモヤモヤが出た。
「できた」
「まだチュ。それを丸い形にするチュ」
レリスが集中した。
モヤモヤが少し動いた。
丸くなりかけた。
崩れた。
「できない」
「続けるチュ」
またやった。
また崩れた。
「丸くなったらどうなるの」
「それをどんどん小さくするチュ」
「小さくしたらどうなるの」
「やればわかるチュ」
「おしえてよ」
「やればわかるチュ」
レリスがむくれた。
「仕方ないチュね」
アモンが欠伸をした。
「しばらく出かけるチュ。練習しとくチュ」
「どこいくの」
「うるさいチュ」
アモンが部屋を出た。
扉が閉まった。
───
レリスが練習を始めた。
右手を出した。
呪文を唱えた。
黒いモヤモヤが出た。
丸くしようとした。
崩れた。
また出した。
また丸くしようとした。
また崩れた。
全然できなかった。
レリスが手を見た。
チクチクした。
丸くならなかった。
むずかしかった。
───
学校に行った。
ユニスが待っていた。
「おはようございます」
「おはよう!」
二人で中庭を歩いた。
そこに。
「レリス」
声がした。
振り返った。
ガルドだった。
「ガルド! かえってきた!」
「実習が終わった」
ガルドがレリスを見た。
それからユニスを見た。
ユニスが少し緊張した。
「ガルド、ユニス! ともだち!」
「ユニスです。よろしくお願いします」
ガルドが少し間を置いた。
「ガルドだ」
それだけだった。
ユニスが少し固まった。
レリスが間に入った。
「ガルドはね、こわいかおだけどこわくないんだよ」
「こわい顔をしているわけじゃない」
「してるよ」
「してない」
ユニスが小さく笑った。
ガルドがユニスを見た。
「魔法の練習、一緒にやってるのか」
「はい。でもまだ全然で」
「レリスは?」
「全然チュ」
レリスがアモンの口真似をした。
「誰の真似だ」
「アモン」
ガルドが少し止まった。
「まあ、続けろ」
「うん!」
ユニスがレリスを見た。
レリスが頷いた。
ガルドが前を歩き始めた。
二人が後をついた。
───
授業が終わった。
帰り道。
レリスがまた右手を出した。
歩きながら練習した。
モヤモヤが出た。
丸くしようとした。
崩れた。
ミナが横で見ていた。
「歩きながらは危ないですよ」
「でも練習したい」
「家でやりましょう」
「うん」
レリスが手を下ろした。
───
宿舎に帰った。
アモンがいなかった。
レリスが部屋で練習を続けた。
モヤモヤが出た。
丸くしようとした。
崩れた。
また出した。
また崩れた。
夕食の時間になった。
ミナが呼んだ。
「レリス様、ご飯ですよ」
「うん」
レリスが立ち上がった。
手を見た。
まだチクチクしていた。
全然できなかった。
でも、やろうと思った。
───
夜になった。
城の門の前で。
タルドが空を見ていた。
日課だった。
影が差した。
小さかった。
タルドが見上げた。
アモンだった。
降りてきた。
「おかえり」
タルドが言った。
アモンが降り立った。
城を見た。
動かなかった。
中に入らなかった。
タルドが少し首を傾けた。
「どうされましたか」
アモンが城を見たまま言った。
「カキンオーと戦いたいチュ」
タルドが固まった。
アモンは動かなかった。
城の灯りが、静かに光っていた。




