103,ユニスが来る日
朝から、レリスがそわそわしていた。
部屋を片付けた。
また片付けた。
もう片付けるところがなかった。
ミナが見ていた。
「何時に来るんでしたっけ」
「おひるすぎ」
「まだ朝ですよ」
「しってる」
レリスがまた部屋を見渡した。
片付いていた。
アモンが枕の上にいた。
「うるさいチュ」
「なにも言ってないよ」
「そわそわしてるチュ」
「してない」
「してるチュ」
レリスが窓の外を見た。
まだ朝だった。
───
昼になった。
ミナが昼食の準備をしていた。
レリスが入口の方を何度も見ていた。
「まだ来ませんよ」
「しってる」
「食べましょう」
「たべたくない」
「食べましょう」
「……たべる」
アモンが欠伸をした。
───
昼過ぎ。
扉をノックする音がした。
レリスが立ち上がった。
ミナより先に扉を開けた。
ユニスが立っていた。
少し緊張した顔だった。
「こんにちは、レリスさん」
「きた! はいって!」
ユニスが中に入った。
部屋を見た。
「綺麗ですね」
「きょうのためにかたづけた」
「わ、ありがとうございます」
ミナが前に出た。
「いらっしゃいませ。ミナと申します」
「ユニスです。お邪魔します」
「お茶を用意しますね」
───
三人でテーブルについた。
アモンが枕の上から見ていた。
ユニスがアモンに気づいた。
「あの、ネズミですか」
「アモン」
「可愛いですね」
「うるさいチュ」
ユニスが少し驚いた。
「し、しゃべった」
「しゃべるよ」
「そうなんですか」
アモンがユニスを見た。
ユニスがアモンを見た。
「レリスの友達チュか」
「は、はい」
「まあいいチュ」
ユニスが少し緊張を解いた。
「なんか怖いけど可愛いです」
「うるさいチュ」
レリスが笑った。
───
夕方になった。
ミナが夕食を出した。
スープだった。
パンがついていた。
ユニスが一口飲んだ。
「おいしい」
「でしょ! ミナさんのごはん、ぜんぶおいしいんだよ」
「本当においしいです」
ミナが微笑んだ。
「ありがとうございます」
アモンがミナを見た。
「俺のは?」
「少々お待ちください」
小さなお皿に入ったスープが出てきた。
「ありがとうチュ」
ユニスが小声でレリスに言った。
「礼儀正しいんですね」
レリスが小声で返した。
「ミナさんにだけだよ」
アモンが顔を上げた。
「聞こえてるチュ」
「うるさいチュって言いたいんでしょ」
「うるさいチュ」
レリスが笑った。
───
食事が終わった。
二人でお茶を飲んだ。
「ユニスのおうちはどんなとこ?」
「普通の家ですよ。お父さんとお姉ちゃんと三人です」
「おかあさんは?」
ユニスが少し間を置いた。
「いないんです。小さい時から」
「そっか」
「でもお父さんがすごく頑張ってくれて」
ユニスが少し微笑んだ。
「お商売をしているんですけど、一生懸命お金を貯めてくれて。この学校に入れてくれたんです」
「すごいお父さんだね」
「はい」
ユニスが頷いた。
「だから頑張らないといけなくて」
「うん」
レリスが頷いた。
「わたしも、おとうさんとおかあさん、しらない」
「そうなんですか」
「うん。でも城においじさんがいる」
「おじさん?」
「カキンオーっていうの。城に住んでる」
ユニスが少し考えた。
「優しい人ですか」
レリスが少し考えた。
「やさしい。でも言葉少ない」
「そうなんですか」
「うん。でもごはんとかちゃんとある。あったかい」
ユニスが微笑んだ。
「いいですね」
「うん」
レリスが頷いた。
「いいとこだよ」
───
夕食が終わった。
ユニスが帰る時間になった。
扉の前で振り返った。
「レリスさん、今度うちに来てください」
レリスが少し止まった。
「いいの?」
ユニスが満面の笑みになった。
「もちろんです。お父さんもお姉ちゃんも、きっと喜びます」
レリスが嬉しくなった。
「いく! ぜったいいく!」
「待ってます」
ユニスが扉を出た。
レリスが手を振った。
扉が閉まった。
レリスが振り返った。
アモンが枕の上にいた。
「どうだったチュ」
「たのしかった!」
「そうチュか」
アモンが欠伸をした。
ミナが片付けを始めた。
部屋が静かになった。
悪くなかった。
───
夜になった。
ユキナが帰ってきた。
「ただいまー、疲れた」
「お帰りなさいませ」
ミナが片付けをしていた。
ユキナが椅子に座った。
そこに。
「ユキナ」
アモンが声をかけた。
ユキナが見た。
「少し力を試したい。付き合えチュ」
ユキナが少し止まった。
「いいけど、何をするの」
「来ればわかるチュ」
───
外に出た。
暗かった。
アモンが前に立った。
ユキナが構えた。
何が始まるか分からなかった。
しばらくして。
終わった。
ユキナが膝をついていた。
息が上がっていた。
アモンを見た。
「何よそれ」
アモンが静かに言った。
「馴染んだようだ」
チュがなかった。
声が、違った。
低かった。
深かった。
ユキナがアモンを見た。
アモンは動かなかった。
ただ、立っていた。
夜風が吹いた。




