102,帰り道
帝国の街道を馬車が走っていた。
カイトが窓の外を見ていた。
タルドが向かいに座っていた。
しばらくして。
「楽しかったです」
タルドが言った。
「そうか」
「串焼きも美味しかったです」
「そうか」
「チョンパさんも面白い人でした」
「お前が迷子になったおかげだな」
「結果的には良かったです」
カイトがため息をついた。
しばらく沈黙があった。
「カイト様」
「なんだ」
「あの剣、置いてきて良かったんですか」
カイトが少し止まった。
「モブテキに送ることになっている」
「そうなんですか」
「カキンオーにはちゃんと確認を取った」
「そうですか」
タルドが窓の外を見た。
「カキンオー様は何も言わなかったんですか」
「頷いただけだ」
「そうですか」
タルドが少し間を置いた。
「モブテキ様、喜ぶでしょうね」
「そうだな」
馬車が揺れた。
タルドがまた口を開いた。
「帝国の市場、また行きたいです」
「今度は一人で行くな」
「串焼きが美味しくて」
「だから迷子になったんだろ」
「でも美味しかったです」
カイトがため息をついた。
───
城に着いた。
夕方だった。
ライラが出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「カキンオー様はいつも通り地下においでです」
カイトが頷いた。
タルドが城を見た。
「やっぱりここが落ち着きます」
「さっきまで帝国が良いと言っていただろ」
「どちらも良いんです」
ライラが小さく笑った。
───
地下の作業場で。
カキンオーが付与の練習をしていた。
鉄片が並んでいた。
扉がノックされた。
「戻ったぞ」
カイトが入ってきた。
カキンオーが顔を上げた。
「祭典は面白かった。チョンパの二色、実際に見た」
カキンオーが少し動いた。
「すごかった。でも」
カイトが作業台を見た。
「お前の剣を見た時の会場の空気は別格だった」
カキンオーは答えなかった。
「チョンパも気づいていた。手に取って固まっていた」
少し間があった。
「お前ちょっと嬉しそうだな」
カキンオーが鉄片を手に取った。
カイトを見た、すぐに鉄片に視線を戻す。
流れを作った。
通した。
定着した。
光った。
カイトが見ていた。
「まあ、そういうことだ」
部屋を出た。
扉が閉まった。
カキンオーはまた鉄片を手に取った。
静かだった。
ちょっと嬉しかった。
───
帝国の外れに、小さな工房があった。
夜だった。
明かりがついていた。
金属を叩く音が聞こえていた。
チョンパが剣を打っていた。
一心不乱だった。
祭典の喧騒は、もう遠かった。
手が動いていた。
止まらなかった。
あの剣の光が、まだ頭にあった。
深かった。
重かった。
自分の二色より、ずっと先にあった。
チョンパは打ち続けた。
夜が深くなっていった。
それでも止まらなかった。




