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カキンオー(課金王)~コミュ障の俺が魔王扱いされ、世界が勝手に震えてる~  作者:


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101/134

101,祭典

 出発の朝。


 タルドが荷物を持って玄関口に立っていた。


 カイトが剣のケースを確認していた。


「帝国いいですね」


 タルドが言った。


「行ってみたかったんです」


「そうか」


「カキンオー様、本当にいいんですか」


 カキンオーが頷いた。


 セバチャが前に出た。


「よろしいのですか。タルドはまだ経験が浅く、帝国は広うございます。迷子になる可能性が」


「セバチャさん」


 カイトが止めた。


「大丈夫だ」


 ライラがタルドを見た。


「タルド様はカキンオー様のそばでよく働いてくださっています」


 セバチャが少し止まった。


「たまには外に出るのも良いですよ」


 タルドが嬉しそうになった。


「ありがとうございます、ライラさん!」


「気をつけて行ってきてください」


「はい! カキンオー様、行ってきます!」


 カキンオーが頷いた。


 二人が出発した。


 セバチャが見送りながら手帳に何かを書いていた。


 ライラが横目で見た。


 見なかったことにした。


───



 帝国は大きかった。


 タルドは城門を抜けた瞬間から、キョロキョロしていた。


「でかい」


 カイトが隣を歩いていた。


「城ばかりいるからそう感じるんだろ」


「でも本当にでかいです」


「まあな」


 市場があった。


 人が多かった。


 屋台が並んでいた。


 タルドが立ち止まった。


「カイト様、あれは」


「歩くぞ」


「でもあれが」


「歩くぞ」


 タルドが渋々歩いた。


 でも首だけ振り返っていた。


───



 祭典の会場に向かう途中だった。


 カイトが少し先を歩いていた。


 タルドが屋台を見ていた。


 串焼きだった。


 いい匂いがした。


 一本買った。


 食べた。


 うまかった。


 もう一本買った。


 食べた。


 また一本。


 気づいたらカイトがいなかった。


「カイト様?」


 いなかった。


「カイト様!」


 人混みだった。


 見えなかった。


 タルドが周りを見渡した。


 どっちに行けばいいか分からなかった。


 とりあえず歩いた。


 路地に入った。


 余計に分からなくなった。


 壁にもたれて立っていた。


 そこに。


「おい、邪魔だ」


 声がした。


 振り返った。


 若い男だった。


 腕を組んでいた。


 目が鋭かった。


「す、すみません」


 タルドが壁から離れた。


 男が通り過ぎようとした。


 タルドが見た。


 腰に剣があった。


 光っていた。


 二色だった。


「あの、その剣」


 男が止まった。


 振り返った。


「なんだ」


「二色に光ってますね」


 男がタルドを見た。


「見たことあるのか」


「いえ、初めてです。すごいですね」


 男が少し鼻を鳴らした。


「当たり前だ。俺が作った」


「え、鍛冶師さんですか」


「チョンパだ。帝国で一番の」


 タルドが目を丸くした。


「チョンパさん! 祭典に出るんですよね」


「なんで知ってる」


「カイト様から聞きました」


 チョンパが少し止まった。


「カイト?」


「はい。カイト様と一緒に来たんです。今はぐれましたけど」


「カイトと一緒に来た、ということはお前」


 チョンパがタルドを見た。


「どこから来た」


「南の城です」


 チョンパが少し動いた。


「あの城の人間か」


「はい! タルドと申します。カキンオー様にお仕えしています」


 チョンパが黙った。


 しばらくタルドを見ていた。


「まさか、祭典に剣を出すのか」


「はい! カキンオー様が打った剣を持ってきました」


 チョンパが少し止まった。


「……そうか」


 それだけ言った。


 歩き出した。


「あの、チョンパさん! カイト様を知りませんか」


「知らん」


「そうですか」


 チョンパが少し間を置いた。


「祭典会場はそこを右だ」


「ありがとうございます!」


 チョンパが歩いていった。


 タルドが右に曲がった。


 カイトがいた。


「タルド、どこ行ってたんだ」


「迷子になっていました」


「串焼きを食べていたんだろ」


「美味しかったです」


 カイトがため息をついた。


───



 祭典の会場は広場だった。


 大きな台が並んでいた。


 人が集まっていた。


 賑やかだった。


 タルドが目を丸くした。


「すごい人だ」


「帝国中の鍛冶師が集まる。3年に一度だからな」


 カイトが剣のケースを持っていた。


 審査員のところに向かった。


「これを出したい」


 審査員が受け取った。


 ケースを開けた。


 少し止まった。


「お名前は」


「匿名で」


 審査員がカイトを見た。


「匿名ですと、順位はつきますが優勝の名誉は受けられません。それでもよろしいですか」


「構わない」


 審査員が困惑した顔で頷いた。


 剣が台に並んだ。


 タルドが遠くから見た。


 知っていた。


 カキンオー様の剣だ。


───



 参加者たちが並んでいた。


 若い者から年配の者まで。


 皆、自分の剣に自信があった。


 その中で、一人だけ違う空気の男がいた。


 チョンパだった。


 腕を組んでいた。


 周りなど眼中にないという顔だった。


 タルドが小声で言った。


「さっきの人だ」


「知り合いか」


「迷子の時に会いました」


 カイトがため息をついた。


 チョンパの周りで、他の参加者がひそひそ話していた。


 生意気だとか。


 口が悪いとか。


 でも腕は本物だとか。


 チョンパは聞こえていないふりをしていた。


 たぶん聞こえていた。


───



 審査が始まった。


 審査員たちが剣を一本ずつ手に取っていった。


 光るもの、光らないもの。


 色々あった。


 チョンパの剣の番になった。


 審査員が手に取った。


 光った。


 二色だった。


 赤と青だった。


 会場がざわめいた。


「二色だ」


「本当に二色光っている」


「チョンパはやはり本物か」


 チョンパが腕を組んだまま前を向いていた。


 当然だという顔だった。


 タルドが感心した。


「すごいですね」


「ああ」


 カイトが頷いた。


「でも」



───



 審査員たちが進んでいった。


 そして。


 カキンオー様の剣に辿り着いた。


 一人が手に取った。


 止まった。


 隣の審査員が覗き込んだ。


 また止まった。


 二人が顔を見合わせた。


 三人目が手に取った。


 また止まった。


 会場が静かになっていった。


 タルドが少し胸を張った。


 カイトが横目で見た。


「何がそんなに嬉しいんだ」


「カキンオー様の剣ですから」


「お前が作ったわけじゃないだろ」


「でも嬉しいんです」


 タルドが前を向いた。


 審査員たちがまだ剣を見ていた。


 なかなか次に進まなかった。


 チョンパが少し眉を動かした。


 気になっている。


 でも動かなかった。


───



 審査員たちが戻ってきた。


 結果が発表された。


「一位、匿名。ただし匿名のため優勝の名誉は辞退とします」


 会場がざわめいた。


「匿名?」


「誰だ」


「なぜ匿名で」


「よって優勝は二位、チョンパ」


 拍手が起きた。


 チョンパが前に出た。


 でも表情が硬かった。


 タルドが誇らしかった。


 胸を張った。


 カイトが苦笑いした。


「帰るぞ」


「もう少し見ていたいです」


「帰るぞ」


「でもチョンパが」


「帰るぞ」


 タルドが渋々歩いた。


 また首だけ振り返っていた。


───



 会場の端で。


 ガドラが立っていた。


 腕を組んでいた。


 チョンパが歩いてきた。


 優勝の盾を持っていた。


 でも表情が優勝者の顔ではなかった。


 ガドラの隣に立った。


 匿名の剣を見ていた。


 台の上にまだあった。


「分かるか」


 ガドラが静かに言った。


 チョンパが答えなかった。


 しばらく見ていた。


「深い」


 低い声だった。


 ガドラが黙っていた。


「くそっ」


 チョンパが台に近づいた。


 剣を手に取った。


 また止まった。


「負けたわけじゃない」


「そうか」


「二色の方が強いはずだ」


「そうか」


 ガドラが何も言わなかった。


 チョンパが剣を置いた。


 それから、また手に取った。


 ずっと見ていた。


「これは、誰が」


 ガドラが少し間を置いた。


「流れだ、と言った人間だ」


 チョンパが止まった。


 ガドラから何度も聞いた言葉だった。


 剣を置いた。


 手を見た。


「このままじゃ終われない」


 ガドラが何も言わなかった。


 それで十分だった。


 会場の喧騒が、遠かった。




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