生まれなかった方が、その者のためにもよかった
ここから、鬱になる展開が増えるので気をつけてください。
個人的に裏切りの騎士モードレッドに鬱々して、元から好みな騎士なんですよね
1
我らは天地創造の頃よりあり
老いも墓場も知らず
したがって力を失うことはなく
原罪は我らに関係はなかった………
神の国に蛇の現れた日よ
呪われてあれ
その日からこの世は堕落し
原初になかった衰弱が始まった
ブランの航海より
2
罪深き子供……その名に恥じない人生だった。
今も思い出す七つの時に死んだ実の母を……
美しい人であった。
「今もその姿にとらわれている」
だからこそ…………涙を見せない義理の父……母を追いつめた臣下、王国と騎士たちの全てを……母を孕ませ消えた実の父………恨んで。ぶち壊した………
予は栄光の王から簒奪した者・卑王メドラウド。
3
今日、ブリテンに蛇が訪れた。
この城を取り巻く蛮族たちがもたらした使者だ。
修道士……蛮族がもたらしたキリストの教えを
説く者だそうだ。
ブリテンの民は罪を知らずに楽園で生きていた。
神々は罪をとがめなかった…… 彼らが現れて罪を知ったのだ。
まるで、禁断の果実のように、ジワジワと心をえぐり続ける。
「王よ。 拝謁させていただきかたじけなく」
予の姿に驚いたようだ……三十後半の者には見えぬか。
白髪もふえ、刻んだしわの数は蛇と同世代の者と納得はてきぬか。
「うむ。修道士殿。会えて光栄だ」
目を合わせず、形だけの言葉を投げかける。
そらした視線のさきは、修道士の護衛へと自然が移る。
双剣の騎士。左の剣は諸刃の剣……右の剣は汚れた麻布で巻かれどのような剣かわからない。
しかし、老いた騎士はどこか自分とにている気がする。
罪の相貌までよく似ている………ような
「双剣か………二心を持つとされる忌むべき騎士だな。修道士殿。あまり信頼するな。ハハハハ」
かわいた笑みでその騎士を見下げていた。
騎士の腰に一つの剣のみ、それは真心、一つの忠誠の証し。
それを二本、二心を表すもの。
蛇の連れた騎士など邪悪な者にちがいのない。
彼は何の感情も示さず、静まり続けている。
つまらない。
飽きた予は蛇に視線を向ける。
そんな、修道士は温和な優しそうに笑む。
彼には彼の目的があるのだろうが、余の目的を先に実行させよう。
かの神に罪を語り許しを与える秘跡があるらしい。
人生の後悔だ。それをただ聞いてほしい………そして、一つの問いの答えを私は知りたいのだ。
「告解を聞いてくれぬか?」
私は口を開く。
4
「罪など知らない……ゆえに人殺しも、姦淫も、自死も悪いことと知らなかった……そなたたちのせいだ……ブリテンの蛇よ………」
侮蔑を与えた。
それはかの神が伝えられる前、我らの神の観念であった。
ドルイド僧たちの言う永劫楽園の話。
「それゆえに、人は罪を覚え、許し、争わぬ事と私は考えております………」
綺麗事で返してくる………わかってしまう……覚えたからこそ、予は罪悪感を下ろしたかったのだ。
「予を知っているか……かの王を殺した……」
予は不義理の王だ……実の父の名は知らない……義理の父は冷たかった……ただ、後継者としてしか見られなかった。
予は父に認めてもらいたかった。母も私を無視され。予は愛を求めたが、無下にされた。
受け入れれない理由を知り、耐えきれず………
「だから、予は蛮族の軍を引い……て……」
そうして、カムランの丘で二つの軍が集まった。
激戦だった……多くの蛮族をひきつれた予は父の軍勢、ブリテン全ての兵が敵として国をうばった。
「予は父を……この国の……全てを荒らした…………王位などいらなかった……壊したかった……全てを……王も、母も実の父も、この国も全て………いらなかった……」
それでも、予はこの国の王となってしまった。
5
予はいらない王位を継いだ……国を蛮族に売り渡し、金貨を支払い続け、略奪を許し続けた。
「それを悔やんでいるのですか?」
賢しく修道士がたずねる。
予は首をふる。
「いな。予は悔やんでなどいない……いな! 予の行為は間違っていない………悪いのはあの王だ!…あの母だ!……知らぬ父だ!!……予をなぜ、なぜ!! 産んだのだ!!!」
激昂し、憤怒は家臣たちにも伝わり青白く震えている。
心のうちにただようドロドロした激情……それはまるで、動脈を静かにグッと短剣を当てて、ゆっくりとジワジワと流血を強いるように。
「壊すなら…… 捨てるなら!……死んだのなら…… 見ないのならば! ……なぜ、産んだのだ!」
「そうだ、あの厳しい王も、美しい母も、知らぬ父よ! ……なぜ余を産み育てたのか! ……なぜ、余を苦しめたのだ! ………予を愛してくれなかったのか!! …………予は……」
吐露するようにこぼれ落ちるような黒い血のように血溜まりがたまるように……予は自傷していく。
ふと気づく……恐怖の意味に………傷は痛みだ……その果てを知りたいのだ……
血を流し果てた五臓をさらした後で、首を骨ごと断ち切られた後の事を予は知りたいのだ……
……その問いを聞くために。
こころに抱く……予と同じすべてを壊した男……イスカリオテのユダの罪。
キリストを銀貨30枚で売り渡し裏切ったイスカリオテのユダも、生まれ変わり罪とは関係のない人生を新たに送っているのだろう。
「修道士よ…………………ユダは死後、どうされた………あの裏切り者は………輪廻をくぐれたのか?」
ドルイド僧がいうには死者は生まれ変わり、新たな人生を生きるという。
予の死後を、蛇の言う神の愛を受け入れられたのかをたずねていた。
しかし、修道士は否定する。
「いえ……人の魂は不滅です……己のままで死後に神の国行く者、地獄へと堕ちて永劫に侮蔑されるものに別れます………」
この醜い自分すらもそのまま、変わることのない死後ずっとずっとこのままなのか………悲しい。
「そなたの神は……人を愛し許すと聞く?」
望んだのかもしれない……求められなかった予を愛してくれる最後の可能性を。
「ユダが許されない……神の愛を裏切ったからです………」
「やはり、裏切りは許されぬか………」
予は拳を握り問う。
「違います。ユダは自殺をしたからです……神が与え、自身で進んだ道を汚したから…………」
そのことに予は目を丸くして、修道士をにらむ。
イエスの裏切りよりも自死のほうが罪が重いというのか……なにゆえ……
「裏切りは神が与えたイエスとユダの運命……その運命を受け入れ、侮蔑されながら生き抜くこそユダの天命でした……ゆえに……」
瞬間……脳裏によぎる……湖水を思いだす……飛び散る何か…………愛して………ほしい……
予は一人にされた…………
ここは古イギリスのケルト的な世界観にキリスト教が取り入れられる最初期の話になります。この時代の変換期は読んでたり、見るの好きなんですよね〜
濃い話なので、好き嫌いあると思いますが、ナイス、コメントしてくれるとめちゃ嬉しいです。
たまにこういう話を書きますが、これからもよろしくお願いします〜




