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 素人の相談なんかで済んだら誰も苦労しない。専門性があったところで金が要る。金があっても、専門家に相談するのはどうだか。


 家は金がなかったからなあ。あの年の娘を仕事に出すのは心苦しかったなあ。


 母親は遊び人。でも父親はそいつのことが好き。救ってくれた人だから。 


 無条件に信じる絶対的な宗教だ。この世の人間に真意を求めるのは的外れ。


 dvを愛の表現の仕方だと思ったことはあるか? 歪んだ愛を共有できる人間を欲したことはあるか?



 私の頭にはいろんな人の言葉が散らばっていた。いつ見たかもわからないような人、言葉、景色が絡まっていた。いつかの夢のように甦っていた。


 そんなのも、数秒経って消えてしまう。残るのは、なんとなくぼやけた抽象的すぎる情景と景観。


 どれだけ待てば救われるかなんて言われても、そんな時期は訪れないと言われているようなものだった。生きる希望、方法なんてそこら中に散らばっている。ただ、私には選択肢が少なかった。それを選んで生きていくしかなかった。


 養子縁組。


 渋々赤ん坊を手放す姿。貴調は嫌がった。里親に赤子を手渡す貴調。


 成長した子どもに会いに行った貴調。母親としてではなくて、里親の友人として。


 それを私は遠くから眺めていた。家の外の塀から見える窓。テーブルに座る小さな男の子と貴調が、白いレースカーテン越しに見えた。


 笑顔が零れた。伝染したように私の口角も上がっていた。


 愛されなければ意味がない。だが、それ以上に、生きられなければ意味も価値も消える。そもそも肉体という実体がないのだから、知的財産のように形として残らないのだ。想いなんて人の心に残るかもしれないという仮定の、形のない財産だ。人間とは、そういうものを駆使して生きている。


 子どもがどこかで生きているから感じられる幸福。いなくなったらどうだ。自分が死ねばなくなるだけの薄っぺらい片想いだ。


 子どもがいるから、貴調は価値を感じられる。


 なあ、今日を生きた人よ。


 今日死んだ人よ。


 あなたに価値はあった。


 誰かにそう思われているか?


 それはわからない。


 でも。


 私は価値があったと思う。


 私がそう思うから。


 少なくとも、私がこの世からいなくなるまでは、私も知らないあなたたちの人生、その価値は消えない。あなたたちの歩いて来た道。苦しみ。途方もない侮蔑。そのすべてに価値を見出せてやれる。


「あなたたちが知らないだけで、誰かからは慈しまれているんだよ」


 神にでもなり切った私は、塀に背負預けてそう呟く。


 名前も知らないどこかの誰か。


 赤ん坊は今日も泣く。


 私の見た赤ん坊は泣かなかった。それどころか、言葉までしゃべりやがる。赤ん坊のくせに、美しき人間様だった。


 私は永遠と探し続けるだろう。この世を去り、肉体を失い、肉片が散り散りになって消化したとしても、満足することなく私は探し続けるだろう。


 この世の美徳とやらを。この世のどこかで今日も起きている不遇とやらを。赤子から逃れる術を。赤子から生きる術を。



 扉が開く音がする。挨拶をする声がする。里親と貴調の声だ。


 アスファルトにまで出てきた貴調は、きょろきょろして私の存在に気づく。


「いこ」

「あんだけ嫌がってたのに。やっぱり来てよかったでしょ? っていうか泣いた?」

「泣いてないわ」


 私と貴調は手を繋いだ。


 挟まれた指は、きっとずっと死ぬまでこのままだ。血とは、こういうことだ。そう信じたい。宗教のように、馬鹿げたことでも、根拠がないことでも、自分がそう思うから私はそう信じたい。


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