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「やっとあけすけになってくれた。誰にも頓着がなくて、生きるために自分の仕事に誇りをもって徹してる」
帰り際にそう言われた。
彼は何も感じなかったのだろうか。
私は感じた。この上ないほどの心臓、身の毛の高ぶりを。彼はそれを「頓着がない」と受け取った。
あけすけになれたのは事実である。事実なはずなのに、その行為がずっと私がし続けていた仕事の一部のようにも思えた。
違うはずだ。対象も行為も感じた想いも与えた想いも、全部違うはずだ。なのに、あとちょっとのところで躓いてしまう。生き慣れてもう何度通ったかもわからないような道の道中で、たまたま見つけてしまう異物。あれ、昨日通ったときはこんなものなかったのに。そう思って、好奇心からその異物に手を差し伸べてしまう。
拾ったのは、小さな蟻だった。どこにでもいそうに見えて、ここにしかいない蟻。昨日もいたはずなのに目もくれなかった蟻を、今日は手に取って不思議がる。そんな感覚。
あくる日もあくる日も、耽った。時間はそのたびに重さを重ねていく。積み上がった時間という荷物は、これからも増幅し続けるだろう。そして、どこかでフッと消えてしまう。忘れてしまう。こんなこともあったなと忘れてしまう。言えなかったな、そんなことが笑い話になる日がいつか来てしまう。それを私は知っていた。




