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もう日は完全に落ちきっていた。この公園にある一本の街灯が、敷地内の砂を照らしていた。
滑り台の向こうの雑草の上に行った。
真夜中の茂みの中、私と歪の身体は、街灯によってふくよかな明るみに晒されていた。立地が山奥とはいえ、公衆の場で二人、動物にでもなったかのようだった。動物と人間の差。飼い犬と人間の違い。きっとそれは同じであっても違う。命に差はないのか。同じだと考えたい。だから、人間とそれ以外の生態系を構成する生き物の違いは、きっと生産性の有無ということなのだろう。
ボノボだって同じホモサピエンスを祖先に持っている。共存していて、進化の過程で別れた。社会性の違い、生態、よくわからないけど、なんかしらの原因因子があってそれぞれの道を辿った。
人間もボノボも頭がいいことには変わりない。けれど、人間はそれをツールに変えた。生きやすさ、便利を追求し、他国と生産性で争うようにすらなった。
自然を殺す。木を伐採した。熱帯雨林は消えかかっている。二酸化炭素はどうなる。ボノボはどこに住めばいい。きっと、何かを犠牲にしなければ何かを手に入れることはできないのだ。便利さは、誰かの礎だ。誰かの喜びは、誰かの生気を吸って成り立っている。生き続けている。
馬を社畜にしても何も問われない。人間を奴隷にすると尊厳を奪うこととなる。人間が充実した日常を過ごすためには、クオリティオブライフを高めるために何かを犠牲にする他ない。
変わらないのだ。目を背けているだけで、戦国時代と変わらない。私たち人間は子孫を繁栄させることをやめず、生き残った。生き抜いた結果だ。
惨い扱いをする客も、皆同じ。生き抜いて手に入れた金を使って私たちを社畜にする。それを逆手にとって私たちは「生き抜く術」とした。
ねえ、歪。この世界は残酷だと思う? 誰かの上に立って生きてるってことを忘れてはならないのだと思う? 私は思わない。だって私が生きてきた証がなくなってしまうから。私からセックスを取ったら、私は誰なの? って道に迷っちゃう。
もう少し頑張れる気がする。
彼は私を拒まない。だから私も拒まない。そのすべてを愛することができる。この今私が触れている少しざらついた肌も、少し脂っぽい鼻も、歪の顔を見ればすべて浄化されて慈しむことができる。そんな絶対的な存在からの意識的な抱擁を感じたことがある?
彼は私の鼻の先に人差し指の先をくっつけた。
微笑みが零れた。
私も。
歪も。
やっとあのときの笑顔が取り戻せたような気がする――。
ねえ、どんな気分? ねえ、どうしたい? ねえ……。
私のこと好き?
「ねえ、」
「やばい。父さん来たかも」
そう言って、慌てて歪は放ってあったシャツを素早く手に取る。被る。私がもたもたしていると、「早く着なきゃ」なんて言って、私に聞く耳を持たないで袴を上からかぶせてくれる。
「先行って父さん止めとくわ」
そう言って走って行ってしまった。
遠ざかっていくのを見て、私は下を履く。
『今を逃せば、どんどん言うタイミングがなくなってきて……』
歪の言葉が嫌に響いていた。




