番外編 03-1:101生存者たちのサバイバルロード
台北101の低層階の階段室。空気には、古びた澱んだ気配と押しつぶされそうな重苦しさが立ちこめていた。
かつては最高峰の社会的ステータスを象徴していたこの空間も、今や残されているのは果てしない疲労感と、責任のなすり合いばかりだった。
上官霆は冷たい壁に体を預けていた。かつては整っていたシャツの襟元はすでに汗でぐっすりと濡れ、すっかり荒れ果てた様子だった。
彼はスマホの画面に表示された残高の数字を見つめ、その顔色よりも、窓の外に広がる月光のほうがまだ血の気があるように見えるほど青ざめていた。
「霆兄、」
「もうこれ以上、この階段室に居続けるわけにはいかないよ。」
百里捷は苛立った様子で赤く腫れた目をこすりながら、かすれた声で言った。
「さっき、下から撤退してきた連中から聞いたんだ。」
「システムが低層階の電力供給も絞るつもりらしいぞ。」
「金がなければ、退路なんてないのと同じだことくらい、」
「俺だって分かってるわ!」
上官霆はガバッと顔を上げ、その瞳に荒々しい怒りの色が走った。
彼は視線を向け、隅っこで縮こまっている皇甫柔と、これまでずっと黙り込んでいた上官三姉妹へと振り返った。
上官婉、上官璇、上官語の三人は身を寄せ合い、かつての洗練されたメイクはすっかり崩れ落ちて、ひどくか弱げな様子をさらしていた。
「小柔、」
「お前の手元には、まだ少し異幣が残ってるはずだよな?」
上官霆は声を潜め、できるだけ相談を持ちかけるような口調にしようとしたが、その言葉に滲む切迫感を隠しきれなかった。
「私……」
「私のコインは昨日のホテルの宿泊代で全部使っちゃったわよ。」
皇甫柔はうつむき加減になり、スカートの裾を指先でぎゅっと握り締めた。
「もう数百コインしか残ってないの、」
「きれいな水を一本買うのすら危ういくらいよ。」
「くそっ!」
上官霆は階段の手すりをものすごい勢いで蹴り飛ばした。乾いた金属の衝突音が、静まり返った階段室にひときわ耳障りに響いた。
周りで休んでいた何人かの学生たちがその音に驚いて目を覚まし、嫌悪と恐怖が入り混じった視線をこちらに向けてきた。
だが、かつての御曹司やお嬢さまたちである彼らは、もうそんな体面など気にかけていられる状況ではなかった。
その時、A11館の方から走ってきたばかりの一人の学生が、息を切らしながら周りの人間と情報を交換し始めた。
「聞いたか?」
「体育科の連柏睿の奴らが、」
「さっき外から何かを狩って持ち帰ってきたらしいぞ。」
「なんか光る石だとかで、あんなの絶対とんでもない価値があるってみんな言ってるんだ。」
その言葉はまるで水面下の爆弾のように、上官霆の目を一瞬でぎらつかせた。
彼は顔を背け、不安そうな表情を浮かべている皇甫柔へと視線を移した。その胸の内で、歪んだ欲望が雑草のように猛烈に生い茂り始めていた。
「シャオロウ。」
上官霆は声を和らげ、皇甫柔の目の前へとゆっくり歩み寄ってしゃがみ込んだ。
「お前、昔サークルで連柏睿と結構仲良かったよな?」
「あいつ、今いいものを持ってるんだ。」
「お前がちょっとあいつのところに行って、話をまとめてきてくれないか……」
「話をって、何をよ?」
皇甫柔は顔を上げ、澄んだ瞳に戸惑いと不安の色を浮かべた。
「俺たちは今、戦力もないし、余分なコインもないんだ。」
上官霆は歯をくいしばり、彼女の耳元で低い声で囁いた。
「今、外の連中がざわついてるんだよ、」
「あいつが荒野から光る宝石を持ち帰ってきたってな。」
「あんな代物は、今みんな喉から手が出るほど欲しがってるはずだ。」
「あいつみたいな男ってのは、」
「こういう状況で一番飢えてるのは『癒やし』なんだよ。」
「お前が少しだけプライドを捨てて、」
「女の武器ってやつを使えばいい。」
「そうすれば、あの石の分け前をもらえるかもしれないし、」
向こうのグループに合流させてくれるように頼み込むことだってできる。
「あっちに行けば、こんな惨めな思いをしなくて済むんだよ。」
皇甫柔は呆然とした。目の前にいるこの男を、かつて「憧れの先輩」と呼んでいたことが信じられなかった。
「上官霆、」
「あんた……」
「今、自分が何言ってるか分かってるの?」
「私に体を売って、石を持ち帰れって言うわけ?」
「それを『適材適所』って言うんだよ!」
上官霆の表情が歪み、かつて文明の皮の下に隠されていた身勝手さが完全に露わになった。
「まさか、俺たちと一緒にここで飢え死にしたいわけじゃないよな?」
「それとも、あの外の連中が這い上がってきて、お前たちをめちゃくちゃにするのを待つつもりか?」
傍らで聞いていた上官三姉妹の一人、上官璇が思わず悲鳴を上げた。
「お兄ちゃん、どうして小柔にそんなこと言うのよ?」
「黙れ!」
上官霆はガバッと振り返り、その目に血の通った家族への情けなど微塵もなく、剥き出しの生存本能だけがギラついていた。
「お前ら、自分がいつまでお高くとまっていられると思ってんだ?」
「小柔が行かないなら、」
「次は お前ら三人の番だ。」
「今のこの世界じゃ、お前らのその顔面こそが唯一のハードカレンシー(硬貨)なんだよ!」
階段室の空気が一瞬にして凍りついた。
皇甫柔は全身を震わせながら立ち上がり、瞳に涙を溜めながらも、その視線は徐々に冷ややかなものへと変わっていった。
「上官霆、私、あんたのこと本当に見損なったわ。」
「絶対に行かないから。」
「勝手にしろよ。」
上官霆は冷や笑いを浮かべ、周囲で同じように追い詰められている男たちへと視線を移した。
「だったら、残りの食料の分け前も一切なしだ。」
「今すぐ俺たちのグループから出ていってもらうからな。」
皇甫柔は、普段は「兄弟」などと呼び合っていた男たちが、いまや獣のように牙を剥き出しにしている姿を見つめた。
そして、同じようにおびえ、助けを求める上官三姉妹へと目を向けたのだった。
「お姉ちゃんたち、行くよ。」
「どこに行くのよ?」
上官婉はしゃくり上げながら尋ねた。
「A9へ行くわ。」
皇甫柔は涙を拭い、その瞳にかつてないほどの強い決意の色を宿した。
「あそこの昫凌煙たちのところに行きましょう。」
「どう転んだって、こんな畜生どものそばにいるよりはマシよ。」
四つのか弱い後ろ姿は、周囲の視線に晒されながらも、ふらふらとした足取りでA9へと続く連絡通路へ向かって歩き出した。
そして彼女たちの背後には、上官霆の嫉妬と計算に満ちた冷徹な視線が、まるで影のようにまとわりついて離れなかった。
この亀裂により、かつて華やかだったお坊ちゃん・お嬢さまグループの崩壊が決定的なものとなったのだった。




