第05節 第1回 彩乃はなぜ拓也に告白したんだよ会議
「どういうことよ!」
うおっ、ビックリした!
いつの間にか復活していた美咲が、耳元で叫び声をあげた。
「だから、言っただろ。コクられたって」
ちょっと鼻高々に答える。
「おかしい……。こんなの絶対おかしいよ」
どうあっても納得がいかないらしい。
美咲はブツブツつぶやき、頬に手を当てる。
「これは……犯罪の匂いがするわ」
そこまで言うか。
「アニキ、あの人に何したの!」
しかも、犯人は俺かよ!
「だって、おかしいじゃない。あんな美人にモテる要素がアニキのどこにあるってのよ!」
「そ、それは……」
言葉に詰まる。
彼女が俺を好きになった理由なんて想像もつかない。
「ほら、やっぱりないんじゃない!」
美咲はそれ見たことかと言わんばかりに畳み掛けてくる。
だが、ここまで言いたい放題いわれて、何も言い返せないのは癪だった。
何かひとつでも反論してやりたい。
俺のモテ要素……。
うーん、なにか、なにかないか?
軍師たちに尋ねるが、どいつもこいつも頭を垂れて押し黙るばかり。なんと使えないやつらだ!
「や、優しいところ……とか?」
苦し紛れに答える。
「あんな美人の前ならどんな男でも優しくなるっての。もっとマシな理由はないわけ?」
「今まで話したことすらなかったんだぞ。まるで見当つかねえよ」
入学当初からその類まれな美貌で目立ちまくっていた彼女とちがって、俺はその他大勢の中に埋もれていた。
どうして彼女は俺を知っていたんだろう?
接触はなかったはずだ。そんな嬉しいことがあったら忘れるはずがない。
小中は学校がちがうし、学校の外でも見かけた記憶もない。
ということは、アニメなんかでありがちな、じつは幼少期に知り合っていたってやつか?
――仲良く公園でママゴトなんかしていて。
「タクヤくん、大人になったら、お嫁さんにしてね」
「う、うん」
「きっとだよ。約束だからね」
「ゼッタイだ、約束する」
「じゃあ、指を出して、指きりしましょ」
「ゆーびきーりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーますー」
へへへ……。
記憶がないことをいいことに都合のいい過去を捏造する。
「なにニタニタ笑ってんのよ。マジキモイ」
現実世界に呼び戻された。
「悪い。ちょっとトリップしてた。じつはある仮説を思いついたんだが――」
「……んなのあるワケないじゃん。そういうのはアニキの好きなキモイアニメだけにしてよね」
俺の説を一笑に付すと、蔑むような視線を投げかけてきた。
まったく、夢のない。
「そんなありえない妄想はいいから、もっと現実路線でいこうよ」
「現実路線ってもなあ」
「そうねえ。考えられることといったら……」
美咲は顎に指を当て、暫し考え込む。
そして、何か思いついたらしくニンマリした。
「たとえば宗教の勧誘とか?」
泣きたくなるくらいに現実的だった……。
「○○学会とか、○○の科学とか、そういうのあるじゃない。デートしてあげるとか言われて、アニキがホイホイとついてった先は、じつは青年部の事務所で、気がついたら入信させられているってオチ」
美咲は手のひらを合わせる。
「うん! これならあたしも納得できる!」
「オイ! 勝手に納得すんな!」
それが真実だったら俺の心は折れる。
ポッキリと。
「だって、アニキよく言ってるじゃん。公明の罠だって」
「孔明ちがいだよ!」
「アニキの妄想より、よっぽど説得力があると思うけど。だったら反論してみなさいよ」
「えっと、だな。も、もし、そんな目的だったとしたら、俺なんかより、もっと他のやつを選ぶだろ! 家が金持ちだとか、頭がいいとか! 彼女と俺じゃあ、まるで鯛で海老を釣るようなもんじゃないか」
自分で言ってて悲しくなってきた。
「む、たしかに。いや。でも案外アニキみたいなのがいいのかもしんない。こんな普通の人も信者さんなんですよって、警戒心が下がるだろうし」
な、なるほど。そういう考え方もあるか……って、何を納得しかけているんだ俺は!
「うん、絶対そうだって。それとなく、探りを入れてみなさいよ」
どうあっても彼女を信者にしたいらしい。
否定したいのは山々だが口惜しいことに、俺の説よりはまだ現実味があるということもまた事実だった。
「それとなくって、どうやって聞けばいいんだよ」
「もー。それくらい自分で考えなさいよ」
美咲は腰に手を当て、呆れた顔をする。
でも一応考えてはくれるらしい。再び顎に指を当てて思案する仕草をした。
「エル・○ンターレについてどう思う? とか?」
「直球じゃねえか! てか、その質問した時点でフラれるわ!」
「文句ばっかり」
美咲はやれやれとため息をつき肩をすくめた。
「まあ、いいわ。あたしのほうでも、調べといてあげる」
「調べる? どうやって?」
「あの人と同じ中学出身の子を探して話を聞いてきてあげる。あれだけの美人なら、きっと中学でも有名だったと思うし。何かわかるかもしれないでしょ」
「スマン、恩に着る!」
ペコリと頭をさげる。
「この貸しは高くつくからね」
美咲はいたずらっぽい笑みをみせた。
「ああ、わかっている。今度、何か美味いもんでも奢ってやるよ」
よしよしと美咲は腕組みして満足げにうなずく。
しかしだ。
今回に限って、どうしてこいつはこんなに協力的なんだろう。ふだんは俺のことなんか石ころ扱いなのに。
不思議に思って、まじまじと見つめていると、美咲はちょっとムッとした。
「な、なによ。何か言いたいことでもあるわけ?」
「いや、えっとだな。どうして、俺のために力を貸してくれるんだろうなって思ってよ」
「や、やめてよ。べつにアニキのために協力してあげてるんじゃないんだから!」
「へ? 俺のためじゃなければ何だっていうんだ?」
首を傾げると、美咲はイラついたのか、顔を赤くした。
「だーかーらー、アニキが恥をかくだけならいいけど、一緒の学校にいるあたしまで恥ずかしい思いをするのはごめんだってこと!」
あ、なるほど。得心がいった。
それにしても……。
顔を真っ赤にして否定する姿を見て、不覚にもある言葉が脳裏に浮かんだ。
「何よ。ニヤニヤして、まだ何かあるわけ?」
「いやあ、ちょっとツンデレっぽいかなっ――」
次の瞬間、顔面に枕が直撃した。




